第76話: 消された概念
次の章も引き続き、市川と白龍の戦闘になります。
今回は戦術よりも、より武術・肉 thể戦を重視した内容になります。
戦闘中心の章であるため、本章および今後しばらくの章は、通常よりやや長めの構成になります。
もし読んでいて負担が大きいと感じられましたら、章を分割するなどのご意見をいただけると助かります。
「なるほど……これが、奴が用意していた“環境破壊”の切り札か」
アコウはモニターの前で、微動だにせず座っていた。
その瞳に驚愕はない。ただ、深く沈み込むような思索の色だけが宿っている――まるで、あらゆる可能性をすでに想定していたかのように。
それでも、アコウは認めざるを得なかった。
白龍が今しがた見せたものは、“常識”の枠を大きく逸脱している。
極めて高度な一手だった。
単に環境を破壊しただけではない。
白龍は――**市川に“手札をすべて晒させた”**のだ。
能力。
その派生。
環境による優位性。
生死の圧力の中で、市川が有していたほぼすべてが露わになった。一方で、白龍はどうだ。
彼は完全に新しい状態を提示したにもかかわらず、
その形態において――具体的な能力を一切明かしていない。
この瞬間から、白龍の行動はすべて未知数となった。
どれほどの力をまだ温存しているのか。
その状態に、限界は存在するのか。
誰にも分からない。
対して市川は、生きてはいるものの、完全に不利な立場へと追い込まれた。
本来、決定的な戦いまで秘匿すべき情報――
彼の能力の核心が、今や世界中に晒されてしまったのだから。
白龍は、この切り札を早まって切ったわけではない。
耐え、凌ぎ、段階的に市川を深部へと追い込み、
全力を引き出し、すべてを使わせた上で――最後に叩き潰した。
結果、市川は重傷。
白龍は、まるで何事もなかったかのように、万全の状態へと帰還した。
完璧な局面反転。
敵の立場でありながら、アコウは否定できなかった。
白龍の戦闘経験は、圧倒的だ。
学術的な知性や、複雑な策謀に長けたタイプではない。
だが彼は、己の能力を誰よりも理解し、
それを最も冷酷かつ最適な形で運用できる存在だ。
――それこそが、最も恐ろしい。
戦場へと視点は戻る。
市川は、もはや通常の戦闘を続行できる状態ではなかった。
全身に刻まれた重傷。
筋肉は悲鳴を上げ、呼吸の一つ一つが鈍い痛みを伴う。
極限能力の反動も残っている。
しばらくの間、大規模なスキルを発動することは不可能だ。
純粋な格闘も選択肢にはならない。
今の状態で一瞬でも判断を誤れば――即、粉砕される。
それでも、市川は身体を起こした。
その瞬間、白龍の声が響く。
低く、冷たい声音で。
「今回は――機会をくれてやろう」
市川が顔を上げる。
「油断ではない」
白龍は続けた。
「強者への敬意だ。この戦いがここで終わるなら――人類も、ここで終わる」
一拍の間。
「この借りは、刻み込んでおけ」
警告はなかった。
光の斬撃が空間を引き裂き、
一瞬で市川の身体を両断する。
反応する時間はない。
回避の余地もない。
死は、絶対だった。
市川の身体は砕け、崩れ、
やがて大地へと還る――
まるで、最初から存在しなかったかのように。
息が詰まるほどの静寂。
その中で、白青色の気流が虚無から噴き出した。
渦を巻き、凝縮し、
肉体を、エネルギーの脈動を――一つずつ再構築していく。
市川は、蘇った。
そこに立つ姿は、完全無傷。
生命力は満ち溢れ、敗北の痕跡はない。
だが、瞳だけが違った。
より鋭く、より重く、現実を直視する色。
市川は、白龍を真正面から見据える。
「……その“機会”って、どういう意味だ?」
静かに言葉を続ける。
「俺が再生することは、分かっていたはずだろ。
それなら――どうして、それを“機会”と呼ぶ?」
言葉が終わるより早く――
白龍の姿は消えていた。
次の瞬間、市川の正面の空間が爆ぜた。
凄まじい威力を伴った拳が叩き込まれたのだ。
市川は即座に後退し、間一髪で回避する。
もはや環境による強化はない。
力の底上げもない。
――一歩一歩が、命懸けだ。
正面から一撃でも食らえば……
その結末は、想像するまでもない。
先ほどの拳に宿る速度と質量を肌で感じ取った瞬間、
市川は一つの恐ろしい事実を悟った。
真正面からの殴り合いでは――
引き分けが限界。勝つことはできない。
極限能力の状態であれば、わずかに上回れるかもしれない。
だが、白龍が純粋な戦闘経験を最大限に活かしてくるなら――
敗北は避けられない。
白龍は答えない。
そのまま攻勢を強め、休む間も与えず市川を追い詰める。
戦いながら、考える時間すら奪う勢いで。
(無限再生のせいで殺せないとしたら……)
(じゃあ、奴の言っていた“機会”とは、一体何だ?)
その思考が脳裏をよぎった――
次の瞬間、白龍が懐へ踏み込んでいた。
光と空間を収束させた正拳突き。
あまりの威力に、市川の身体は無数の氷片のように砕け散る。
だが、その刹那――
白龍は異変に気づいた。
「……人形か」
即座に背後へ手を伸ばし、引力を発動。
本体の市川を強引に引きずり出す。
体勢を整える暇もない。
市川は両腕で、次の拳を受け止めるしかなかった。
――ドンッ!
衝撃が炸裂し、市川の意識が揺さぶられる。
身体は大きく吹き飛ばされ、次の瞬間、上空から数十本の光の棘が断罪の雨のように降り注いだ。
市川は咄嗟に光速転移を発動。
紙一重で回避する。
観客席から、困惑した声が上がる。
「待て……市川って、極限能力を使った後は能力が使えないんじゃなかったのか?」
「再生したなら、状態は完全回復のはずだろ……
だったら、どうして環境を再展開しない?」
その疑問に、別の――正体不明の観客が低く冷たい声で答えた。
「もし再生後も環境が使えたなら……
最初の再生時点で、変異悪魔も白龍もまとめて閉じ込めて終わっていた」
「ゾアが追撃する必要すらなかったはずだ」
重苦しい沈黙が広がる。
そして――真実が浮かび上がった。
どうやら、再生直後の市川は、極限能力を使用できない。
環境を展開できない時間――
それこそが、再生に伴う絶対条件なのだ。
それはつまり――
その瞬間の市川は、
もはや“不敗”ではないということだった。
――戦場へ、再び。
白龍は完全に主導権を握っていた。
新たな形態は、未知の能力を与えたわけではない。
それ以上に恐ろしいのは――既存の基礎を、極限まで増幅していることだった。
一つ一つの動きは無駄が削ぎ落とされ、
一撃ごとの威力は跳ね上がり、
速度は視覚が追いつかない領域へと押し上げられている。
使っているのは、見慣れた技だけ。
だが――
それらに付随する“数値”が、もはや別物だった。
白龍は引力を連続で発動し、市川を糸に操られた玩具のように引き寄せる。
胸の奥に、不快な圧迫感が積み重なっていく。
そのとき、市川は異変に気づいた。
――白龍は、エネルギー消費を一切気にしていない。
技は連続で、ほとんど無造作に使われている。
一つの疑念が脳裏をよぎる。
(まさか……この形態でも、エネルギーが無限なのか?)
確かめる暇はない。
市川は思考を切り捨て、戦闘に集中する。
二人は激突した。
距離も、牽制も、読み合いもない。
残されたのは――純粋な格闘。
だが、振るわれる拳の一つ一つが、
まるで一つの種族の運命を背負っているかのように重い。
市川は回避し、反撃を繰り返す。
しかし白龍の速度は圧倒的で、何度も対応が遅れ、打撃を受け、刹那の眩暈に襲われた。
戦場は中央から広がり、
やがて――古代ローマの闘技場を模した観客席へと移っていく。
闘技場の床から、石段、観覧席へ。
放たれる技の一つ一つが、
数千年の歴史を持つ建造物を粉砕していった。
石は砕け、柱は崩れ、観客席は瓦礫と化す。
――すべては変異悪魔が構築した仮想空間ゆえ、すぐに再生される。
だが、それでも。
その破壊規模は、観る者の背筋を凍らせるには十分だった。
白龍が接近し、空間を圧縮して至近距離で爆発させる。
市川は氷の属性で即座に防壁を展開するが、
衝撃は防御を貫き、腕が痺れる。
間を置かず、市川が反撃に出る。
地面から氷の棘が突き上がり、白龍を貫いた。
――命中。
だが、回復があまりにも速い。
傷は広がる前に塞がっていく。
白龍は咆哮し、爆発的な気を放って氷を粉砕、
そのまま一気に踏み込んだ。
拳が振り下ろされる。
市川は跳ね退いて回避し、即座に火属性へ移行。
炎の竜頭が咆哮し、白龍へ殺到する。
空間が歪み、不可視の防壁が展開される。
炎はすべて――虚無へと呑み込まれた。
息をつく間もなく、
白龍は銀河の渦を生成する。
凄まじい吸引力が、市川を中心へ引きずり込もうとする。
市川は即座に下半身を凍結させ、地面に固定した。
その瞬間――
白龍が光速転移で背後に現れた。
だが、地面が震える。
巨大な古樹が地中からせり上がり、白龍の身体を締め上げる。
白龍は力任せに抗い、気を爆発させる。
正面では、市川が雷の弓を構えていた。
弦が引き絞られる。
――雷の矢が唸りを上げ、一直線に放たれる。
ドォン――!
天地を揺るがす爆音。
光が白龍の姿を呑み込み、衝撃波が市川を後退させた。
だが、煙の中で――
白龍は消えていた。
次の瞬間、市川の背後に現れ、全力の拳を叩き込む。
市川は身を捻り、紙一重で回避。
同時に相手の腕を絡め取り、打撃を封じる。
身体が即座に氷へと変化した。
――入れ替わり。
白龍の背後にあった氷の分身と、市川が瞬時に位置を交換する。
再び、雷の弓が現れる。
二本目の矢が、背中へと放たれた。
ドォン――!
二度目の爆発。
反動で市川は弾き飛ばされ、
白龍は直撃を受け、身体から煙が立ち上る。気配が一瞬乱れた。
だが――倒れない。
純粋な力で残存する拘束をすべて破壊し、
白龍はゆっくりと顔を上げ、市川を見据えた。
その瞳に、もはや平静はない。
「どうやら……」
「……初期の限界を、越える時が来たようだな」
市川は、その言葉を聞いた瞬間に理解した。
――ここから先は、
もはや自分の知っている領域ではない。
「なぜ、奥義で無理に押し切らない?」
その問いは、確認のように投げかけられた。
だが実際には――試しだった。
市川の中で、ある仮説が形を成し始めていた。
白龍は、再び
市川の“環境”を歪めることができるのか?
そして、なぜそんな質問をしたのか。
理由は一つしかない。
最も合理的な仮説――
白龍は意図的に自身の環境を展開していない。
市川が回復し、再び奥義の環境を展開した瞬間を狙っている。
その瞬間、空間構造を完全に歪め、
市川をスキル回復状態へと追い込み――
即座に自らの環境を発動し、決着をつける。
だからこそ、この問いは単なる探りではない。
もし白龍が答えれば、
それは目的を露呈することになる。
もし沈黙するなら――
市川の推測は、正しい。
質問が放たれた直後――
市川の足元に、透明なローマ式の時計盤が現れた。
ガラスのような盤面は存在しないかのように透け、
その下では青紫の銀河がきらめきながら、
ゆっくりと回転している。
――まるで、宇宙そのものの時間を数えているかのように。
市川は息を呑んだ。
その出現を、まったく感知できなかった。
針が、かすかに一目盛り進む。
その瞬間――
市川の上腕に、ローマ数字が浮かび上がった。
彼は硬直し、
皮膚に刻まれた記号を凝視する。
「……なんだ、これは……?」
考える暇は与えられなかった。
白龍が瞬間移動し、市川の横に出現。
拳を振り抜き、数字の位置を正確に狙う。
目的を察した市川は即座に回避。
歯を食いしばり、強烈な危機感が背筋を駆け上がる。
風属性を使い、身体を宙へと弾き上げた。
だが、白龍はすぐさま引力を発動。
市川を引き戻す。
市川は刹那で反応し、
二人の間に氷壁を展開する。
引力が阻まれる。
――次の瞬間。
白龍が空間を圧縮し、爆砕。
氷壁は粉々に砕け散った。
直後、巨大な火球が飛来する。
白龍は空間を開き、
火球をすべて虚無へと呑み込んだ。
閉じるより早く――
雷の矢が風を切って飛来する。
白龍は腕を上げるのがやっとだった。
直撃。電光が爆ぜ、気が大きく揺らぐ。
市川は小さく息を吐いた。
だが、次の瞬間――
全身が凍りついた。
市川の前に、五体の白龍が立っていた。
冷たい視線で、四方から見据えている。
市川は迷わず、周囲一帯を氷結させた。
そして――気づく。
幻影だ。
氷結が完成したその瞬間、
本物の白龍が市川のすぐ傍に現れていた。
近すぎる。
反応できない。
空間と光を纏った拳が、
腕のローマ数字Ⅰへと叩き込まれる。
ドン――!
時計の効果が発動した。
打たれた部位が水晶のようにひび割れ、
その周囲の空間が粉砕される。
――セシリアの能力に酷似しているが、
規模は小さい。
市川は吹き飛ばされ、
腕に走る激痛で感覚が麻痺した。
針が、再び一目盛り進む。
今度は――
ローマ数字Ⅱが市川の背中に浮かび上がった。
白龍は拳を下ろす。
その身体が、わずかに変質し始める。
気配が深まり、周囲の空間が明確に揺らいだ。
彼は片手を掲げる。
掌の中に、渦が生まれる。
――小さな銀河のように回転するそれは、
周囲の空気を歪ませるほどの引力を放っていた。
新たな能力。
完成された技ではない。
自らの限界を試すための力。
その瞬間、市川は悟った。
この時計は、
即座に自分を殺すためのものではない。
これは――指標だ。
市川の身体に刻まれた数字を叩くたび、
白龍は一段階ずつ前へ進む。
一拍、一層――
己の限界を切り拓いていく。
もし、すべての数字が刻み終えられたなら――
彼は、
力の極限へと到達する。
市川が低く呟く。
「……厄介だな」
その瞬間――
白龍の“真の能力”が、ついにその輪郭を現し始めた。
戦場の、光と破壊に満ちた世界とはまったく異なる場所――
小さな焚き火の傍で、ツバサは世界が揺れ動いていることなど存在しないかのように、静かに料理をしていた。
向かい側にはゾアが座り、ツバサの焼いた魚を口に運びながら、遠くに映し出される光景を見つめている。
ゾアが低い声で切り出した。
「あなたほどの年齢なら……白龍の能力を知っているはずだ。
そして、なぜ奴が――市川が無限に再生できるにもかかわらず、戦い続けることに自信を持っているのかも」
ツバサは小さく笑った。
遠い記憶を含んだ、どこか懐かしい笑みだった。
「もちろんだ」
そう答えてから、彼は続ける。
「かつて、私はすべての《竜誓》と戦ったことがある。
――当然、白龍ともな」
魚を裏返しながら、信じられないほど平静な声で言う。
「あの頃のあいつの戦力値は……せいぜい百五十万程度だった」
ゾアはわずかに目を細めた。
ツバサは続ける。今度は声が、はっきりと低くなった。
「白龍が自信を持っている理由はな……
あいつが今、あの状態に入っているからだ」
それは、いかなる通常の生命体の想像も遥かに超えた状態。
力で殴り合うのではなく――
世界と能力、その“根幹の弱点”を直接叩くための在り方。
「それはある“存在”の変質形だ」
ツバサはゆっくりと言葉を選ぶ。
「世界の運行に干渉しようとする者たちの概念を……
すでに超えているとさえ言われた、ある実体のな」
彼は空を仰いだ。
「この世界に黙示録の四騎士がいて、
法則を歪める魔女がいるとするなら――
そいつは、彼らが生み出すすべてを《無効化できる》存在だ」
ゾアは息を呑んだ。
「時間を逆行させようと、
空間を破壊しようと――
それらは一切、そいつには届かない」
ツバサは焼き網を下ろす。
「すべてが一直線に進むとき……
そいつは、ただ逆方向へ歩くだけでいい。
――それだけで、すべては崩壊する」
ゾアは拳を強く握り締めた。
「……そして白龍は、
そいつの“一部”を宿している」
ゾアは即座に問い返した。
「なぜ白龍が、それを受け取った?」
ツバサは迷わず答える。
「過去において……
白龍は、唯一そいつを見下さなかった存在だったからだ」
彼は静かに語り始めた。
「そいつは軽んじられ、
すべてを奪われ、
弱いという理由だけで踏みにじられていた」
「望んでいたのは、たった一つ――
静かな平穏だけだった」
「だが、そのささやかな平穏さえ……壊された」
ツバサの声が、かすかに震える。
「当時の強者たちの中で……
その平穏を守ろうとしたのは、白龍だけだった」
「――自分自身も、守れるほど強くなかったにもかかわらず」
ツバサは、悔恨を帯びた微笑みを浮かべる。
「昔の世界は……今より、ずっと残酷だった」
「今のお前が見ている強大な白龍は……
かつては、弱き者を守ろうとした、ただの弱者だった」
ゾアは、囁くように尋ねた。
「……だから、その存在は白龍に力を?」
ツバサは小さく頷く。
「かつて虐げられていたその存在は……人間だった」
「短い寿命ゆえに……
白龍より先に、この世を去った」
「だが死ぬ前に……
唯一の友へ、何かを残したかったのだ」
空気が凍りついたように静まる。
「その遺骨は……白龍に吸収され、
彼自身の一部となった」
「そして白龍は、
**ごく小さな“権能”**を継承した」
ゾアの喉が、ひりつく。
「その権能は――」
ツバサは言う。
「この世界の任意の概念を、一定時間“消去”することを可能にする」
ゾアは目を見開いた。
「それはつまり……」
「その通りだ」
ツバサは遮った。
「市川の“再生”という概念は、すでに消されている」
「しかも残酷なことに――
本人は、それをまだ知らない」
「白龍がその状態を解除した時にのみ……
その概念は、世界へ返還される」
ツバサは、遠くの戦場を見つめた。
「あの宇宙的な状態は……
白龍が到達できる、最高位の進化段階だ」
「その状態でしか……
あいつは、あの存在の力をほんの一部しか引き出せない」
「それでも……時間制限がある」
ゾアが静かに尋ねる。
「……では、今この瞬間、
本当に負けているのは――市川?」
ツバサは、かすかな声で答えた。
「そうだ」
「市川は……
白龍の前で“究極能力”を使った瞬間に、すでに負けていた」
「今まで立っていられた理由は、ただ一つ」
「白龍が……
あいつに“もう一度だけ”チャンスを与えているからだ」
ゾアは拳を握り締める。
「……それでも、市川が逆転する可能性は?」
ツバサは、長い沈黙の後に言った。
「可能性は、ある」
「だがこのままでは……確実に敗れる」
「市川は……
この事件で、死ぬ」
彼は小さく息を吐いた。
「――アコウが、まだ何かを隠していない限り」
再び、沈黙。
「だが……
アコウは、すでに敗北している」
市川の敗北――
それは、もはや確定事項となった。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
正直なところ、最初から最後まで追ってくださっている読者の方は、それほど多くないかもしれません。
そのため、ここで本作の今後の展開について、少しだけお話しさせてください。
この章を含む現在のアークは、市川を覚醒へと導く「人狩りのゲーム」と、
形を持たず変貌する悪魔が、新たな次元へと到達するまでを描くアークになります。
その次のアークは、国家規模の戦いへと発展し、
これまでのアークに登場してきた、いわゆる“要人級”の人物たちがほぼ全員登場します。
さらに、すでに登場しているある人物が完全に覚醒し、
一国そのものを滅ぼしかねない破壊的な力を手に入れます。
そのアークの終盤では、国家規模の戦力を持つ登場人物たちが、
たった一人の存在に立ち向かうことになります。
そして主人公がその後に迎える覚醒もまた、
その存在と対峙するために用意されたものです。
これまで物語を追い続けてくださっている方は、ぜひ楽しみにしていてください。
それは、アコウが持てる知略のすべてを注ぎ込んでも、
勝利が保証されるとは限らない――そんな規模の巨大なアークになる予定です。




