17 0.04乱視あり
アリアは馬鹿だ。実際、頭が悪いと言うよりも、行動が可笑しい時がある。
自分で作って贈った魔法石の効果で気づかなかったのか。いや、そもそも家族が対処していて当たり前のことだ。
「かなりの近視ですね、恐らく乱視も入っているようです」
シファヌを見ていた医師をこちらに呼び、確認の結果に愕然とする。
「眼鏡なしでよく生活されていましたね」
お抱えの女医が少し呆れている。
「明日にでも眼鏡商を手配する」
「一度精密な検査をしてからの方がよろしいかと思いますので、眼科の紹介状をお出しします」
「ああ」
きょとんとしたままのアリアがこちらの会話を聞いて首を傾げている。
アリアは、人の顔を覚えるのが苦手だ。それは魔法石の効果で興味が出ないのだろうと解釈していた。それに加えて他人に興味がないのだと思っていた。
だが、ぼやけて細部が見えなかったのだ。声を聞いたり、近くで話せばわかるだろうが、すれ違う程度では以前会話した相手でも判別できないのだ。
シファヌが復活したので、立ち合いをさせてついでにアリアの健康診断も頼んでおく。他に何かあってはたまったものではない。
執事に明日の予定の変更と、眼科医と眼鏡屋の手配を頼む。
これまで、気づく機会はいくらでもあったはずだ。
勉強を教えるときに、不快そうに目を細めていたのは文字を読むためだったのだろう。簡単なことも理解できないと割り切っていたが、授業が理解できないのは板書され文字が読めないことが多かったからだ。
アリアは教えれば理解はしてくれる。多少計算が遅いのは元からのものだろうが、そうでなければギリギリとはいえ上位の成績には入れない。
アリアの幸せをと言いながら、本人をしっかりと見ることもせず、障害があることを見落とし続けていた。
アリアに好かれないように、一定の距離をとり、あまり優しく接しないように心がけてはきた。万が一にも愛着を持たれ、婚約を撤回したときに悲しませないためだ。
婚約破棄を言い出したのを考えれば、その策は成功していたが、結果として、アリアの管理を犠牲にしてしまった。
屋敷の執務室に、診察を終えた女医がやってくる。
元々アリアのために雇った医師だ。
「お体に問題はありませんでした。いくつかの魔法陣を使用していますので詳細は後ほどお届けします」
「わかった」
簡易の報告書を受け取り、退出させる。
「……」
視力が悪いことに気づけなかったように、何か見落としているのではないかと、決してやましい気持ちでもなく不安から報告書に目を通す。
アリアのための服に関してはアリアの母親の協力のもと仕立て屋へサイズの提供をして作らせている。だが、直接見たわけではない。
身長や体重は、見た目よりもある。体重に関しては、筋肉の関係もあるだろう。
スリーサイズに関して、数値を見てもピンとはこないが、Fカップと書かれている項目を見て、そっと目を瞑った。
前世の記憶でも、女性の脅威の……胸囲のサイズに詳しかったわけではない。今生でも、それがどの程度の違いか明確に理解しているわけではない。
ただ、はっきりとわかることは、大変にたわわな胸だということだ。
他には脂肪が付いているようには見えないというのに、なぜそんな場所に無駄に脂肪を蓄えているのか。
いや、大きな胸がどうだとか、小さいからどうという問題ではない。彼女に対してそんなことで右往左往する私の小根の問題だ。
「ぐっ」
アリアの顔はとてもいい。その上、こんな非現実的な数値の体をしていれば、どれだけ魔法陣で誤魔化そうとも男の視線を止めることなどできないだろう。
彼女が彼女でさえあればいいというのに、なぜ、こんな無駄なスペックばかりいつもいつも搭載されるのか。そのせいで、彼女は前世でも悲惨な目にあってきたのだ。平凡な顔に生まれていて欲しかった。
アリアに、音楽専攻は辞めるように説得しなければならないというのに、頭の中に「F」という文字が焼き付いて離れない。
いっそ親子ほど歳が離れていればよかったのにと自分の体を恨む。
十九の体は、多感だ。そして、前世の記憶があろうとも、精神年齢が単純に生きた年数プラスされるわけではないのだ。




