第71話
遠くから、ゾアは友の首が斬り落とされる光景を目撃し、衝撃を受けた。
その瞬間、彼の目の中の世界は粉々に崩れた。
ゾアの身体は怒りで震える――恐怖ではなく、無力感ゆえの震えだった。
胸中に激烈な感情が溢れ、意識を引き裂くかのように暴れた。
身体の記憶の流れが動き出す。
それはゾアだけのものではない――この身体そのものの過去の断片が洪水のように押し寄せる。
かつて存在した感覚、失われたもの、絶望――すべてが同時にゾアの怒りを極限まで増幅した。
彼は自身の身体から剣を召喚する。
黒い炎が燃え上がる。
ゾアは戦場に突入し、白龍と真正面から対峙するつもりだった。
だが、再びツバサが立ちはだかる。
「感情に流されるな」
ゾアは振り返り、赤く染まった瞳を光らせた。
「流されるって、どういう意味だ?」
「友はもう死んだ!」
憤怒に震える声。
「今ここで立って生き続けるなら、残りの人生、何もできなかった自分を悔やみ続けることになる」
「せめて…友のために死ぬ方がマシだ」
「この屈辱の中で生きるよりも――」
ツバサは沈黙した。
今回は――ゾアを止めることはできない。
変形鬼は一歩一歩、市川の遺体に近づき、首が本当に胴体から離れたかを確認した。
その瞬間――
空間を裂く真っ白な剣光が走る。
バシュッ――!
変形鬼の腕が斬り落とされた。
血が飛び散る。
顔を硬直させる変形鬼。周囲の者たちも、一呼吸すら反応できず目を見開いた。
ゾアはそこにいた。
次の瞬間、身体をひねり、連続斬撃を敵に叩き込む。
白龍は即座に動き、変形鬼の攻撃を防ぐ。
皮膚を裂く深い切り傷、血が飛び散る。
一方、セシリアは能力を発動し、空間破壊の一撃で海賊少女を押し戻す。
白龍が顔を上げると、黒い炎の旋風が襲いかかる。
即座に空間を爆発させ旋風を粉砕し、視線はゾアに向けられた。
「なんだこれは?」
「友と共に死にたいのか?」
突撃準備。
だが、変形鬼が口を開く。
「こいつは俺に任せろ」
「お前は観客席に座ってろ」
「どうせ奥義は回復中だろ?」
白龍は一瞬考えた。
「わかった」
「だが何かあれば、即介入する」
変形鬼はゾアに向き直る。
しかし――
ゾアはいつの間にか白龍のすぐ傍に現れていた。
白龍が振り向くと――
黒い炎の斬撃が首を直撃。
手で受ける。
バシュッ――!
腕が斬り落とされ、血が噴き出す。
幸い、首は深く裂けていない。
白龍は蹴りを放ち、ゾアを吹き飛ばす。
だがその瞬間――
ゾアは白龍の身体から武器を抽出した。
真っ白な剣、異様な紋様が彼の手に現れる。
戦場全体が沈黙する。
ゾアも一瞬、目を見開く――自分が何を引き出したのか、まだ理解できていない。
同時に、変形鬼と海賊少女が突入。
ゾアは武器の能力を発動。
謎の文字が剣身に浮かび上がる。
ドン――!
空間爆発が発生し、二体の敵を吹き飛ばす。
新たな武器。
基準を超えた力。
ゾアは瞬時にそれを感じ取った。
「なんだこれ……?」
「この異常な能力は何だ?」
白龍は後退し警戒、身体を確認――
その武器は白龍の一部を取り込んで生成されたものだと気づく。
しかし考える暇もない。
ゾアが遠距離から斬る。
目に見えない空間の渦が発生、真っ直ぐに飛ぶ。
区域が引き裂かれる。
白龍の防御腕は完全に破壊される。
彼は目を見開く。
ありえない……
ゾアがこんな力を持つはずがない。
急いで回復を起動。
海賊少女が突入しようとしたが、ツバサが立ちはだかる。
剣先を首に突き付ける。
「この戦場は二人に任せろ」
一瞬で二人は消えた。
残るはゾアと変形鬼だけ、対峙する。
「前回のお返しだ」
「今度こそ――お前を叩き潰す、ゾア」
観客席から、アコウが冷笑する。
「戦術価値なし」
「初日で全力出し切ったのか?」
「演出もない――この劇、順序もめちゃくちゃだな」
戦場に戻る。
ゾアは空間斬撃を連続で振るい、一撃一撃を慎重に計算。
広範囲破壊技は長い回復が必要――乱発できない。
アコウは心の中で呟く。
鳳凰の目のおかげで……ゾアは武器を弱から強に昇華させた。
一撃一撃の消費エネルギーは膨大――だが今、それを克服した。
残る問題は……回復時間だ。
ソファにもたれ、水を一口。
これだけ多機能な身体……
もしあの目があれば……本当に神だ、ゾア。
変形鬼は避けつつ反撃するが、ゾアの新たな武器は圧倒的。
ゾアは近接剣技と空間斬撃を組み合わせる。
「新武器、強すぎだな、クソ野郎!」
変形鬼は二本の変形腕でゾアの脚を捕らえ、突進しパンチを放つ。
ゾアは黒い炎を噴き出し、全てを焼き払う。
相手はよろめく。
セシリアが支援しようとしたが、何かを察し、思いとどまる。
ゾアは死角から現れ、斬撃――変形鬼は身を屈め、脚を掃く。
ゾアは転倒。
黒い腕が地面から伸び、押さえつける。
毒が体内に侵入、皮膚を焼く。
変形鬼が黒い尖端を投げつける。
ゾアは逃げ、受け止める。
ドン――!
煙と塵に包まれる。
ゾアは血まみれで跪く。
変形鬼が降りた瞬間、ゾアは跳ね起き、連続斬撃を叩き込む。
黒い装甲が全てを防ぐ。
巨大な手が現れ、ゾアを地面に叩きつける。
数十人の黒衣剣士が取り囲む。
金属音が響く。
変形鬼は無数の黒い尾を生やし、蜘蛛のように身体を支える。
尾が音速で飛来。
ゾアは避けられず、首を擦られ、血が噴き出す。
ここまでできるのか……?
連打。
巨大な黒い球体が投げつけられる。
ゾアは黒炎で反撃。
超爆発。
すべてが消し飛ぶ。
残るは、跪くゾア――全身傷だらけ。
変形鬼が包囲。
「差がありすぎる」
「友と共に死ね」
ゾアは消えた。
空からの無形斬撃が降り注ぎ、地図を引き裂く。
地面が粉砕され、空が二分される。
ゾアは息を切らす。
だが――
黒い手が伸び、足を掴む。
変形鬼――手も足も失った状態で――怪物から現れる。
尾が突き刺さる――ゾアは切り裂く。
戦いは続く。
無数の尖った尾が圧迫。
ゾアは受け止め、耐える。
変形鬼が刃を振るう。
毒が深く浸透。
尾が肩を貫く。
ゾアは吹き飛ばされる。
尾が手を刺し、地面に押さえつける。
黒い球体が落下。
ドン――!
灰塵が覆う。
ゾアは気を失う。
「もう終わりか……?」
ゾアの指が動く。
尾は四肢に突き刺さる。
血を吐く。
だが負けは許さない。
ブラックウィングスが呟く。
「しぶといな……」
ゾアが叫ぶ、黒炎が燃え上がる。
立ち上がる。
剣を握る。
戦闘再開の構え。
「お前、何者だよ、こんなにしぶといのは!」変形鬼が唸る。
空間斬撃が迫る。
戦いは続く。
毒が広がる。
変形鬼は地面を黒く染め、全ての動きを遅らせる。
黒炎も遅延。
ゾアは逃げられず――黒い領域が追従。
変形鬼が冷笑する。
「さて……
お前、どうやって勝つつもりだ?」




