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第82話: 世界が終わっても、彼は立っていた

この話数はかなり長く、情報量も多いため、読む際に疲れてしまうかもしれません。

物語にしっかり入り込めるタイミングで読んでいただければ幸いです。

そうでない場合、少し重く感じられると思います。

それでもここまで辿り着き、拙作を読んでくださって本当にありがとうございます。

二人の環境フィールド内部を支配していた暗黒の空間が、突如として爆発し、まるで現実の構造すべてが粉砕されたかのように激しく弾け飛んだ。闇は引き裂かれ、代わりに絶対的な「白」の空間が広がる。そこには斑点のような銀河ギャラクシーの模様が至る所に滲み出していた。まるで宇宙の墨が巨大なキャンバスにぶちまけられたかのように、歪み、不安定に揺れている。


白龍はそこに立っていた。 背筋を伸ばし、平然と。その眼差しには、盤面を掌握した者だけが持つ絶対的な自信が宿っている。


対峙する市川もまた、低く構えて踏みとどまっていた。二度の巨大な隕石の雨を正面から浴びながらも、倒れてはいない。呼吸は激しくなり、エネルギーの揺らぎも顕著だが、その瞳は未だ屈服を拒んでいた。


ほんの一瞬の静寂の後――。 市川の目前の空間が、連続して切り裂かれた。 無数の光の断絶が空間の亀裂と並行して出現し、死の網目のように重なり合う。それらは軌道も予兆もなく襲いかかった。市川の肉体は次々と貫かれ、鮮血が噴き出す。白い床に飛び散った赤は、混沌とした斑紋となって広がっていった。


彼は即座に「完全再生パーフェクト・リカバリー」を起動し、「覇者の権力オーバーロード・パワー」と組み合わせて肉体を強制的に再構築する。同時に、覇者の権力を不可視の圧力を伴う防壁として全身に纏わせ、受けるダメージを最小限に抑えようとした。


だが、今度は――。 その効果は、ほとんど無視できるほどに薄かった。 一つの傷が塞がる間もなく、次の斬撃が重なる。回復はもはや再生ではなく、単なる存在の引き延ばしに過ぎなかった。


そして――。 市川の環境が、ついに完全に崩壊した。 大きな砕砕音も、激しい爆発もない。 ただ、己の内側で何かが音を立てて折れ、完全に消失した感覚だけが残った。


白龍の環境が圧倒的に支配し、市川の残滓を飲み込んでいく。圧し掛かる圧力によって、彼は能力を発動できない状態へと追い込まれた。スキルのクールタイムを待つしかない――この戦場において、それは致命的な空白だった。


原因は明白だ。 環境とは、発動者の意志と肉体状態によって維持されるもの。市川は連続してあまりに多すぎるダメージを負いすぎた。意志が揺らぎ、肉体が衰弱したことで、環境もまた崩れ去ったのだ。


白龍はその瞬間を逃さなかった。 自らの環境の堅牢さをさらに増幅させ、より強固に、より安定したものへと変える。そして、死に体となった市川の環境を完膚なきまでに圧砕した。


その時から――。 市川はもはや、絶対的な権能を握る者ではなくなった。 環境を失い。 能力を封じられ。 残されたのは、敵の領域のど真ん中で、純粋な武術のみで戦わねばならない一人の肉体だけだった。


白龍は即座に行動に移した。 光となって転移し、瞬きの間に市川の上空に出現する。手をかざすと、宙に密集した無数の光の点が召喚され、無視できない速度で明滅しながら一斉に降り注いだ。


市川は地を蹴り、絶望的な状況の中で回避を試みる。 着弾した光の点は激しく爆発し、空間を削り取り、周囲を焼き尽くしていく。爆発の衝撃に、市川は激しく揺さぶられた。一歩でもリズムが遅れれば、その場で消滅していただろう。


だが、白龍に逃がすつもりなど毛頭ない。 空間が突如として収縮した。 市川は後方へと吸い戻され、深い穴に落ちる獲物のように白龍の方へと強く引き寄せられた。直後、無数の「光の棘」が召喚され、彼の肉体を貫こうと殺到する。


肉薄したその瞬間――。 市川は身を翻し、残された全力を一点の拳に込めた。


爆破デトネーション」。「覇者の権力」。赤黒い雷。


空間を切り裂く轟音が響き渡った。光の棘は粉砕され、完全に瓦解する。市川はその反動で地上へと叩きつけられ、冷たい白い床に激しく打ち付けられた。


しかし、悪夢はまだ終わらない。 二つの**「斬撃」――光と空間――**が、休むことなく降り注ぎ、彼の肉体を一刻一刻と刻んでいく。


白龍は高みから見下ろしていた。 戦場を支配する魔導師のごとく、彼はエネルギーの消費など気にも留めない。巨大な光の柱が次々と放たれ、広範囲を焼き、すべてを爆発の海へと変えていく。


市川は必死に避け続けた。 だが爆発の連鎖は止まらず、衝撃波に弾き飛ばされるたびに、彼の体は白い空間を転がっていく。死生を司る者の領域の中で、あまりにも小さく、孤独に。


白龍が転移した。光が一瞬だけ収束し、次の瞬間には彼の姿が市川の眼前にあった。


もはや距離はない。 もはや回避もできない。


二人は互いに飛び込み、最高峰の格闘戦へと突入した。放たれる一打一打に明確な殺意が宿る。市川の拳は単なる筋力ではない。覇者の権力によって補強されており、その一撃が繰り出されるたびに周囲の空間が微かに震える。自らの環境内にありながら、白龍はその直撃の重さに眩暈を覚えた。


突き――受け――回し蹴り――反撃。 激しい衝突のリズムが刻まれ、骨と骨がぶつかり合い、衝撃が体を突き抜ける。打ち合うほどに、白龍は一つの事実を確信していった。市川という男は、断じて「並」ではない。運よく力を手に入れたわけでも、特異な能力に依存しているだけの男でもない。


市川が距離を取るために後ろへ跳んだ。 刹那、白龍が手を挙げる。


空間収縮――吸引力が市川の体を強制的に引き戻す。ほぼ同時に地面の光が吹き上がり、無数の光の棘が床から突き出し、閉ざされた檻のように周囲を囲んだ。


市川は光の棘を掴み、全身に力を込めて自分を繋ぎ止めた。体は激しく震えている――空間の吸引力だけでなく、絶え間なく肉体を裂き続ける斬撃のせいだ。皮膚の裂け目から血が滲み出すが、彼は手を離さない。


白龍は手を休めない。 掌に光が集束し、巨大な光線が市川に向かって真っ直ぐに放たれた。凄まじい推進力が彼を弾き飛ばし、その体は白い床の上を激しく転がった。


市川はその一撃を正面から浴びた。 光が皮膚を焼き、体の一部は黒く焦げて煙を上げている。しかし、重苦しい沈黙の後、彼は手を突いて立ち上がった。背を丸め、呼吸は荒いが――決して膝は折らない。


その瞬間――。 白龍は真に驚愕した。 当初、彼は市川の強さを、世界が与えた理不尽な能力ゆえだと思っていた。だが今、自分が最強の状態にあり、市川が能力を使えない状況にあってもなお、彼はそこに立ち、打撃に耐え、戦い続けている。


彼は気づいた――。 目の前の男こそが、今の時代における人類の「希望」であり、最大の「補強」なのだと。


ゆえに――。 白龍はもはや手加減をしないと決めた。 第三の権能が発動している間、彼のすべてのスキルは最低限のエネルギーしか消費しない。それによって、リスクを冒して接近戦を挑まずとも、遠距離から能力を乱射し続けることができる。この状態を維持し、第四の権能へと繋げなければならない。


もし環境が閉じれば――。 自分もまたスキルのクールタイムに陥る。 そして、純粋な格闘戦になれば、これほどまでに理不尽に強い市川に勝つ見込みはない。自身の能力のクールタイムは市川よりも長いのだ。長引けば、敗北は時間の問題となる。


だからこそ――。 ここで市川を仕留めきらねばならない。


白龍が手を挙げ、市川に向けて光線を放つ。市川は即座に横に跳んで回避した。だがその瞬間、背後の光が収束する。


白龍はすでに市川の背後に転移していた。 槍のように鋭く凝縮された「光の棘」が、彼を貫かんと放たれる。市川は間一髪で身を翻し、素手でその光の棘を掴み取った。握力を高め――そのまま粉々に握り潰す。


直後、白龍は「空気斥力エア・リパルジョン」を発動し、市川を遠ざけた。あまりに多くの傷を負った市川の体には、着地を安定させる柔軟性が残っていない。


回復の隙を与えない――。 白龍はさらに空間吸引を用い、市川を逆方向へ引き寄せた。彼の体は超高速で引きずり戻される。白龍の周囲には、牙のように鋭く尖った無数の光の棘が、獲物を待つように一斉に突き出した。


市川はすべてを見据えていた。 引き寄せられる軌道に従い、残された全力を拳に込める。


「爆破」。「覇者の権力」。


拳が放たれた――。 赤黒い雷鳴が轟き、衝撃が広がる。すべての光の棘は光の塵へと粉砕され、中空にラメのように舞い散った。


白龍へのダメージは大きくはなかったが、それでも半歩、後退を余儀なくされた。 そして今度は――。 白龍自身も、市川の理不尽なまでのしぶとさに、驚きを隠しきれなかった。


領域が動き出す。 もはや静止した黒い平面ではない。光が白龍自身から逆流し始めた。彼の周囲の空間が、呼吸を強要された生き物のように膨らみ、張り詰め、そして激しい渦を巻く光の気流となって弾けた。その気流の中から、一柱の龍の頭部が姿を現す――それは生物ではなく、強引に構造化された意志。あぎとは大きく開き、牙は固体に近いほどに凝縮された光で構成されていた。


光が咆哮する。 空気が圧し潰され、領域が激しく震え、現実の層が崩壊寸前のように戦慄した。平面上の黒い亀裂は即座に光に満たされ、まるで墨が白い大海に押し戻されるかのようだった。


白龍はその中心に立っていた。 彼の体は、光の龍頭に飲み込まれ、相対的に小さく見える。あたかも残されたエネルギーのすべてを、この形態の維持に絞り出しているかのようだった。周囲の空間は猛烈に歪み、光と闇が粉砕され混ざり合い、暴力的に撹拌された銀河のような長い尾を引いて渦巻いた。


そして――。 龍の口の中心に、 一つの「光球」が形成された。


最初は拳ほどの大きさ。 それが層を成して膨れ上がり、刹那に誕生した若い恒星のように凝縮されていく。光はもはや透明ではなく、乳白色へと変わり、縁にはどす黒い赤の斑紋が混ざっていた――吸い込まれた血が粉砕され、エネルギーの奔流の中に完全に溶け込んだのだ。


光球は成長を続ける。 領域がそれに耐えきれない。 平面は剥がれ、現実の断片が光の塵となって吹き飛ぶ。もはや上下も、遠近もない。ただ一つの絶対的な破壊の核心が、すべての空間概念を塗り替えていた。


そして、それは放たれた。 射出ではない。 「天災」を解き放ったのだ。


光の爆弾は緩やかに進んだが、移動する1センチごとに前方の現実を抹消していった。空間は平坦に押し潰され、闇は蒸発し、無限に続く真っ白な轍を残す。まるで世界が、残酷な筆跡によって消し去られているかのようだった。


市川はその軌道の終端に立っていた。 光が視界を埋め尽くす。 領域は今や真っ白に輝き、飛び散った血のような赤と、沸騰した水に混ざる墨のように引き延ばされ歪んだ紫黒色の銀河が斑に浮き出ている。


衝撃波が光よりも先に押し寄せた。 平面は割れるのではなく、粒子となって崩壊し、そのまま爆弾の奔流へと吸い込まれていった。エネルギーと物質の境界は完全に消滅し――すべてが溶け合い、跡形も残らない。


光球が市川に到達した。 その瞬間、 領域は満たされた。


爆音はない。 音そのものがない。 ただ、血と銀河を混ぜ込んだ、破壊の光の海があるだけだ。そこに存在したすべてを消し去る。あたかも、この世界に最初から闇などなく、 そして、出口など存在しなかったかのように。


白龍はそこに立ち、冷徹な眼差しで、破壊の残滓の中で低く声を響かせた。


「終わったよ、市川。人類の未来は……ここで終止符だ」


光が引いた後――。 空間は戻らなかった。 領域内部は、記憶を焼き尽くされた紙のように、無限に続く絶対的な白一色に染まっていた。平面も、境界もなく、上下は溶け合い、遠近は意味を失っていた。


その白さの中に、銀河の模様が漂っている。 動かない。 回転もしない。 それは虚空にぶちまけられた墨のように、紫黒色の長い帯となって引き延ばされ、斑に、数箇所にはどす黒い赤の塊が混じっていた――粉砕され、宇宙に混ざった血だ。それらの模様は現実そのものから染み出しているようで、あたかも空間が切り裂かれ、内側から墨が漏れ出しているかのようだった。


煙が立ち上る。 火の煙ではない。焼き尽くされた空間の残骸だ。細い煙の柱が緩やかにくねり、砕けた光と壊れた闇を運んでいく。煙がたなびくたびに周囲の白さが歪み、ぼやけた跡を残す。通り過ぎたばかりの惨劇の指紋だ。


空気は重苦しい。 光さえもリズムを乱し、反射が遅れている。まるで余震に怯えているかのようだ。空間は喘ぎ、消失した現実の層を必死に繋ぎ合わせようと、弱々しく収縮を繰り返していた。


反響音はない。 風もない。 ただ破壊の後の静寂だけがある。墨のような銀河の模様に汚された、真っ白な空白。漂う煙は、ここが世界を消し去るに足る一撃を受けた場所であることを物語っていた。


白龍は手を挙げ、環境を閉じ、限界まで続いたこの緊張した戦いに終止符を打とうとした。だが、その瞬間――彼は凍りついた。


背筋を凍らせるような感覚が突き抜ける。 彼の目は大きく見開かれ、眼前の消えゆく煙を凝視した。


真っ白な煙と引き裂かれた銀河の模様の中から、一つの影が歩み出てくる。 見覚えのある。 あまりに見覚えのある影。


赤く燃える瞳が虚空を射抜き、白龍を真っ直ぐに見据えた。それは人間の眼差しではなく、地獄から這い上がってきた悪魔のそれだった。


市川。


失った腕は――未だ完全には再生しておらず、白い床に絶え間なく血を滴らせている。全身は斬撃の跡でズタズタになり、多くの傷口は開いたままだが、いくつかは緩やかに塞がり始めていた。焼けた皮膚からは未だに細い煙が上がっている。額から流れる血は顔の半分を覆い、眼窩に流れ込み、もともと赤く輝く瞳と混ざり合っていた。


市川は辛うじて直立した。 足は微かに震え、重心も不安定だ。彼はどす黒い血を吐き出し、重い息をつくと――顔を上げた。


血まみれの顔に、不敵なまでの自信に満ちた笑みが浮かぶ。


「……それが、あんたの全力か?」


白龍は立ち尽くした。 一瞬、思考が空白になる。能力を失い、完全に圧倒され、領域ごと消し去るような破壊をまともに浴びたのだ。とっくに死んでいるべきだった。


他の誰かであれば、死体すら残っていまい。 それなのに、市川はそこに立っている。 理解を超えていた。 間違いなく何かをしたはずだ――白龍が知らず、気づかなかった何かを。だが、エネルギーも尽き果てた今の状態で、市川に何ができるというのか。


理解できない。 白龍は歯を食いしばり、光の連続斬撃を再起動させようとした――だが、遅すぎた。


ボロボロの体を引きずり、市川が真っ直ぐに突き進んできた。 一呼吸の間に距離が消失する。 白龍は反応できない。


全力を、全意志を込め、「覇者の権力」を上乗せした「爆破」の拳が、白龍の顔面に真っ向から叩き込まれた。


黒い雷鳴が轟いた。 その瞬間、龍頭の形態を使用していた白龍は、強制的に「ローマ数字の時計」と「宇宙状態」の形態を解除され――ただの凡夫の肉体へと戻っていた。


拳が貫く。 白龍の周囲の環境はひび割れ、空間の層がガラスのように砕け散ると、音のない咆哮と共に爆発した。領域が完全に崩壊する。


白龍は弾き飛ばされ、再構築されつつある現実の床に激しく叩きつけられた。 彼は意識を繋ぎ止め、再びローマ数字の時計を起動させようとしたが――。


絶望が彼を襲った。 環境が崩壊したことで、すべてのスキルが即座にクールタイム(回復状態)に陥ったのだ。


それまで積み上げてきたローマ数字は――完全に消失した。 権能もない。 強化もない。 そこにあるのは、死を待つばかりの空白だけだった。


一方で、市川は回復していた。 失われた腕は七割方再生され、筋肉の組織や骨が緩やかに形を成しつつある。全身の傷も、速度こそ落ちたものの塞がり続けている。重傷であることに変わりはないが――彼は屈してはいない。


彼はまだ、戦える。


瓦礫の中に横たわる白龍が、掠れた声で問いかけた。 「……なぜだ。どうやって……耐えきったというのだ?」


市川はそこに立ち、重い息を吐きながら、血を滴らせていた。だがその態度は、恐ろしいほどに平然としている。


「……知りたいか?」 「どうやって耐えたのか、だって?」


彼は微かに首を傾げ、薄い笑みを浮かべたまま答えた。


「……正直に言えば、俺にも分からん」 「あの時……自然と、耐えられたんだ」


白龍が怒りに吠えた。 「そんな答えがあるか……!」


観客席では、ブラックウィングスの首領が、まるでこの瞬間をずっと待っていたかのように静かに口を開いた。彼の目は依然として闘技場に釘付けだが、その言葉は驚きを隠せないアコウに向けられていた。


市川があの破壊的な一撃に耐えられたのは、運ではない。 無意識のうちに「覇者の権力」の最強形態を起動させたからだ。


「爆破」がダメージを司り、「完全再生」が癒しを司るならば、「覇者の権力」は特定の役割に留まらない。それは「すべて」なのだ――ダメージの増幅、肉体の耐久力の向上、忍耐力の強化、使用者が背負いきれるあらゆる要素のブースト。


覚醒したばかりの頃、市川は覇者の権力を単なる威圧、相手を麻痺させるためだけにしか使えなかった。だが、彼が先へ進み――肉体と意志が徐々に適応していくにつれ、その権能は別の使い方の枝葉を広げ始めたのだ。


恐ろしいのはここだ。 「覇者の権力」が何を与えるか、正確に定義できる者は誰もいない。


なぜなら、それを持つ者ごとに、異なる発現形態が「アンロック」されるからだ。それは言わば、使用者ごとに固有の能力を与えるようなものだと言える。


だが、実のところ――。 それは「能力」とは見なされない。 通常の能力には、常にそれ自体に完結した破壊力や権能が備わっている。だが覇者の権力は違う。それは言わば「サブ能力」、あらゆるものと並行して存在する「増幅装置」なのだ。


そして、十分な資質を持つ者の手に渡れば、その「補助」は、多くの者の主能力に匹敵し、あるいは凌駕することさえある。


アコウの思考を読んだかのように、ブラックウィングスの首領は微かに笑い、声を潜めた。


「君の考えている通りだ」 「『色の目』は市川に、もう一つの固有能力を授けていた――彼が未だに主体的には使えていない能力をね」


彼は一呼吸置いた。


「そこに、覇者の権力によるサブ能力が加わっている……」 「今、市川は三つの力を同時にその身に宿しているのだよ」


アコウは驚愕を隠せなかった。 「……では、あなたにはその能力が何であるか見えているのですか?」


首領は煙に巻くことはしなかった。 市川が授かった能力は、自らの目で目撃したあらゆるものを「学習」する力だ。難易度がいかに高く、要求がどれほど過酷であろうとも。


だが、それは完全なコピー(模倣)ではない。 市川が学習できるのは一度きりだ。彼の肉体と意志が、ただ一つのバージョンのみを記録して、そこで閉じてしまう。他人のスキルを写し取るという点ではコピーに似ているが、厳格な制限があるのだ。


アコウが思わず声を上げた。 「……それはあまりに強すぎませんか?」


首領は微かに首を振った。 「強い。だが――無限ではない」


市川が無意識に学習したのは、他ならぬ「無限の空間インフィニティ・スペース」――先ほど白龍が使っていた絶対的な防御層だ。白龍自身であれば、それを用いて自らの一撃を完璧に防ぎきれただろう。


だが、市川は違う。 彼はその一部しか遮断できなかった。残りの衝撃は貫通し、ダメージを与えた。ただ、それが致命的なレベルから大幅に減衰されていたに過ぎない。


「だからこそ、」首領は締めくくった。 「コピーと呼んでも差し支えはないが……」 「その力には……明確に限界がある」


アコウはしばらく黙って状況を見守っていたが、ついに堪えきれずに問いを発した。


「あなたは……常人には見えないものが見えているのですか?」


ブラックウィングスの首領は、微かに笑った。それは勝ち誇った笑いではなく、他人より多くを知ることに慣れきった者の笑みだった。 彼は拒むことも隠すこともしなかった。むしろ、貴重な情報とされるそれを共有する用意があった。


彼が持つ瞳と権能があれば、隠されたほぼすべてのことを見通すことができる。常人がその存在にすら気づかないほど微細なディテールに至るまで。


それは経験ではない。 長年の観察によるものでもない。 授けられた一種の「権能」なのだ。


その権能は、一目見るだけで相手が使っているもののほぼすべてを理解させる。能力の系統を知るだけでなく、あらゆる基礎情報が瞬時に解体され、提示される。


現在の高次元エネルギーのレベル、安定度、消費量。 身長、体重、肉体の構造。 武器の性質、製造素材、摩耗の度合い、さらにはその年代まで。 たった一つの品を一目見るだけで、それが何から作られ、どれほどの月日を生き、いくつの戦場を潜り抜けてきたかさえ評価できるのだ。


だが、彼の声は低くなった。 その権能も、絶対ではない。


圧倒的な高次元エネルギーを持つ者――彼と大差ない実力者、あるいはそれ以上の強者の前では、すべてが霞んでしまう。情報は不完全になり、一部は隠され、一部には手が届かなくなる。


アコウは即座に反応した。 「……では、つまり、あなたは市川よりも遥かに強いということですか?」


首領は答えなかった。 ただ、微かに微笑んだだけだった。その笑みの意味するところを、アコウは測りかねた。


そして、彼はゆっくりと言った。 「……見続けるがいい」


今この瞬間、二人が能力を使えなくなったとき、真実の戦いが始まるのだから。


これはもはや、授けられた権能の競い合いではない。 剥き出しの姿となった白龍と、覇者の権力との激突なのだ。


覇者の権力を持たないことが、高次元エネルギーの脆弱さを意味するわけではない。それは数値や授けられた権能において劣るだけで、本質が損なわれるわけではないのだ。 もし白龍が十分に長く生き、数多の年月をかけてその高次元エネルギーを研ぎ澄ませてきたのなら、その純粋な力を用いて、戦場に足を踏み入れたばかりの若造を相手に戦い抜くことは十分に可能だ。


だが、問題はここにある。 市川の成長速度は、異常なのだ。 それは、神の領域に等しい。


その狂気的なまでの成長は、一つの時代を生き、戦い抜いてきた者を圧倒するに足りるのか。


答えは推測の中にはない。 ただ、その目で見届けるしかないのだ。 そして今、すべてを目の当たりにしてきたアコウは、もはや確信を持てずにいた。


――市川が、勝利を手にするということを。


たとえ白龍の環境が、完全に崩壊したのだとしても。

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