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天国のあとに残った灰  作者: 霧崎 蒼司


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79/96

第79話: 世界に選ばれた破壊者

これは、原作に最も忠実な形で仕上げた正式な翻訳版です。

以前の章では、日本語力や翻訳の都合により、多くの意図やニュアンスが十分に伝えきれていない部分がありました。

それでも、物語全体としての流れや世界観を楽しんでいただければ幸いです。

不完全な点もあるかと思いますが、最後までお付き合いいただけたらとても嬉しいです。

戦場の真っ只中で産み落とされた全く新しい概念を前にして、白龍ハクリュウの姿はもはや勝敗を目前にした戦士のそれではなく、自らが信じてきたあらゆる座標軸を超越した真理に直面させられた学者のようであった。それは未知を解明する昂ぶりではなく、自立して存在し、独自の法則で動き、お馴染みの手法では決して解決し得ない現象を前にした者の、静かなる焦燥であった。あたかも科学者が、否定することも逆転させることもできず、ましてや短期間での救済策など見出しようもない新たな法則が形成される瞬間に立ち会っているかのような感覚である。


ローマ数字「II」の状態において、彼の銀河空間の境地は近い未来の一端を視ることを可能にしていた。しかし、それはアックの時間操作能力とは根本的に異なるものであった。この能力は意のままに発動できるものではなく、ある事象が十分に巨大な形を成した時にのみ現れる。そして皮肉なことに、それが現れた瞬間、事象の結末はすでに固定され、もはや変更の余地は残されていないのだ。当初、その本質を理解していなかった白龍は、視えた未来をねじ曲げようとあらゆる手を尽くした。しかし、介入すればするほど、あらゆる行動が同じ終着点へと収束していくことに気づかされたのである。たとえ時間を巻き戻し、幾千回繰り返したとしても、その事象は世界の運行秩序に深く刻まれた宿命のように、必ず発生せざるを得ないのだ。


その決定的な差異は、彼とアックの間に明確な境界線を露呈させた。一方は時間を通じて世界の構造と運行に直接干渉できる者、もう一方はただ傍観者として未来を視ることしか許されず、それに手を触れることさえ叶わぬ者。もし白龍が真に運命を変えようとするならば、彼は世界の秩序そのものに働きかけねばならず、時間に関わる領域においてそれが可能なのは、現在のアックのみであった。


皮肉なことに、白龍本来の能力は決して低くはなかった。彼は「ウィザード(魔術師)」の位階に属し、ヨハネの黙示録の四騎士にも匹敵する、世界の秩序に直接干渉し得る力を秘めていた。だが、それは彼自身の核となる能力を通じてのみ成し遂げられることであり、現在彼が乱用しているこの状態によるものではなかった。白龍を世界の運行の深淵へと到達させる真の力は、太古の龍から授かった恩寵であり、彼の存在を根源から形作ってきた「空間能力」に他ならない。


市川との激闘の中で、彼は宇宙の状態からもたらされる借物の力に溺れすぎていた。ステータスの向上と純粋な武術による交戦の快楽に酔いしれ、自らが持つ最強の能力が正しく使われていないことさえ忘却していたのだ。銀河空間の状態は確かに一つの進化ではあったが、より高みを目指すならば、術者はまず基礎となる土台を熟達させねばならない。白龍は力の強欲さに目を曇らせ、成すべきことは状態をさらに押し上げることではなく、己の能力の核心を徹底的に掘り下げることだったと気づかされたのである。


それは、宇宙の状態を捨てることを意味しない。必要なのは排除ではなく「再定義」である。その状態を力の中心に据えるのではなく、補助的な道具へと変えることだ。戦いの間、彼はその状態がもたらす肉体強化の恩恵を享受するのみであった。もし空間能力を体系的に組み合わせていたならば、戦局を遥かに巧みに制御できていたはずなのだ。


その自覚は、自らへの断罪のように突き刺さった。二つのエネルギーの器を所有している理由は、どちらが強いかを選択するためではなく、それらを並行して分配、融合、運用するためであったのだ。個々の力の源を使い分けようと機を窺うのは戦略ではなく、制御しきれていない強欲の証左に過ぎなかった。


白龍は独り、くすりと笑った。表情を持たない透明な状態のまま浮かべたその笑みからは、彼の真意を読み取ることは誰にもできない。


「続けようか、市川。それと、君に言っておきたいことがある」


瞳を赤く燃やした市川は、観客席から飛び降り、空間機構によって自己再構築を続ける構造物の中へと降り立った。石や砂が繋ぎ合わされたばかりで、戦いの鼓動に震えるその中心で、白龍に歩み寄る。


「いいぜ!言ってみろよ」


白龍は一拍置いて、言葉を紡いだ。


「人間とNGの戦争なんてことは、もうどうでもいい。ただの戦士として戦おう。重い責任も理想もいらない。これは、ただ私と君との戦いだ」


市川は低く笑い、その瞳に歓喜の炎を宿した。


「当たり前だ。最初から責任なんてこれっぽっちも興味ねえよ」


言葉が終わるや否や、両者は地を蹴り、うねるような連撃を繰り出しながら激突した。白龍は即座に巨大な竜巻の球体を放ち、周囲の空気をことごとく吸い込みながら、市川の狂気じみた動きを追跡する。対する市川は、その身を青白い雷電の膜で包み込み、生ける嵐となって疾走した。亀裂の走る大地を跳び越え、闘技場に電光の軌跡を刻んでいく。白龍は竜巻を収束させ、分析を終えると、地中から光の棘の網を突き上げさせて市川の進路を断った。市川はそれを紙一重でかわし、光り輝く棘の間を縫うように突き進む。その一歩一歩が帯電し、激動する元素エネルギーを撒き散らした。


直後、白龍は光となって背後に転移し、空間の力を込めた極大の拳を叩き込もうとする。しかし、市川はあらかじめ用意していた植物の分身で彼を絡め取り、空間の拳を無機質な植物の壁に吸い込ませた。同時に、市川は背後から拳に炎を纏わせ、一撃を見舞わんとする。その策を読んでいた白龍は、即座に無数の空間の断絶を発生させて植物を引き裂き、反転して百を超える斬撃を市川へ放った。直撃を察知した市川は、風と炎の元素反応を瞬時に組み合わせ、強力な風炎の障壁を形成して斬撃の軌道を逸らす。それでも数条の刃が肉体を捉え、市川は筋肉を強張らせ、鼓動を早めながら回避運動を繰り返した。


障壁が消えぬうちに、白龍は指先で空間を圧縮し、小さな空間球を爆発させる。市川は高く跳躍してそれを逃れると、即座に雷と光の元素を融合させた。身体速度が爆発的に跳ね上がり、瞬く稲妻となって白龍の背後へ肉薄する。不意を突かれた白龍だったが、掌の中に渦巻く空間球を生成し、振り向きざまに市川の拳を迎え撃った。光と電光が交錯し、二人の間の空間を八つ裂きにする。蜘蛛の巣状に砕け散る大地、舞い上がる砂塵。しかし奇妙なことに、両者は一歩も退かずに踏み止まっていた。そこからは純粋な格闘戦へと移行した。一撃一撃が砂塵の舞う闘技場を滑り、その衝撃波が古の石壁を叩き、周囲の構造物を粉砕していく。市川の神気は歓喜に満ち溢れ、その拳の一つひとつに絶対的な自信が宿っている。それはあたかも、宿儺を仕留める寸前の五条が見せたような気迫であった。白龍は認めざるを得なかった。目の前の敵はもはや単なる新兵ではなく、一つの新しい概念、技能と創造性を極めた完成された戦士であるということを。


市川の体から光が溢れ出した。それはオーラなどではなく、個々の筋肉を完璧な伝導状態へと追い込む電光の装甲であった。背骨を走り、肩、手首、足首から迸る雷。一歩踏み出すたびに、雷撃を受けたかのように石畳に白い焦げ跡が刻まれる。対する白龍は動かず、ただそこに立っている。だが、彼の周囲の空間は軸を歪め、直線は緩やかに湾曲し、目の前の距離は異様に厚みを増していた。世界がその肉体の周りに凝縮されているかのようだった。


市川が消えた。跳躍でも突進でもなく、ただ一点で光が消え、別の場所で光が灯った。最初の一撃が空を裂き、拳を包む雷鳴が白龍の胸を貫こうとする。しかし、接触の直前、空間が折り畳まれた。拳はより深い虚空へと迷い込み、力は逸れ、光は火花となって散った。白龍が半歩回転し、目に見えぬ歪みを纏った腕で打ち返す。――轟音。市川は吹き飛ばされ、空中に長い雷の尾を引いた。彼は空中で身を翻し、観客席に足をかけると、その下の石材が粉々に砕け散った。


体勢を立て直す間もなく、背後の空間が押し寄せる。市川は大地が滑り出したかのように前へと押し出された。彼は強く地を蹴り、雷を爆発させてその圧力を強引に曲げると、虚空へと飛び出す。宙空で二つの体が衝突し、光が明滅し、空間が圧縮された。市川の連撃が叩き込まれる。一点に集中された雷を伴う拳が、ドリルのように突き刺さる。白龍はそれを「虚無」で受け流した。一つひとつの拳が目に見えぬ深淵に飲み込まれ、倍の反発力となって返される。下の観客席が崩落し、石柱が土台から引きちぎられ、重なり合う空間の層に挟まれて粉砕されていった。


市川がさらに加速する。周囲の光は濃度を増し、電気が凝縮されて空気が悲鳴を上げる。彼は全身を一本の生ける雷の矢と化し、重層的な空間の圧力を貫いた。白龍が手をかざすと、その周囲の空間が分厚くうねり、逆巻く水面のように渦巻いた。必殺の突きが届いた瞬間、拳は強引に曲げられた。市川は軸を奪われ、制御を失って回転する。その隙を見逃さず、背後の空間が猛然と押し寄せ、彼を闘技場へと叩き落とした。――ドォォォォォン!!! 地面が深く陥没し、同心円状の衝撃が広がる。一瞬、光が途絶えた。


しかし、再び光が弾けた。市川はクレーターから飛び出し、右腕に雷を巻き付け、それを唯一の点へと凝縮させた。今度の一撃は貫通ではなく、接触距離での「爆発」だった。光と雷が空気を放射状に焼き払う。空間に亀裂が走り、白龍が半歩後退した。二人の間の距離が目に見えて歪み、白龍の背後の地面が、あたかも一つの次元を失ったかのように陥没した。市川は追撃を緩めない。インファイトを仕掛け、肘、膝、ショートフック――あらゆる打撃に微細な衝撃波を付随させ、相手の空間安定能力を削り取っていく。光が点滅を繰り返し、その位置を捕捉することは不可能に思えた。


白龍が反撃に転じる。腕の周りの空間が締め付けられ、振り下ろされる拳は粉砕の圧力を伴っていた。市川がそれを受けると、電火花が飛び散り、腕の骨が激しく共鳴した。二撃目の真っ直ぐな押し込みにより、市川は横に吹き飛ばされ、石造りの座席をなぎ倒しながら転がった。彼は即座に跳ね起き、この日最大級の光を放った。二つの存在が再び激突する。光が闇を引き裂き、空間が光を屈折させる。衝突のたびに闘技場の一部が消失し、ついにはそこは古ローマの面影を失い、雷と虚空が生存をかけて争う、歪んだ現実の深淵と化した。


市川の手の中で炎が燃え上がった。それは赤でも橙でもない。光さえも内部に飲み込む漆黒の炎であり、その輪郭は闇が燃えているかのように小刻みに震えていた。周囲の空気が萎縮し、熱と圧力が重なり合って不安定な塊となる。市川がそれを投げつけると、黒炎の球体は空間を切り裂き、歪んだ渦を引き連れて白龍へと直進した。通り道の地面は一瞬で焼き尽くされ、冷徹な焦げ跡だけが残る。


直撃の瞬間、白龍の目前の空間が分厚く変質した。壁でも盾でもない。それは「距離」が無限に引き延ばされた状態だった。黒炎の球体は減速し、形を歪め、そして左右へと滑り落ちた。存在しない二つの並行した道を通らされたかのように。それは白龍の体をすり抜け、背後で爆発。黒い火柱が観客席の一角を飲み込んだ。


市川の動きがわずかに止まった。その刹那、白龍の前の空間が一点へと崩壊した。目に見えぬ渦が形成され、瓦礫や埃、光までもが中心へと逆流する。空気が咆哮し、闘技場の床が根こそぎ引き剥がされる。市川は雷光の尾を引く残像となり、横へ、斜めへと急激な方向転換を繰り返して疾走した。彼が軸を変えるたびに背後の地面は雷で耕され、蛇行する焦げ跡が刻まれる。空間の渦は彼が去った直後の場所を通り過ぎ、背後の観客席を歪んだ深淵へと変えた。市川は止まらない。加速し、体中の光が連鎖的に爆ぜる。電気が凝縮されすぎて空気が乾いた爆音を上げ、二人の距離は瞬時にゼロとなった。光と雷を全霊で込めた拳が、白龍の正中へと叩き込まれる。しかし――届かない。目前の空間層は押しも引きもせず、ただ無限に引き延ばされていた。拳は沈み込み、光は引き延ばされて薄れ、雷は霧散し、打撃の威力は虚空へと消えた。市川が顔を上げた。時すでに遅し。白龍の周囲の空間が唐突に収縮した。吸引でも反発でもない。それは「圧縮」だった。一瞬のうちに目に見えぬ圧力が限界まで高まり、そして――爆発した。光も炎もない。ただ、距離そのものの崩壊。市川は吹き飛ばされた。あたかもその場所への存在を現実から拒絶されたかのように宙を舞い、何層もの石壁を貫いて観客席の奥へと叩きつけられた。埃と破片が波のように高く舞い上がる。転がる市川の体から、雷の膜がぷつりと途絶えた。空間が静まり返る。白龍は元の位置に立ち尽くしていた。彼の前の距離は、一度として越えられたことはなかった。


この時、市川は好奇心を抱き始めていた。白龍はもはやエネルギーを節約する様子もなく、あたかも無限の器を持っているかのように、スキルを乱射し、奔放に使いこなしている。このことが意味する事実はただ一つ。白龍には究極能力アルティメットである「固有結界(環境)」を展開する意志がないということだ。エネルギー切れを恐れるならば、安全に環境を展開するための計算をするはずである。しかし今の彼は、すべての手数を雨あられと注ぎ込んでいる。これは、環境の展開を放棄し、直接戦闘にすべてを賭けていることの裏返しであった。


さらに、白龍は空間能力を用いて目に見えぬ鎧を常時展開している。これは、防御スキルに絶え間なくエネルギーを供給し続けなければならないことを意味する。長引けば、彼のエネルギーの器は早晩限界に達するだろう。しかし、現在の市川に対抗するには、全エネルギーをスキルに注ぎ込む以外に道はないのだ。元素の融合を果たした市川は、無限に近い破壊力を撒き散らす真の怪物と化している。常人であればこの状態を維持することは叶わないが、ほぼ無限のエネルギーを持つ市川は、攻撃と回復を同時に行い、地獄の黒炎を撒き散らしながら爆発し続けることができる。


市川が瓦礫の中から立ち上がると、地面にローマ数字の時計盤が浮かび上がり、針が「III」を指し示した。時計はすぐに消えたが、同時に白龍へ新たな能力を授ける。市川は肩を鳴らし、好奇心を孕んだ低い声で言った。


「なあ。針が『XII』を指した時、あんたは一体何になるんだ? 興味があるよ。まだ『III』だってのに、俺の方はもうネタ切れ寸前だぜ」


白龍は微動だにせず、ただ静かに笑った。その声は穏やかだが、圧倒的な重圧を伴っている。


「そこに至る頃には、私は君と比肩する実体へと手をかけているだろう。その赤い瞳は、実に恐ろしいものだね」


市川は首を振り、燃えるような赤い瞳で冷たく、だが愉しげに笑った。


「あんたは最初から対等だよ、白龍。これだけの破壊的な力を振るっておいて、世界に選ばれた者たちに及ばないなんて、そいつは嘘ってもんだ」


その言葉通り、白龍は自らの力が最高位の存在に匹敵することを証明し続けていた。ただ一点、エネルギーの総量と環境の強度が及ばないだけだ。特別な瞳を持つ者だけが、環境の境界を自在に操り、大きさを調整し、さらには自分自身を核として環境を移動させることができる。世界に選ばれた者の特権とは、いかなる条件下でも相手の環境を圧倒することにある。ゆえに、市川が環境を維持している限り、白龍は持てるすべての力を解放していても、自身の最強のスキルを発動することはできないのだ。


白龍の「時計」の能力について言えば、それは使用者にランダムな特権を授けるが、回数と時間に制約がある。「I」の隕石は複数回使用可能だったが、未来視は一度きり。他の特権も同様である。時計が一周し終えた時、白龍はすべての優位を失い、敗北の淵に立つことになるだろう。したがって、彼に残された課題は、時計が時を刻み終える前に、いかにして市川を仕留めるか。その一点に集約されていた。


白龍は「III」によって授けられた新たな能力を見つめ、鋭い眼光を向けて不敵に微笑んだ。


「どうやら、今の君に対抗するために、喉から手が出るほど欲しかった力が手に入ったようだ。行くよ、市川」


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