10 元気の出るお茶 被害者2
スオウ社は、かなりの規模の会社になっていた。
アリアを見つけてから九年。それ以前から見つけた時のための準備はしていたが、会社は十歳で興した。
無論、簡単ではなかったし、数年前までは別に責任者も置いていた。
若さというのは利点であることが多いが、若すぎたことで苦労も多かった。
優秀な部下が多いとはいえ、社長を名乗る以上やる事や確認することも多い。その上、少し前まではアリアのためだけに学校にも通っていた。
幸か不幸か、卒業したために少しは時間に余裕ができるだろう。
「おはようございます。ご主人様」
「ああ」
朝食の準備のために入室したアリアを見て、つい、スカートに目が行く。いや、あれ以来、胸にも目が行くが。
下の調理場からここまではシファヌが運んでくる。アリアを他の従業員と、まだ会わせていないのだ。
自由のない生活を強いているのに、アリアは案外と楽しそうに働いている。
こちらの苦労と心配などどこ吹く風だ。
「今日は、クロワッサンなの、ですよ」
シファヌに対しては比較的まともな敬語を使うが、主人である私にはどうにも不慣れな言葉遣いになっている。
「そうか」
とても素っ気ない言葉しか出ない。
「普通の丈のメイド服を着てもいいんだぞ」
ふわふわ揺れるスカートに目が行ってしまい、そんなどうしようもない言葉が口から出る。
「ああ、こっちのほうが動きやすいし、涼しいから。です」
「アリアさん本人の希望です。強要はしてません」
必要事項以外は話さないシファヌが言う。これは必要な申告なのだろう。
「そうか……」
つい、目が行ってしまう。邪でダメな自分が悪いのだ。
アリアに勉強を教える間、人のいない教室を準備させていた。邪魔が入らないように徹底させていたが、こんな罰せられるべき感情は抱いていなかった。
どちらかと言えば、理解力の低いアリアにどう勉強をさせるかに苦心していた気がする。いや、アリアとの二人の空間は私にとって大事な時間ではあったが、保護者のような立場だった。
ふと、視線を上げアリアの胸元を見る。胸が見たいのではない。渡していたネックレスをしているか気になったのだ。
普段から服の中に隠すように言い、目立たないものにしていた。
もしかすればその効力が減っているのか。
アリアの魔力を使って起動させている。魔力が足りずに発動しないと言うことはないだろう。だが、核に使っている魔法石と魔法陣は消耗品だ。
そろそろ、新しい物を渡そうと開発はしていたが、早くに仕上げたほうがよさそうだ。
朝食の皿を片付けるアリアに無意識に目が行く。それを無理やり向きを変えて新聞に視線を移す。
竜王国のことが記事に載っている。
先王がお隠れになり、現在の王政へ不満があるものが一部で暴徒化しているようだ。その上、国は徴兵に乗り出す予定だと書かれている。
マルクスと話したように、竜王国はハンサウット国へ戦争を仕掛けるつもりのようだ。内部を安定させるために外敵を作るのはよくある手法だ。
それがうまくいくとは限らないが。
ハンサウット国には、直接彼女を害したものはもう生きていないだろう。前世ではなくそれよりもさらに前のことだ。
だが、あの国に根強く残る宗教はいっそ滅ぼしてもいいかもしれない。
人が歪めた神の名の下に、一人の聖女を魔女と断罪して処刑したのだ。ならば、その大罪を犯した教会と言うシステムを滅ぼされても仕方がないことだろう。
「ご主人様。お茶です」
アリアが、ドヤ顔でお茶を置いた。
色味は黄金色て美しい。
「あ……」
シファヌが遅かったというような顔をしている。
「お茶を淹れる修行をしました」
溢れ出る自信のどこも信用ができない。
手にとって、一口飲む。
確かに前飲んだ茶とは風味が変わっていた。
喉に留まる嫌な生臭さ。鼻に抜ける酸味のある香り。そして口いっぱいに広がる花の甘ったるい味とその後から怒涛の勢いで迫り来る渋み、それを追い越すエグ味。
「………」
これは、罰だ。そう言い聞かせ、息をせずに一気に飲み干した。微妙に温いのがまたなんとも言えない。
アリアがシファヌの方を振り返って、飲んでくれたと無言で語りかけている。尻尾を振っている幻視が見えるようだった。
そんなバカな姿も、可愛いと思う自分に、もう一杯まずい茶を出して欲しい。
ごはんシーンを描くのが好きですが、
アリアの不思議な味のお茶のシーンも案外好きです。
ぎりぎり飲み物の味です。
どうでもいい話ですが、ハリボのリコリス味のグミは日本人の九割が受け付けない味なので、不味いもの食べたい人にはお勧めです。たまに食べられる、え、美味しいという人もいますが……
アリアのお茶は、万人に不味いと言わせるので、このグミの更に上です。
この少し下にある☆☆☆☆☆をぽちっと押してもらえると大変喜びます。
もちろん数は面白かった度合いで問題ありません!
ついでにイイねボタンやブックマークをしてもらえると、さらに喜びます。




