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第80話: 世界が拒絶した一撃

「私に直接、個別に連絡を寄越すとは、一体何の用です。我々はもう、同じ船に乗る身ではないはずでしょう?」


アコウの声が響いた。ブラックウィングスの首領が自ら連絡を取ってきたことに、彼は驚きを隠せなかった。協力関係を断絶した両者の間では、本来あり得ない行動だったからだ。


「君に役立ちそうな情報を伝えに来ただけだ」


アコウはソファに深く背を預け、目を閉じた。内心の警戒を押し殺し、平然とした声を保とうと努める。


「情報、ですか。今の私に何ができるというのです。わざわざ情報を提供してまで、何をさせようというのか」


そして、ブラックウィングスの首領がもたらした事実が明かされた。


「人間狩り(ヒューマン・ハンティング)」のゲームが、凄まじい速度で拡散されている。観客として直接参加していない者でも、主催者に金を払いさえすれば視聴が可能となっていた。その結果、市川と白龍の戦いの注目度は指数関数的に跳ね上がっている。その激しさは当初の予想を遥かに超え、もはや誰もこれが単なるゲームだとは思っていない。これは象徴的な事件――一柱の古き「龍誓りゅうせい」が、人間の少年に立ち向かうために全力を尽くすことを強いられているという、未曾有の事態なのだ。


ゆえに、市川の力もまた瞬く間に広く知れ渡ることとなった。彼が披露した力は、NGノー・ゲート界のすべてを注視させるに十分だった。初めて人間が「真の脅威」として認識されたのだ。古くから存在する秩序を脅かす存在として。NGたちの目には、市川はもはや一人の人間ではなく、象徴――人類最強の戦士であり、NGに滅亡をもたらすと危惧される者として映っていた。


単なる噂であれば、それほど案ずることはない。だが問題は、市川が見せた力が紛れもない事実であるということだ。


そしてそれは、避けられない結末を招く。


女王は、これほどの災いの種が成長し続けることを決して許さない。一度「危急の脅威」と断定されれば、選択肢はただ一つ。まだ若芽のうちに、根こそぎ絶やすことだ。


至高の命令が下された。


王色座おうしきざ」の全メンバー――世界各地に散らばるNG界の統治者にして最強の者たちに、いかなる犠牲を払ってでも市川を殺せという指令が飛んだのだ。十人の「十色座じゅうしきざ」が同時に動き出し、この戦いの地を目指して集結しつつある。現在の任務を他者に引き継ぐ必要があるため、今すぐこの場に現れることはないかもしれない。だが、事態の本質は何ら変わらない。


市川が見せたパフォーマンスは、世界の頂点に立つ強者たちすべてに、自らの命を狙わせる結果を招いたのだ。


アコウは目を開けた。その顔からは、先ほどの平静さは消え失せていた。


「……で、私は何をすればいいのですか? 手出しもせずにただ座っていろと、そのために話しに来たわけではないのでしょう?」


ブラックウィングスの首領は、その問いを予期していたかのように即座に答えた。


「大それたことをする必要はない。ただ、この戦いを最後まで見届けるがいい。私の計画は、そこから始まる」


彼は一呼吸置き、声を一段と低めて続けた。


「現在、白龍は市川の『再生』という概念を消し去るために、自らの能力を浪費している。それはつまり、市川が優位に立っていることを意味する。白龍は自ら、極めて重要なアドバンテージを捨てたのだからな」


アコウは眉をひそめた。


「捨てた、とはどういう意味です? そうしなければ、市川は無限に再生し続けるのではないのですか?」


この新時代において、若くして強大な力を持つ者は、死の概念を超越した能力を宿していることが多い。アックには「時間」があり、市川には「生命」がある。ゆえに彼らは自らを不敗だと信じている。しかし、この世界は決して彼らに権能を無限に乱用させることはない。


世界の核心的なメカニズムは、古くからそのような理不尽な能力を抑え込むために存在している。


相手を凌駕するほど強大な「高次元エネルギー」を有していれば、その「死なない」という状態は減衰し始める。そして実力差が決定的なものとなったとき、それらの能力は完全に無効化されるのだ。


高次元エネルギーとは、個体の基礎ステータスのような、最も根源的な力の指標である。この数値が高ければ高いほど、個体としての格が上がる。圧倒的な差があれば、肉体を液体化して物理攻撃を無効化するといった「概念的」な能力ですら、力ずくで貫通することができる。


このメカニズムがあるからこそ、特殊な能力を持たない者でも生き残り、強者へと至ることができるのだ。能力が生み出す理不尽を、格の違いによって打ち破るためにこの仕組みは存在する。


そこまで聞き、アコウは核心に気づき始めた。


「つまり……白龍は市川の再生を止めるために、わざわざ概念消去の能力を使う必要はなかった、ということですか?」


「その通りだ。その力を別の方法で使っていれば、白龍は遥かに大きな優位を築けていたはずだ」


だが、奇妙な疑問が残る。伝説となるほど長く生きてきた白龍のような男が、なぜこの事実に気づかなかったのか。


実のところ、高次元エネルギーとその権能を真に重視する者は極めて少ない。能力の力があまりに直感的で圧倒的であるため、それだけでほとんどすべてを補えてしまうからだ。大半の者は、己の能力を発展させ、覚醒させることに全精力を傾けてしまう。


その結果、高次元エネルギーは軽視されるようになった。実際には、それは基礎パラメータとして存在し、時と共に静かに蓄積されていくものだというのに。能力が差異を生み出し、高次元エネルギーが限界を決めるのだ。


高次元エネルギーを、その効果が変質・増幅する段階まで覚醒させられる者は限られている。便宜上、現在の世界ではそれを十の段階に区分している。ゾアはまだ開花の段階であり、基礎的な回復力に触れた程度だ。市川は、世界に選ばれた「色の目」の特性により、最初の覚醒でほぼすべてを開放しており、現在は第三、あるいは第四段階に達しているだろう。そして白龍は、第五段階、あるいはそれより少し上に位置すると推測される。


生きる伝説が第五段階に過ぎないというのは、一見すると理不尽に聞こえるかもしれない。しかし過去において、限界はそのあたりに設定されていたのだ。ある一人の男が現れ、既存の枠組みをすべて打ち砕き、限界を「十」に引き上げるまでは。その時初めて、人は最高到達点が「十」であることを知った。今の時代においても、第五段階は依然として最高水準の指標なのだ。


高次元エネルギーは、直接的な攻撃力を決定するものではない。それは放出されるプレッシャーによって感知される基礎数値である。そのエネルギーが一定の閾値に達し、特殊な効果――ダメージではなく、世界の理に関わる「権能」を帯びたとき、初めてその段階レベルが顕在化する。


アコウは受け取った膨大な情報を咀嚼しながら、長い沈黙の末に口を開いた。


「……だとすれば、市川の再生権能を完全に無効化するために、白龍の高次元エネルギーは第六段階を超えなければならない。白龍は、遥か昔からすでに第五段階にいたはずですから」


白龍は、自ら気づかぬうちにその条件をとうの昔に満たしていた可能性がある。彼がこれほどまでに追い詰められることは稀であり、その権能を使う必要もなかった。伝説ゆえの自負が、己が手にしている真の力に気づく機会を奪っていたのかもしれない。


戦場に目を戻せば、白龍は「三」の数字が授けた能力を急いで使い、市川を仕留めようとはしなかった。彼は戦いを最も原始的な形へと委ねた。互いに基礎的な技をぶつけ合い、技術、反射、読み合いが支配する領域へと。性急なとどめも、一方的な蹂躙もない。ただ、戦いの中で進化し続ける二つの存在による、長い衝突が続いていた。


この時の市川は、開戦当初とは完全に別次元の領域に足を踏み入れていた。元素反応の行使はもはや本能や実験的なものではなく、冷徹な計算と選択に基づいていた。いつ爆発させ、いつ抑制すべきか。いつ融合させ、いつ引き離すべきか。闇と火の元素が交錯する「黒炎」が主軸となり、火属性のダメージを跳ね上げると同時に、相手の周囲の空間に粘りつく毒とスタン(気絶)の効果を撒き散らす。その炎はゾアの黒炎と本質を同じくしながら、市川の手によって、より凶暴かつ安定した次元へと昇華されていた。


それと並行して、「光」の元素は反応の連鎖から完全に切り離され、純粋な移動と接近の手段として運用されていた。光はダメージをもたらさず、ただ速度のみを追求する。その速度は市川の所在を常に曖昧にさせた。一方で「氷」と「木」は、攪乱用の分身を作るために費やされた。相手の反射をわずかに狂わせるためだけに存在する一瞬の幻影。これらすべての要素が組み合わさり、変幻自在で多層的、かつ極めて予測困難な戦闘スタイルが構築されていた。今の市川は、序盤の自分自身を遥か後方に置き去りにしていた。


対する白龍は、空間と光の元素を全く異なる手法で操っていた。爆発させるのでもなく、誇示するのでもない。それは極限まで研ぎ澄まされた「簡素化」であった。市川との打ち合いを重ねるごとに、彼の制御はより鋭利になり、空間の歪みはより薄く正確に、光は加速のためではなく軸の固定と誘導のために用いられた。この戦いは白龍にとってもまた、適応と完成へのプロセスであった。


前回の崩落が収まる間もなく、市川が攻めのリズムを変えた。雷電が体を走り抜ける中、今度は黒炎が単独で燃えることはなかった。亀裂から噴き出す水蒸気が風に巻かれ、戦場を厚い霧が包み込む。風が横切り、熱い灰と混ざり合って、地面を這う低い竜巻を形成した。霧の深淵で、雷光が激しく明滅し、黒炎が闇の中で開いた瞳のように不気味にゆらめく。


市川が接近戦を仕掛けた。石畳を強く踏みしめ、重心を低く保ち、腰を鋭く切る。放たれる打撃は短く、重く、そして正確だった。最初の一撃、雷を纏った拳は粉砕のためではなく、防御のリズムを崩すためのもの。直後、風を纏った肘打ちが続き、空気を薄い無形の刃へと変えた。白龍の目前の空間が滑り、距離が引き延ばされる。二つの打撃は届くことはなかったが、漏れ出た余波が霧をねじ曲げ、背後の石席を粉砕した。


白龍は斜め一歩踏み出し、最小限の軌道で手を上げ、打撃の軸を正確にいなした。市川の力そのものを利用し、距離の軸を反転させる。市川は即座に型を変えた。黒炎を前腕に薄く纏わせ、凝縮された熱を伴う膝蹴りを突き上げる。白龍は避けない。胸前の空間が密度を増し、膝蹴りは目に見えぬ虚空へと沈み込んでいく。力が引き延ばされ、反発する。市川は弾き飛ばされたが、空中で身を翻すと、風を蹴って体の軸を立て直した。


白龍の目の前に、強烈な吸引力が発生した。塵、石、霧、そして雷光までもが一点へと吸い寄せられる。市川は横に滑り、光る雷の尾を引きながら、吸引の中心を間一髪で回避した。脱出の瞬間、彼は腕を振った。黒炎が二手に分かれ、風と混ざり合って地面を這う二条の螺旋となり、両脇から迫る。同時に中心からは凝縮された雷が直進する――三方向同時の波状攻撃。


空間が歪んだ。二条の炎は軌道を逸らされ、雷は霧散したが、複合された圧力は石床を陥没させるに十分だった。混沌とした瞬間に白龍が距離を詰める。短い踏み込み、肩を入れ、真っ直ぐな突き。空間圧縮を纏った拳は、触れれば即座に粉砕を意味する。市川はそれを受け止めた。腕の骨が激しく震え、火花が散る。だが彼は即座に打ち返した。風を伴うフック、黒炎を伴うショートパンチ、雷を伴うエルボー。連撃がリズムを刻み、距離をゼロへと押し込める。


白龍はそれを読んでいた。一瞬で収縮した距離が爆発的に弾け、二人の間に無形の衝撃が走った。市川は観客席をなぎ倒しながら吹き飛んだが、地に落ちる前に跳ね起きる。黒炎が吹き上がり、風が猛り、雷は極限まで圧縮された。彼は再び突っ込む。武術が、歪められた現実へと激突する。――突き、受け、極め、崩し。一打一打の切り替えが別の元素を呼び込む。風が断ち、黒炎が飲み込み、雷が貫き、霧が隠す。闘技場は破片となって崩壊し、もはや構造を留めていない。そこにあるのは、肉体と空間が生存権を懸けて争う、カオスな交差領域だけだった。


その混沌の中心で、市川は退かず、白龍は倒れない。武術が無辺の距離に衝突し、次の一打が、ほんの刹那の狂いさえもが――「最期」になる予感を孕んでいた。


空間が、絞め殺されるかのようにたわんだ。


荒廃した戦場の中央に、市川は直立していた。腕を走る雷は発光する血管のようであり、その振動の周期は理不尽なほどに安定していた。現実を削り取るような激闘を終えたばかりの者としては、あまりに異常なまでの静止。呼吸は整い、赤い瞳は平穏を宿している。焦りも、過度な警戒もない。あたかもすべての変数はあらかじめ方程式に組み込まれており、あとは結果の確認を待つだけであるかのように。


対する白龍も依然として瓦礫の中に立っていたが、その周囲の空間の揺らぎは明らかに弱まっていた。かつては鉄壁だった空間の歪みは薄く、目前の距離も滑らかには引き延ばされていない。闘技場を粉砕した無形の圧力は今や断続的であり、残された最後のエネルギーで辛うじて稼働しているシステムのようだった。


市川はそれを即座に察知した。


一歩、踏み出す。


さらにもう一歩。


腕の雷が凝縮され、光が掌へと収束していく。それは極限まで研ぎ澄まされた槍の穂先のように鋭く、集中していた。前方の空気が悲鳴を上げ、風が腕の軸へと吸い寄せられる。足元の地面が一本の直線を描いて裂けた――行き場を失った力が限界まで溜め込まれている証拠だ。


その態度は―― 絶対的な自信。敵を逃げ場のない角へと追い詰めた確信。


「……どうやら、もう空間を歪めるエネルギーは残っていないようだな。最初はそれが第二のエネルギー貯蔵庫から来る能力だと思っていた。だが実際は違った。その能力をあらかじめ発動させてから、今の宇宙状態コスモス・ステートに入り、そこで初めてエネルギーの器が開かれる。そうだろ?」


その刹那、市川の推論は完結した。空間の歪曲は単なる攻撃スキルではなく、状態を変化させるためのスキル――開放の儀式なのだ。白龍は現在の形態に至るためにエネルギーの大部分を消費した。そして、この闘技場を粉砕するほどの長期戦を経て、完全な歪曲を維持する余力など残っているはずがない。最悪の場合でも、あと一度だけ発動させて枯渇するか、宇宙状態から脱落して純粋な武術のみで市川と対峙せざるを得なくなる。それは市川にとって、勝利を確信できるシナリオだった。


「そろそろ、これを使う時のようだな。今度は……逃げられないように殻を閉じさせてもらうぜ」


市川が全電力を解き放とうとした、その瞬間――。


空間が、突如として閉ざされた。


壁ではない。 盾でもない。


それは、別の世界がせり上がり、旧い現実を飲み込む現象だった。 目に見えぬ境界があらゆる方向から押し迫る。闘技場、観客席、空――すべてが押し戻され、全く異なる空間構造に取って代わられた。より深く、より静かで、光さえも鈍化させるほど重い空間。移動という概念そのものが抑圧されているかのようだった。


その中心に、白龍が立っていた。 空間が、彼に服従している。


市川の動きが半拍、止まった。 恐怖からではない。 驚愕ゆえに。


あのエネルギー量では足りないはずだった。この瞬間は一方向の勝利へ向かっているはずだった。だが今、彼の周囲の現実は密閉され、退く隙間も、逃れるための足場も失われていた。


それでも市川は進む。雷はより明るく、より鋭く。掌の雷を震える切っ先へと変え、すべてを貫かんと構える。押し潰されそうな世界の中で、彼は敵を食らい尽くさんばかりに突進した――依然として、この戦場を支配しているのは自分であるかのように。


その時――


一条の光の線が走った。


風の音はない。 予兆もない。


ただの細い光の筋が、静寂の空間を横切っただけ。


市川の腕が、切り落とされた。


爆発もしない。 粉砕もされない。


ただ、撥ね飛ばされたのだ――掌の雷が消える暇さえないほどに、鮮やかに。噴き出した血が細い帯となり、凝縮された空間を赤く染める。閉ざされた世界の中に零されたインクのシミのように。


市川の体が、凍りついた。


見開かれた赤い瞳――それはパニックではなく、遅すぎた認識だった。雷は霧散し、光は砕け散る。残された手は宙で止まり、これ以上進むべき場所を失っていた。


周囲の世界は依然として閉ざされたまま。 白龍は、そこに立っている。


窒息しそうなほどの重い沈黙――あたかも、たった今空間そのものが、不可逆の真実を宣告したかのように。


市川はまだ、倒れてはいない。 しかし――


天秤の傾きは、逆転していた。

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