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第73話

ここに至って、市川イチカワの能力が極めて特異なものであることが明らかになる。


既に知られている通り、イチカワは遥か昔に一度、首を完全に刎ねられている。

それにもかかわらず、今なお彼は立ち、普通に言葉を発している。


これはアックが時間能力を使った結果ではない。

――これはガイアの力だ。


イチカワは生命の象徴であり、次代のガイアそのもの。

つまり、イチカワを完全に殺すということは、この世界に存在するすべての生命を滅ぼすことと同義になる。


生命が存在する限り、

イチカワは何度でも蘇り、生き続ける。


ではなぜ、セシリアはゾアと共に戦っていなかったのか。

誰かに止められていた理由――それこそが、イチカワ本人である。


イチカワのもう一つの特殊能力。

それは、死亡から5秒以内の存在を蘇生させる力。


蘇生された個体は、

最盛期――完全なエネルギーと技量を備えた、最高の状態で復活する。


だからこそ、イチカワはゾアに「死ぬまで戦わせた」。

この能力を最大限に活かすために。


セシリアが参戦しなかったのも、そのためだ。


イチカワが蘇ることで、彼は周囲に力を分け与えることができる。

最適状態にあるゾアが、選ばれない理由はなかった。


セシリアは人質の防衛へ戻る。

ルールが変わった以上、この戦いはまだ終わらない。


その時、

変異悪魔は振り返り、ゾアを見て言った。


「どうやら、今の私ではお前に勝てそうにない。

力は尽き、お前はイチカワに強化された」


ゾアは一歩も引かず、答える。


「なら、他の連中を呼べばいい。

ハンター側には、まだ残ってるだろ?」


変異悪魔はイチカワを一瞥し、静かに言った。


「未登場の者たちに、正体や能力を晒すわけにはいかない。

ここでは私が犠牲になるしかない……だが」


彼は薄く笑った。


「――私がここで死ぬことを、許さない者がいる」


その直後。

和風の意匠が施された、光り輝く刀がゾアの目前に突き立てられた。


ゾアは即座に、それが誰のものか理解する。


「悪いな。裏切るつもりはないが、

こいつはここで死なせるわけにはいかない」


「進むなら、俺がお前の相手をする」


――ツバサ。


圧倒的な気配が場を支配し、ゾアは警戒を強める。

それでも冷静に言い返した。


「アコウがいないと、随分自由だな。裏切り放題か?」


ツバサは淡々と答える。


「裏切りじゃない。

個人的な理由で、仲間を止めているだけだ」


「俺の派閥は、今も変わらない」


ゾアは肩をすくめる。


「なら止めてみろ。

俺も、あんたの実力を知りたい」


そう言うや否や、ゾアは手にしていた武器を消去する。

ツバサが一瞬、注意を逸らしたその隙に――


ゾアは背後へ跳び、別の刀を具現化。

エネルギーが融合し、刀の形を成す。


初撃。

剣の能力を込めた一閃。


空間が裂け、眩い光が世界を二分する。

金属音が響き、ツバサは身を翻し、抜刀して受け止めた。


ゾアの武器の正体を掴めず、彼は慎重に観察を続ける。


その隙に、変異悪魔は海賊の少女と共に離脱。

十分な視界を確保できる位置で、戦いを見守る。


「いい剣だな。能力も悪くない」


次の瞬間。

ツバサの胸元に、浅い裂傷が走る。


衣服が裂け、彼は数歩下がる。

空間は断片化され、無数の斬撃がツバサを襲う。


ツバサは即座に剣を舞わせ、すべてを防ぎ、空間を元に戻した。


「面白い能力だな」


彼は笑う。


「一人一人が、違う武器、違う力。

そりゃあ、妬まれるわけだ」


不可視の斬撃が飛ぶ。

ツバサは弾き返す。


ゾアは真剣な表情で言った。


「あなた、本気じゃない。

距離を保ち、能力を隠しているだけだろ?」


ツバサは大笑いする。


「なら、一瞬でお前を殺せば済む話だ。

何も露見しない」


ゾアは即答した。


「俺を殺せば、アコウを敵に回す。

それが得策じゃないのは、分かってるはずだ」


沈黙の後、ツバサは頷いた。


「……確かに、正しい判断だ」


その瞬間、

見えない斬撃が無数に走り、ゾアの腕と手を切り裂く。


血が噴き出す。

剣先が首元に触れ、皮膚を裂き、赤が刃を伝う。


「やめろ。

これ以上、戦う必要はない」


「舞台はイチカワと白龍に譲れ」


ゾアは歯を食いしばる。


「調子に乗るな」


空間が歪み、斬撃が一斉にツバサへ。

彼は剣で防ぐが、ゾアは真正面から突っ込む。


――だが、剣を握り続けられない。

刀が地面に落ちる。


ツバサの肘打ち。

後退するゾアに、強烈な蹴りが叩き込まれ、吹き飛ばされる。


立ち上がろうとした瞬間、

別の斬撃が胴を裂き、血が溢れる。


「言ったはずだ。

この戦いに、意味はない」


無限に近いエネルギーを得てなお、

ゾアはツバサに敵わない。


彼の力は、イチカワや白龍すら上回っていた。


――アコウは遠くから観察していた。


ツバサは、並の存在ではない。

変異悪魔との関係、外部での立場――

竜でさえ頭を垂れる存在。


疑問が浮かぶ。

なぜブラックウィングスの首領は、このゲームを止めない?


長命の竜でさえ知らぬツバサを、

海賊の少女は知っている。


――最初から、ハンター側は全員、彼を知っていたのではないか。

アコウの介入が、計画を狂わせただけ。


ゾアが相対しているのは、

イチカワ以上の存在。


勝算は、ほぼゼロ。


それでも首領は気にしない。

ゾアは重要だが、死ねば代替案がある。

このゲーム自体、大した価値はない。


ツバサが力を誇示しない理由。

それはイチカワではなく、

ブラックウィングスの首領に対してだ。


アックの言葉が脳裏をよぎる。


――どれだけ時間を巻き戻そうと、

首領には勝てない。


アコウは小さく息を吐いた。


「……本当に、心配だ」


イチカワは不死だ。

だが、首領は覚醒直後のイチカワを殺している。


――殺し方が、まだ分からないだけ。


戦場に戻る。


白龍の前で、ゾアは完全に抑え込まれていた。

一撃一撃が、命を奪える威力。


(……一体、何者なんだ)


黒炎を天まで燃え上がらせ、

イチカワから授かったエネルギーを解放する。


『このままじゃダメだ。

どうにかして、あいつを拘束できないか』


イチカワの声が返る。


『君が相手にしているものは、私にも感じ取れる。

正直に言う――正面から戦う相手じゃない』


『距離を取れ。死ぬな』


ゾアは理解した。

イチカワですら認める脅威。


ツバサは溜息をつく。


『何のために、そこまで抗う?

私は君の仲間を傷つけない』


『今さら追っても、変異悪魔は逃げ切っている』


ゾアは睨み返す。


『どう信用しろっていうんだ。

敵を守る奴に?』


『君が言っただろ。

私はアコウを裏切れない、と』


ゾアは黙る。


彼らの目的は、ツバサの正体と力。

情報があれば、次に活かせる。


ツバサはそれを悟り、刀に手を掛ける。


次の瞬間。

ほんのわずかな踏み込み――


無数の斬撃がゾアを切り裂く。

まだ半分も抜かれていない刀で。


膝をつくゾア。

蹴りをかわし、跳ね起きるが、

不可視の一閃が腕を断ち、剣を落とす。


「剣を何度も落とす戦いで、

何を望める?」


風のように現れ、壁へ叩きつける。

岩が砕け散る。


首元に柄を押し付け、地に伏せさせる。


「降参しろ、ゾア。

お前は、俺に勝てない」


なおも抗おうとするゾアに、ツバサは言った。


「知りたいことがあるなら、話そう。

戦わないならな」


「情報と引き換えに、戦うなって?」


ツバサは笑う。


「大した話じゃない。

皆が知ってる程度のことだ」


沈黙の後、ゾアは言った。


「……なら、あんたの正体を教えろ」


ツバサは予想通りだとばかりに微笑み、

刀を収め、イチカワと白龍を見据える。


「俺の正体は――」

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