表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/82

第76話: 消された概念

次の章も引き続き、市川と白龍の戦闘になります。

今回は戦術よりも、より武術・肉 thể戦を重視した内容になります。

戦闘中心の章であるため、本章および今後しばらくの章は、通常よりやや長めの構成になります。

もし読んでいて負担が大きいと感じられましたら、章を分割するなどのご意見をいただけると助かります。

「なるほど……これが、奴が用意していた“環境破壊”の切り札か」


アコウはモニターの前で、微動だにせず座っていた。

その瞳に驚愕はない。ただ、深く沈み込むような思索の色だけが宿っている――まるで、あらゆる可能性をすでに想定していたかのように。


それでも、アコウは認めざるを得なかった。

白龍が今しがた見せたものは、“常識”の枠を大きく逸脱している。


極めて高度な一手だった。


単に環境を破壊しただけではない。

白龍は――**市川に“手札をすべて晒させた”**のだ。


能力。

その派生。

環境による優位性。


生死の圧力の中で、市川が有していたほぼすべてが露わになった。一方で、白龍はどうだ。


彼は完全に新しい状態を提示したにもかかわらず、

その形態において――具体的な能力を一切明かしていない。


この瞬間から、白龍の行動はすべて未知数となった。


どれほどの力をまだ温存しているのか。

その状態に、限界は存在するのか。


誰にも分からない。


対して市川は、生きてはいるものの、完全に不利な立場へと追い込まれた。

本来、決定的な戦いまで秘匿すべき情報――

彼の能力の核心が、今や世界中に晒されてしまったのだから。


白龍は、この切り札を早まって切ったわけではない。


耐え、凌ぎ、段階的に市川を深部へと追い込み、

全力を引き出し、すべてを使わせた上で――最後に叩き潰した。


結果、市川は重傷。

白龍は、まるで何事もなかったかのように、万全の状態へと帰還した。


完璧な局面反転。


敵の立場でありながら、アコウは否定できなかった。


白龍の戦闘経験は、圧倒的だ。


学術的な知性や、複雑な策謀に長けたタイプではない。

だが彼は、己の能力を誰よりも理解し、

それを最も冷酷かつ最適な形で運用できる存在だ。


――それこそが、最も恐ろしい。


戦場へと視点は戻る。


市川は、もはや通常の戦闘を続行できる状態ではなかった。

全身に刻まれた重傷。

筋肉は悲鳴を上げ、呼吸の一つ一つが鈍い痛みを伴う。


極限能力の反動も残っている。

しばらくの間、大規模なスキルを発動することは不可能だ。


純粋な格闘も選択肢にはならない。

今の状態で一瞬でも判断を誤れば――即、粉砕される。


それでも、市川は身体を起こした。


その瞬間、白龍の声が響く。

低く、冷たい声音で。


「今回は――機会をくれてやろう」


市川が顔を上げる。


「油断ではない」

白龍は続けた。

「強者への敬意だ。この戦いがここで終わるなら――人類も、ここで終わる」


一拍の間。


「この借りは、刻み込んでおけ」


警告はなかった。


光の斬撃が空間を引き裂き、

一瞬で市川の身体を両断する。


反応する時間はない。

回避の余地もない。


死は、絶対だった。


市川の身体は砕け、崩れ、

やがて大地へと還る――

まるで、最初から存在しなかったかのように。


息が詰まるほどの静寂。


その中で、白青色の気流が虚無から噴き出した。

渦を巻き、凝縮し、

肉体を、エネルギーの脈動を――一つずつ再構築していく。


市川は、蘇った。


そこに立つ姿は、完全無傷。

生命力は満ち溢れ、敗北の痕跡はない。


だが、瞳だけが違った。

より鋭く、より重く、現実を直視する色。


市川は、白龍を真正面から見据える。


「……その“機会”って、どういう意味だ?」


静かに言葉を続ける。


「俺が再生することは、分かっていたはずだろ。

それなら――どうして、それを“機会”と呼ぶ?」

言葉が終わるより早く――


白龍の姿は消えていた。


次の瞬間、市川の正面の空間が爆ぜた。

凄まじい威力を伴った拳が叩き込まれたのだ。


市川は即座に後退し、間一髪で回避する。

もはや環境による強化はない。

力の底上げもない。


――一歩一歩が、命懸けだ。


正面から一撃でも食らえば……

その結末は、想像するまでもない。


先ほどの拳に宿る速度と質量を肌で感じ取った瞬間、

市川は一つの恐ろしい事実を悟った。


真正面からの殴り合いでは――

引き分けが限界。勝つことはできない。


極限能力の状態であれば、わずかに上回れるかもしれない。

だが、白龍が純粋な戦闘経験を最大限に活かしてくるなら――

敗北は避けられない。


白龍は答えない。


そのまま攻勢を強め、休む間も与えず市川を追い詰める。

戦いながら、考える時間すら奪う勢いで。


(無限再生のせいで殺せないとしたら……)


(じゃあ、奴の言っていた“機会”とは、一体何だ?)


その思考が脳裏をよぎった――


次の瞬間、白龍が懐へ踏み込んでいた。


光と空間を収束させた正拳突き。

あまりの威力に、市川の身体は無数の氷片のように砕け散る。


だが、その刹那――

白龍は異変に気づいた。


「……人形か」


即座に背後へ手を伸ばし、引力を発動。

本体の市川を強引に引きずり出す。


体勢を整える暇もない。

市川は両腕で、次の拳を受け止めるしかなかった。


――ドンッ!


衝撃が炸裂し、市川の意識が揺さぶられる。

身体は大きく吹き飛ばされ、次の瞬間、上空から数十本の光の棘が断罪の雨のように降り注いだ。


市川は咄嗟に光速転移を発動。

紙一重で回避する。


観客席から、困惑した声が上がる。


「待て……市川って、極限能力を使った後は能力が使えないんじゃなかったのか?」


「再生したなら、状態は完全回復のはずだろ……

だったら、どうして環境を再展開しない?」


その疑問に、別の――正体不明の観客が低く冷たい声で答えた。


「もし再生後も環境が使えたなら……

最初の再生時点で、変異悪魔も白龍もまとめて閉じ込めて終わっていた」


「ゾアが追撃する必要すらなかったはずだ」


重苦しい沈黙が広がる。


そして――真実が浮かび上がった。


どうやら、再生直後の市川は、極限能力を使用できない。

環境を展開できない時間――

それこそが、再生に伴う絶対条件なのだ。


それはつまり――


その瞬間の市川は、

もはや“不敗”ではないということだった。

――戦場へ、再び。


白龍は完全に主導権を握っていた。

新たな形態は、未知の能力を与えたわけではない。

それ以上に恐ろしいのは――既存の基礎を、極限まで増幅していることだった。


一つ一つの動きは無駄が削ぎ落とされ、

一撃ごとの威力は跳ね上がり、

速度は視覚が追いつかない領域へと押し上げられている。


使っているのは、見慣れた技だけ。


だが――

それらに付随する“数値”が、もはや別物だった。


白龍は引力を連続で発動し、市川を糸に操られた玩具のように引き寄せる。

胸の奥に、不快な圧迫感が積み重なっていく。


そのとき、市川は異変に気づいた。


――白龍は、エネルギー消費を一切気にしていない。


技は連続で、ほとんど無造作に使われている。


一つの疑念が脳裏をよぎる。


(まさか……この形態でも、エネルギーが無限なのか?)


確かめる暇はない。

市川は思考を切り捨て、戦闘に集中する。


二人は激突した。


距離も、牽制も、読み合いもない。

残されたのは――純粋な格闘。


だが、振るわれる拳の一つ一つが、

まるで一つの種族の運命を背負っているかのように重い。


市川は回避し、反撃を繰り返す。

しかし白龍の速度は圧倒的で、何度も対応が遅れ、打撃を受け、刹那の眩暈に襲われた。


戦場は中央から広がり、

やがて――古代ローマの闘技場を模した観客席へと移っていく。


闘技場の床から、石段、観覧席へ。


放たれる技の一つ一つが、

数千年の歴史を持つ建造物を粉砕していった。


石は砕け、柱は崩れ、観客席は瓦礫と化す。

――すべては変異悪魔が構築した仮想空間ゆえ、すぐに再生される。


だが、それでも。

その破壊規模は、観る者の背筋を凍らせるには十分だった。


白龍が接近し、空間を圧縮して至近距離で爆発させる。

市川は氷の属性で即座に防壁を展開するが、

衝撃は防御を貫き、腕が痺れる。


間を置かず、市川が反撃に出る。


地面から氷の棘が突き上がり、白龍を貫いた。

――命中。


だが、回復があまりにも速い。

傷は広がる前に塞がっていく。


白龍は咆哮し、爆発的な気を放って氷を粉砕、

そのまま一気に踏み込んだ。


拳が振り下ろされる。


市川は跳ね退いて回避し、即座に火属性へ移行。

炎の竜頭が咆哮し、白龍へ殺到する。


空間が歪み、不可視の防壁が展開される。

炎はすべて――虚無へと呑み込まれた。


息をつく間もなく、

白龍は銀河の渦を生成する。


凄まじい吸引力が、市川を中心へ引きずり込もうとする。

市川は即座に下半身を凍結させ、地面に固定した。


その瞬間――


白龍が光速転移で背後に現れた。


だが、地面が震える。


巨大な古樹が地中からせり上がり、白龍の身体を締め上げる。

白龍は力任せに抗い、気を爆発させる。


正面では、市川が雷の弓を構えていた。


弦が引き絞られる。


――雷の矢が唸りを上げ、一直線に放たれる。


ドォン――!


天地を揺るがす爆音。

光が白龍の姿を呑み込み、衝撃波が市川を後退させた。


だが、煙の中で――


白龍は消えていた。


次の瞬間、市川の背後に現れ、全力の拳を叩き込む。


市川は身を捻り、紙一重で回避。

同時に相手の腕を絡め取り、打撃を封じる。


身体が即座に氷へと変化した。


――入れ替わり。


白龍の背後にあった氷の分身と、市川が瞬時に位置を交換する。


再び、雷の弓が現れる。


二本目の矢が、背中へと放たれた。


ドォン――!


二度目の爆発。

反動で市川は弾き飛ばされ、

白龍は直撃を受け、身体から煙が立ち上る。気配が一瞬乱れた。


だが――倒れない。


純粋な力で残存する拘束をすべて破壊し、

白龍はゆっくりと顔を上げ、市川を見据えた。


その瞳に、もはや平静はない。


「どうやら……」


「……初期の限界を、越える時が来たようだな」

市川は、その言葉を聞いた瞬間に理解した。


――ここから先は、

もはや自分の知っている領域ではない。


「なぜ、奥義で無理に押し切らない?」


その問いは、確認のように投げかけられた。

だが実際には――試しだった。


市川の中で、ある仮説が形を成し始めていた。


白龍は、再び

市川の“環境”を歪めることができるのか?


そして、なぜそんな質問をしたのか。


理由は一つしかない。


最も合理的な仮説――


白龍は意図的に自身の環境を展開していない。

市川が回復し、再び奥義の環境を展開した瞬間を狙っている。


その瞬間、空間構造を完全に歪め、

市川をスキル回復状態へと追い込み――

即座に自らの環境を発動し、決着をつける。


だからこそ、この問いは単なる探りではない。


もし白龍が答えれば、

それは目的を露呈することになる。


もし沈黙するなら――

市川の推測は、正しい。


質問が放たれた直後――


市川の足元に、透明なローマ式の時計盤が現れた。


ガラスのような盤面は存在しないかのように透け、

その下では青紫の銀河がきらめきながら、

ゆっくりと回転している。


――まるで、宇宙そのものの時間を数えているかのように。


市川は息を呑んだ。

その出現を、まったく感知できなかった。


針が、かすかに一目盛り進む。


その瞬間――

市川の上腕に、ローマ数字が浮かび上がった。


彼は硬直し、

皮膚に刻まれた記号を凝視する。


「……なんだ、これは……?」


考える暇は与えられなかった。


白龍が瞬間移動し、市川の横に出現。

拳を振り抜き、数字の位置を正確に狙う。


目的を察した市川は即座に回避。

歯を食いしばり、強烈な危機感が背筋を駆け上がる。


風属性を使い、身体を宙へと弾き上げた。


だが、白龍はすぐさま引力を発動。

市川を引き戻す。


市川は刹那で反応し、

二人の間に氷壁を展開する。


引力が阻まれる。


――次の瞬間。


白龍が空間を圧縮し、爆砕。

氷壁は粉々に砕け散った。


直後、巨大な火球が飛来する。


白龍は空間を開き、

火球をすべて虚無へと呑み込んだ。


閉じるより早く――


雷の矢が風を切って飛来する。


白龍は腕を上げるのがやっとだった。

直撃。電光が爆ぜ、気が大きく揺らぐ。


市川は小さく息を吐いた。


だが、次の瞬間――

全身が凍りついた。


市川の前に、五体の白龍が立っていた。

冷たい視線で、四方から見据えている。


市川は迷わず、周囲一帯を氷結させた。


そして――気づく。


幻影だ。


氷結が完成したその瞬間、

本物の白龍が市川のすぐ傍に現れていた。


近すぎる。


反応できない。


空間と光を纏った拳が、

腕のローマ数字Ⅰへと叩き込まれる。


ドン――!


時計の効果が発動した。


打たれた部位が水晶のようにひび割れ、

その周囲の空間が粉砕される。


――セシリアの能力に酷似しているが、

規模は小さい。


市川は吹き飛ばされ、

腕に走る激痛で感覚が麻痺した。


針が、再び一目盛り進む。


今度は――

ローマ数字Ⅱが市川の背中に浮かび上がった。


白龍は拳を下ろす。


その身体が、わずかに変質し始める。

気配が深まり、周囲の空間が明確に揺らいだ。


彼は片手を掲げる。


掌の中に、渦が生まれる。


――小さな銀河のように回転するそれは、

周囲の空気を歪ませるほどの引力を放っていた。


新たな能力。


完成された技ではない。


自らの限界を試すための力。


その瞬間、市川は悟った。


この時計は、

即座に自分を殺すためのものではない。


これは――指標だ。


市川の身体に刻まれた数字を叩くたび、

白龍は一段階ずつ前へ進む。


一拍、一層――

己の限界を切り拓いていく。


もし、すべての数字が刻み終えられたなら――


彼は、

力の極限へと到達する。


市川が低く呟く。


「……厄介だな」


その瞬間――

白龍の“真の能力”が、ついにその輪郭を現し始めた。

戦場の、光と破壊に満ちた世界とはまったく異なる場所――


小さな焚き火の傍で、ツバサは世界が揺れ動いていることなど存在しないかのように、静かに料理をしていた。

向かい側にはゾアが座り、ツバサの焼いた魚を口に運びながら、遠くに映し出される光景を見つめている。


ゾアが低い声で切り出した。


「あなたほどの年齢なら……白龍の能力を知っているはずだ。

そして、なぜ奴が――市川が無限に再生できるにもかかわらず、戦い続けることに自信を持っているのかも」


ツバサは小さく笑った。


遠い記憶を含んだ、どこか懐かしい笑みだった。


「もちろんだ」


そう答えてから、彼は続ける。


「かつて、私はすべての《竜誓》と戦ったことがある。

――当然、白龍ともな」


魚を裏返しながら、信じられないほど平静な声で言う。


「あの頃のあいつの戦力値は……せいぜい百五十万程度だった」


ゾアはわずかに目を細めた。


ツバサは続ける。今度は声が、はっきりと低くなった。


「白龍が自信を持っている理由はな……

あいつが今、あの状態に入っているからだ」


それは、いかなる通常の生命体の想像も遥かに超えた状態。


力で殴り合うのではなく――

世界と能力、その“根幹の弱点”を直接叩くための在り方。


「それはある“存在”の変質形だ」


ツバサはゆっくりと言葉を選ぶ。


「世界の運行に干渉しようとする者たちの概念を……

すでに超えているとさえ言われた、ある実体のな」


彼は空を仰いだ。


「この世界に黙示録の四騎士がいて、

法則を歪める魔女がいるとするなら――

そいつは、彼らが生み出すすべてを《無効化できる》存在だ」


ゾアは息を呑んだ。


「時間を逆行させようと、

空間を破壊しようと――

それらは一切、そいつには届かない」


ツバサは焼き網を下ろす。


「すべてが一直線に進むとき……

そいつは、ただ逆方向へ歩くだけでいい。

――それだけで、すべては崩壊する」


ゾアは拳を強く握り締めた。


「……そして白龍は、

そいつの“一部”を宿している」


ゾアは即座に問い返した。


「なぜ白龍が、それを受け取った?」


ツバサは迷わず答える。


「過去において……

白龍は、唯一そいつを見下さなかった存在だったからだ」


彼は静かに語り始めた。


「そいつは軽んじられ、

すべてを奪われ、

弱いという理由だけで踏みにじられていた」


「望んでいたのは、たった一つ――

静かな平穏だけだった」


「だが、そのささやかな平穏さえ……壊された」


ツバサの声が、かすかに震える。


「当時の強者たちの中で……

その平穏を守ろうとしたのは、白龍だけだった」


「――自分自身も、守れるほど強くなかったにもかかわらず」


ツバサは、悔恨を帯びた微笑みを浮かべる。


「昔の世界は……今より、ずっと残酷だった」


「今のお前が見ている強大な白龍は……

かつては、弱き者を守ろうとした、ただの弱者だった」


ゾアは、囁くように尋ねた。


「……だから、その存在は白龍に力を?」


ツバサは小さく頷く。


「かつて虐げられていたその存在は……人間だった」


「短い寿命ゆえに……

白龍より先に、この世を去った」


「だが死ぬ前に……

唯一の友へ、何かを残したかったのだ」


空気が凍りついたように静まる。


「その遺骨は……白龍に吸収され、

彼自身の一部となった」


「そして白龍は、

**ごく小さな“権能”**を継承した」


ゾアの喉が、ひりつく。


「その権能は――」


ツバサは言う。


「この世界の任意の概念を、一定時間“消去”することを可能にする」


ゾアは目を見開いた。


「それはつまり……」


「その通りだ」


ツバサは遮った。


「市川の“再生”という概念は、すでに消されている」


「しかも残酷なことに――

本人は、それをまだ知らない」


「白龍がその状態を解除した時にのみ……

その概念は、世界へ返還される」


ツバサは、遠くの戦場を見つめた。


「あの宇宙的な状態は……

白龍が到達できる、最高位の進化段階だ」


「その状態でしか……

あいつは、あの存在の力をほんの一部しか引き出せない」


「それでも……時間制限がある」


ゾアが静かに尋ねる。


「……では、今この瞬間、

本当に負けているのは――市川?」


ツバサは、かすかな声で答えた。


「そうだ」


「市川は……

白龍の前で“究極能力”を使った瞬間に、すでに負けていた」


「今まで立っていられた理由は、ただ一つ」


「白龍が……

あいつに“もう一度だけ”チャンスを与えているからだ」


ゾアは拳を握り締める。


「……それでも、市川が逆転する可能性は?」


ツバサは、長い沈黙の後に言った。


「可能性は、ある」


「だがこのままでは……確実に敗れる」


「市川は……

この事件で、死ぬ」


彼は小さく息を吐いた。


「――アコウが、まだ何かを隠していない限り」


再び、沈黙。


「だが……

アコウは、すでに敗北している」


市川の敗北――

それは、もはや確定事項となった。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

正直なところ、最初から最後まで追ってくださっている読者の方は、それほど多くないかもしれません。

そのため、ここで本作の今後の展開について、少しだけお話しさせてください。


この章を含む現在のアークは、市川を覚醒へと導く「人狩りのゲーム」と、

形を持たず変貌する悪魔が、新たな次元へと到達するまでを描くアークになります。


その次のアークは、国家規模の戦いへと発展し、

これまでのアークに登場してきた、いわゆる“要人級”の人物たちがほぼ全員登場します。

さらに、すでに登場しているある人物が完全に覚醒し、

一国そのものを滅ぼしかねない破壊的な力を手に入れます。


そのアークの終盤では、国家規模の戦力を持つ登場人物たちが、

たった一人の存在に立ち向かうことになります。

そして主人公がその後に迎える覚醒もまた、

その存在と対峙するために用意されたものです。


これまで物語を追い続けてくださっている方は、ぜひ楽しみにしていてください。

それは、アコウが持てる知略のすべてを注ぎ込んでも、

勝利が保証されるとは限らない――そんな規模の巨大なアークになる予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ