15 歌の被害者
アリアのための魔法陣は、かなり試行錯誤をしている。正直言って商業用の物よりも時間も金もかけている。
アリアに渡しているネックレスはその時の最高傑作といっていい出来だった。
いくつかの魔法陣を積み込み、普通に売れば今使っている屋敷くらいは買えるだろう。
居場所の特定や解毒は最低機能として、他にも周囲の音などに靄をかけ、噂が耳に入らないようにしていた。周りに感心を持たせないための物だ。魔力供給をしている本人だけでなく、周りにも似た効果を発現させる。これに関しては、あまり効果が出ていないが、見た目を変える訳ではないので仕方ないか。
そして、アリアの魔力を吸い、魔力を減らすことと、周囲へのアリアの魔力の影響を軽減させる効果がある。
目立たないように一つの宝石に詰め込んだが、新たなものではアリアの魔力の影響を抑えるものと、それとは別に個々の目的に合わせた魔法陣を組み込んだ小型の魔法石を用意した。
この石はアリアが触ると黒に変わるため、それを見越して合わせて魔法石を織り込んだ糸で作らせたレースに取り付けている。
私への効力が低下しているのを考えれば、もう壊れる可能性がある。
「まずまずか」
効力の実証を学校が始まる前にしておきたい。
微調整の前に、アリアに付けさせるか。
アリアに似合うように、そして効力を強めるために、今回はチョーカータイプだ。
以前の物は目立たないようにと言っていたが、今回は婚約破棄などしていないと示すために見える位置でいいだろう。
「ヴァーナード様、作業中に失礼いたします。ユナより急ぎの報告があると。いかがしましょう」
ユナはアリアに勉強を教えているはずだが、急に会社に来たとなれば何か理由があるだろう。
「すぐに向かう」
チョーカーを箱に入れ、懐にしまってから工房から出た。
「申し訳ありませんヴァーナード様」
「いい、何があった?」
頭を垂れるユナに問う。
義母妹ではあるが、実際は部下でしかない。見捨てれば、アリアが知った時に支障が出るから支援をしているだけだ。
「アリア様が、四年生では音楽専攻を申請していると話しておりました。ご存じであれば、お時間を取ってしまった事を謝罪いたします」
「アリアは一般専攻のはずだが?」
「教師から勧められ、声楽を学ぶと伺いました」
よりによって歌うつもりか。
「ターリスに確認させてくれ。私は一度アリアと話してくる」
帰ってから話を聞いてもいいが、申請を変更するには本人と保護者の了承が必要になる。万が一、専攻を変えているならば対処は早い方がいい。
マルクスに予定調整を任せ、陣車で屋敷へ戻る。
アリアは馬鹿だと思っていたが、本当に馬鹿だったのか……。
屋敷に着くと、すぐに執事が駆け寄ってきた。
「ヴァーナード様、たった今会社へ連絡を出しましたが……行き違いとなってしまったようですね」
「何があった」
急な知らせが必要な事にざわりと不安がよぎる。
「それが、アリア様が一人下に降りてこられ、シファヌが倒れたと。現在は医務室にて休ませていますが、アリア様はそちらに」
「倒れた?」
「原因は不明です。医師を呼びましたが、眠っているだけのようだと」
「………」
少なくとも、倒れるほど不健康には見えなかった。
問題が見つかっていないと聞いて、嫌な予感しかしない。
医務室に向かい、中に入ると既にシファヌは起きていた。だが、アリアに縋るように抱き着いている。泣いているようだ。
「アリア」
「ヴァーナード。あの、シファヌ先輩が急に泣いたと思ったら倒れちゃって、それで、少し前に目が覚めたんだけど、また泣いちゃって」
シファヌをあやしながら、アリアがおろおろと言う。同性とはいえ、アリアが抱き寄せているのに僅かにいら立つ自分がいた。
執事に手で下がるように指示をする。人払いが済んでからため息をつく。
「アリア、お前、シファヌに何か歌ったのか?」
「え、あ……歌を聞きたいって言われたから、夏野菜の歌を」
「……」
題名のセンスのなさは置いておこう。
「アリア、渡していたネックレスを見せてくれ」
「へっ」
アリアがすっちんきょな声を出して、そっと視線を逸らした。
「………付けていないのか?」
壊れる間近だと判断していたが。そうではなく、付けていなかったのか。
「あれだけ、ずっと付けていろと言っただろうっ」
「だっ、だって、色々あって」
「どうせ壊しでもしたんだろう」
何かあれば言えと言っておいたと言うのに。
「今、ネックレスはどうでもいいでしょ」
「どうでもよくない」
声が荒くなる。
「ヴァーナード様、アリア様を、責めないでくださいませ」
シファヌが嗚咽を抑えられない状態でアリアを庇う。
「アリア、様は、悪く、ありません」
何の防御もなく、アリアの魔力を喰らった人間の状態に頭が痛い。
「リリア夫人も、お前に人前で歌わないようにと、きつく言い含めていたはずだが」
「……人前って言っても、ちょっと、歌っただけだし」
「私が、アリア様に強請ってしまったんです」
はたから見れば、とんだ束縛男のようだろう。
婚約者に、歌一つ歌うことを許さないのだ。だが、それは必要なことだ。
「アリア、上で話がある」
「えっと、でも、シファヌ先輩が」
私よりもメイドを優先するアリアにいら立つのは、アリアが無防備だからだ。調整が済んでいないとはいえ、チョーカーを持ってきたのは正解だった。
「アリア様……わたくしは、大丈夫です」




