その夫婦、異界を駆ける
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目を覚ますと、そこは薄暗い森の中だった。
草木の匂い、土の感触。
そして何より、横から不安そうに顔を覗き込む妻、舞那の表情。
逢魔 走馬《おうま そうま》は一瞬の困惑の後、冷静に状況を分析する。
「まさか、本当にこんなことになるとはな…」
自身も舞那も、オタク文化にどっぷり浸かっていたため、この状況が何を意味するか瞬時に理解。
異世界転移。しかも、夫婦揃って、だ。
「ソウくん、腕に…変な光の紋様が浮いてる」
舞那が自分の腕を見せ、続いて走馬の腕を指す。
そこにはうっすらとだが、確かに不思議な紋様が浮かび上がっていた。
「これが…スキルってやつか。しかも、やけに身体が軽い。これは…いわゆる『チート』ってやつだろうな」
自らの身体に満ちる異様な感覚と、知識として知る異世界物のテンプレートが合致していることに、半ば呆れ、半ば納得していた。
そして、すぐに舞那と顔を見合わせる。
「…人前でこんな力使ったら、確実に目立つぞ」
「うん。面倒なことになりそうだね」
企画職として、常にリスクとリターンを冷静に計算してきた走馬と、その隣で彼の思考を共有してきた舞那は、異世界での"目立つ行為"が、いかに厄介事の呼び水になるかを理解している。
目立つことは全力で避けたい。
奉り上げられるなど御免だ。
しかし何も知らないまま森の中をじっとしているわけにもいかないので、人里を探したい。
「さてどうするか」
「感知魔法で探せないかな?ソナー的な」
「生物であるなら人でない可能性もあるだろ」
「なるほど。魔物まで探知しちゃったら本末転倒か。じゃあ、水の流れを探そうよ。水辺は人や動物の通り道になりやすいから、痕跡が見つけやすいはず」
「『不明なリソースはゼロとして扱う』と言いたいが、夜になる前には人里にも着きたいことは確かだ。仕方ないから、まずは確実な手段で動こう」
見上げても木々が生い茂ってい、太陽の正確な位置がわからない。
そもそも太陽と時間の法則が異世界で当てはまるのかもわからない。
小さく息を吐く。
「私が感知、試してみようか?もし具合が悪くなったら背負ってもらうことになっちゃうけど」
「まあ、仕方ないな。頼む」
感知を試した舞那の指示に従い、ようやく小さな集落にたどり着いたのは夜に差し掛かる頃合い。
初異世界での最初の一夜が野宿とならなかったことに安堵した。
排他的ではなかったその集落で出会った異世界の人々から、国のことや魔法の"概念"を聞く。
魔法とは想像力によって発動するが、その効率を高めるために"詠唱"や"魔法名"が一般的に使われている、と。
走馬は内心で「何のためにわざわざ技名を唱えるんだ?」と疑問を抱いた。
企画職の彼にとって、それは無駄なプロセスであり、却ってイメージを固定化し、思考を狭めるものとしか思えなかった。
舞那も同じ思いだ。
「ソウくん。私たちなら、もっと別のやり方で出来るはずだよね?さすがに魔法名唱えるのは恥ずかしいんだけど」
「ああ。イメージが全てなら、言葉はいらない。むしろ、言葉がない方が、より自由なイメージを形成できる」
二人は、詠唱や魔法名を唱えるという行為を完全に排除した、文字通りの"無名唱"の魔法を発想する。
それは、異世界人にとっては『何もしていないのに結果だけが起こる』という、理解不能な現象に他ならなかったが、二人の無詠唱に気づく者はまだいない。
集落でしばらく過ごして数日、食料調達のため、数人の冒険者パーティが森へ入ると聞いて、同行を願い出た。
そこでこの世界に来て初めて、魔物と遭遇した。
「ゴブリンだ!数が多いぞ!」
一体のゴブリンが、斧を振りかざして冒険者に襲いかかる。
冒険者が慌てて詠唱を始めるが、間に合うのだろうか。
走馬は、思わず前に出ようとする舞那の腕を掴んだ。
「待て、舞那。まだ目立つ必要はない」
「でもあのままじゃ危ないよ」
走馬は外見から予測されるゴブリンの肉体構造を考えた。
無数の可能性が彼の頭の中を駆け巡る。
脳内で最適な"現象"が構築できた時、ゴブリンの足元に"熱"をイメージした。
ゴブリンの足元が、一瞬にして沸騰したかのように蒸気を噴き上げ、ジュッと音を立てる。
ゴブリンは「ギャアアア!」と奇妙な叫び声を上げ、飛び上がって悶絶した。
それはまるで、焼かれたかのような反応だった。
しかし、炎も魔力の光も、何かの詠唱もない。
「え?今、何が…?」
冒険者たちが困惑の表情で、足元から煙を上げるゴブリンと、に見る。
隙ができたことで、他の冒険者がゴブリンを仕留めた。
走馬は「きっと真夏のコンクリートみたいに熱い地面だったんだよな?」とごまかすように舞那に囁き、舞那はそれを聞きながら、困ったように微笑んだ。
その後も、走馬と舞那は目立たないように細心の注意を払う。
別の魔物との遭遇では、舞那が活躍する。
巨大なウルフが仲間の冒険者に襲いかかろうとした瞬間、舞那はウルフの眼前に"空気の屈折率"をイメージした。
ウルフの視界が歪み、距離感が狂って、狙いとは全く違う方向へ飛びかかっていく。
ウルフはそのまま木に激突し、あっけなく戦闘不能になった。
「なんであんな簡単な攻撃が当たらねえんだ…?」
「…ウルフのやつ、変な動きだったな」
冒険者たちは首を傾げるばかりで、魔法についてはほとんど認識していなかった。
二人にとって、他人が魔法を発動するために呪文を唱える姿は、ひどく非効率で、まるで古いコンピューターが複雑なプログラムを読み込んでいるように見えた。
自分たちは、まるで高速プロセッサで瞬時に計算を終え、結果だけをアウトプットしている感覚だ。
しかし、彼らの『目立たない努力』にも限界がくる。
ある日、逢魔夫婦が属する冒険者パーティが、強力なオーガと遭遇してしまった。
巨体から繰り出される棍棒の一撃は、地面を揺らし、周囲の木々をへし折る。
仲間の一人が吹き飛ばされ、木に激突したことで意識を失った。
「くそっ、このままだと全滅する!」
「詠唱が間に合わない!逃げろ!」
誰もが絶望する中、走馬は舞那と視線を交わした。
舞那は頷き、走馬の隣に立つ。
「もう、隠しきれないな」
「うん。大丈夫。ソウくんの隣なら、どこへでも行けるよ」
舞那は微笑んだ。
走馬は、オーガの巨体を構成する物質に、化学反応を起こすことをイメージした。
「……」
脳内では、オーガの体組織の分子構造が、緻密な化学式となって分解されていく光景が描かれている。
そして、その分子の隙間に、周囲の魔素が流れ込み、熱と圧力を伴う分解反応を誘発する。
オーガの巨体が、まるで内部から溶解するかのように、皮膚がブツブツと音を立てながら変色し始め、みるみるうちに崩れ落ちていく。
巨大な体躯が、跡形もなくドロドロの液体となって地面に広がる様は、まさに悪夢だった。
「ひぃっ…なんだ、あれは…!」
「オーガが…溶けた…?」
周囲の冒険者たちは、ただ呆然と立ち尽くす。
彼らは、走馬が"何もしていない"ことを知っていた。
「あれが…魔法か?いや、そんなはずは…」
「え?今の何?炎魔法?いや、でも…何あれ?」
誰かが呟く。
もちろん、走馬はそれが炎魔法とはまるで違うことを知っている。
そして、現代地球の知識と想像力さえあれば、中学生でも、応用次第ではここまで出来る者がいることも知っていた。
しかし、異世界では、その"常識"が全く通用しない。
舞那は、崩れ落ちたオーガの残骸を見つめながら、走馬の手をそっと握った。
「やっぱり、目立っちゃったね」
走馬は苦笑いを浮かべながら、その手を握り返した。
オーガの一件は、瞬く間に集落中に知れ渡り、そして、街へと伝わっていった。
夫婦の『何もしていないのに凄まじい結果が出る』魔法は、異世界の常識を根底から揺るがした。
彼らは、異世界における既存の魔法体系の枠組みを完全に超越し、周囲の無詠唱の使い手すらも、『次元が違う』と驚愕させ。
魔法ギルドから派遣されたらしい使者や高位の魔術師たちが、連日、夫婦の元を訪れるようになった。
魔法ギルドから派遣されたらしい使者や高位の魔術師たちは、二人の紋様、走馬の『炎』と舞那の『風』の属性を正確に読み取りながらも、その能力が発現する現象が、既存の魔法体系を完全に逸脱していることに驚愕を隠せない。
「一体どうやってあれを?」
「何の魔法を使ったのですか?」
彼らの問いに対し、走馬と舞那はただ首を傾げるしかなかった。
「イメージしただけ」という真実を話しても、誰も理解できない。
彼らは、自分たちの"普通"が、この世界では"異常"であることを改めて痛感する。
「もう、目立たないなんて無理だな」
「うん。でも、ソウくんと一緒なら、なんだってできる気がする」
舞那の言葉に、走馬は静かに頷いた。
冷静な思考と、幼馴染から夫婦となった舞那との揺るぎない絆。
そして、現代知識と現代で培った想像力。
異世界で目立つことを避けようとした二人だったが、その力はあまりにも異質で、強大だった。
彼らは、この異世界において、もはや隠れることのできない"異端"であり、同時に"希望"となる存在だ。
「僕たちの知識が、この世界で何を生み出せるか…試してみるか」
「うん!きっと、面白いことができるよ」
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