14 来年の専攻について
お友達ができた。
大変によろこばしい。
名前はユナちゃん。平民だから姓はないらしいけど、とても優秀な女の子で、賢くてかわいい。
そんな手紙をしたためる。
実は家族からお手紙が来たので、その返信である。
まあ、母と長兄アリフォードからは婚約破棄とか馬鹿言ってないで、そっちで花嫁修業でもしていろと書かれ、父からは楽しく過ごしなさいと言う暢気な言葉と多分猫? と首を傾げたくなるような不気味なイラストが添えられていた。
次男アリルドからは手紙がなかった。一番構ってくれる家族なのですこししょんぼりだ。
手紙には、予定していた過酷ないびりや嫌がらせもなく、冷風魔法陣のおかげで夏でも涼しく楽しく過ごしているうえ、念願の友達ができた事を伝えておく。
「ご家族へのお手紙、確かにお預かりしました」
シファヌ先輩が受け取る。ヴァーナードからの手紙と一緒に届けてくれるのだ。
「アリア様は、ご家族仲はよろしいのですか?」
「家族は、仲がいいものではないんですか?」
聞かれたことが当たり前すぎて問い返してしまった。
「それぞれ、だと思います。子供は親を選べませんし」
「確かに。あ、でも、母からは厳しく指導されてましたよ」
親も子供を選べないが、最低限の教育で自分が求める子供になるように近づけることはできる。まあ、思い通りにはなっていないだろうが、それでも、母の最低ラインは多分到達している。
「指導……ですか。その、どのようなことですか?」
何故か少し心配したような声で問われた。だが、心配されるのも仕方ない。
「あまり、人様には言うなと……」
「お世話をするうえで、配慮しなければなりませんので、お教えいただけると助かります」
そう言われてしまい、答える。
「母の指導は厳しかったです。泣いても許してはくれませんでした」
思い出しても可哀そうだった、父たちと思う。
「技の指導で、兄と父は、私や母に何度も投げ飛ばされ……。私の護身術が一定レベルになるまでは、投げ方も下手だったので、何度となく痛い思いをさせてしまいました。父と兄たちが」
「はい?」
真剣に聞いていたはずのシファヌ先輩から変な声が出る。
「え、母の指導の話、ですよ」
「その、作法の教育ですとか、勉学、淑女教育では?」
「礼儀作法は、武術と一緒にさせられました。勉強は、時間の無駄だと諦めてくれました。母はとても合理的な人ですから」
「そう……ですか」
「おかげで、私は、免許皆伝を頂いています。暴漢が出たらいつでもシファヌ先輩を助けてあげます!」
「いえ、そういう場合はまずわたくしがアリア様の盾となりますから」
「メイドさんも、武道が必須なんですか。こんな細かく色々仕事があるのにっ」
私に課せられたのは、自分の身を守れる程度の強さを得ることだけだった。だが、メイドとして働いて彼女たちのタスクの多さに慄いている。
その上、護身術まで習うのか。
「……。その、ご実家でお辛い目に遭うことなどは?」
「最近は昔と違って貧乏でもないですし、兄と悪戯して母にキレられて吊るされることはあっても、楽しく過ごしていましたよ」
言った後、吊るされたことは言わないように言われていたのを思い出した。
何をしたのか忘れたが、アリルド兄と一緒に、木に吊るされたことがある。楽しい思い出だ。
「アリアさん、よろしいですか」
そんな話をしていると、約束していたユナちゃんがやって来た。
「お勉強の、時間ですよ」
「うゔぅ。はいっ」
ヴァーナードから、仕事の時間をいくらか勉強の時間にされてしまった。
学校で教えてくれていた時同様に、婚約者が落第しては困るからと言われている。
ユナちゃんはヴァーナードより優しいが、見逃してくれるほどやさしくない。
因みにこれまでの長期休暇の課題は、兄達が手伝ってくれていた。兄達と違って、ユナちゃんは答えは教えてくれない。
そんな感じで日々を過ごしていた。
今日の目標を達成すると、シファヌがお茶とお菓子を持ってきてくれる。これがあるから、なんとか頑張れる。
「そういえば、アリアさんは一般科の予定ですけど、専攻は取らなかったんですね」
ユナちゃんに問われて首を傾げた。
そういえば、前に話したときはヴァーナードから来年は一般科だけにするように言われてそれで出していたのだ。その後忙しくて会わず、婚約破棄をばばーんと申し出て今に至る。
「先生から勧められて、音楽専攻を取ることになった」
「……音楽、ですか?」
驚いたような顔をされた。
「うん。兄が音楽専攻だったから、先生が興味があるならどうかって。専攻があったら、一般科が……多少テストが悪くても……、卒業できるって聞いたし」
「アリアさんは、何か楽器が弾けるんですか?」
「ピアノは少し。兄ほどではないけど。あ、でも、音楽だけど声楽だから、歌を歌うのは上手だから」
暇があればずっとピアノを弾いていたアリルド兄に比べれば、上手いとも言えないレベルだが、歌は母にも褒められている。
「もう、申請は出されているんですか?」
「? うん」
答えると、ユナちゃんが立ち上がる。
「すこーし、失礼しますね。ちょっと急用を思い出してしまって」
そう言うと、部屋を出て行ってしまった。
「どうしたんでしょうね」
シファヌ先輩に問いかけると、シファヌがこちらを見ている。
「あの、アリア様……」
シファヌ先輩が困ったような感じで問いかける。
「もし、よければアリア様の歌を聴かせていただけませんか?」




