表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/77

第66話

暗黒の虚空の只中――

まるで終末そのものが地上へ降り立ったかのような光景が広がっていた。

大地は焼き尽くされ、黒煙が渦巻き、重たい灰の粒子が、まだ燻る炎の軌跡と混ざり合いながら降り注ぐ――それはまさに破滅の雨だった。


その煙の奥から、歪んだ悪魔が、重い足取りで這い出てくる。

身体は裂け、血肉は焼け焦げ、炭化している。

片足を引きずりながら、荒廃した地から必死に逃れようとするが、喉から漏れる息は嗄れ、赤く濁った瞳には激痛が宿っていた。


彼は震える手を持ち上げ、上位回復魔法を発動しようとする。

かすかな光が指先に灯るが――すぐに掻き消えた。

痛みは引かず、傷も塞がらない。


体内の魔力はすでに、高位エネルギーと極限爆発効果が融合した一撃によって完全に焼き尽くされていた。

回復魔法は、もはや絶望的な残響でしかない。


歯を食いしばり、彼は悟る。

――この身体は、本能的な自己再生に賭けるしかない。

それが叶わなければ、ここで死ぬ。

この灰の海の中で。


「……くそ……なぜ、今になってあいつが覚醒する……!」


悪魔の掠れた呻き声が、闇の空間に溶けていく。


次の瞬間――

灼熱の手が突然、灰に汚れた長い白髪を掴み、乱暴に後ろへ引き倒した。

頭皮を引き裂くような激痛に、悪魔は叫ぶ。


その視界に映ったのは――

怒りに満ちたゾア(Zoah)の顔だった。

地獄の炎を宿したかのような双眸。

そこにあるのは、憎悪と殺意だけ。


「……まだ、立っていられるのか?」


ゾアの声は低く、凍りつくほど冷たい。


返答を許す間もなく、

ゾアは悪魔の身体を持ち上げ、砂袋のように前方へ叩き投げた。

地面が砕け、土砂が舞い上がる。


直後――

無数の斬撃が空間を切り裂いた。

ゾアの剣は光の軌跡を描き、灰の幕を貫通する。

その威力は凄まじく、周囲の煙すら吹き飛ばした。


歪んだ悪魔の身体は連続して切り裂かれ、

数十もの深い裂傷が刻まれる。

血が噴き出し、悲鳴が上がるが、反撃すらできない。

一太刀ごとが、悪夢そのものだった。


ゾアは歩み寄り、

鋼の刃のように冷たい視線で、最後の一撃を振るおうとした――


その時。


上空から、白きバイロンが降臨した。


銀色に輝く翼を打ち広げ、

圧倒的な威圧と共に着地する。

衝撃で大地は爆ぜ、衝撃波が広がり、ゾアの身体を弾き飛ばす。


空間そのものが震え、崩壊寸前だった。


白龍の咆哮が轟く。

冷たく、怒りに満ちた声。


「よくも私を欺き、歪魔を討ったな……!

今度こそ、貴様を――一片残らず粉砕してやる!」


ゾアは地面に手を突き、身体を起こす。

全身に血が滲み、呼吸は荒い。

だが、瞳は揺らがない。


手にした剣が震え、灰と炎を反射する。


歪んだ悪魔は後退し、恐怖に叫ぶ。


「き、貴様……まだ剣を握るつもりか!?

目の前にいる存在が誰かわかっているのか、この小僧!!」


彼は信じていた。

白龍という神話的存在を前にすれば、

人間など膝をつき、絶望するはずだと。


――だが、ゾアは違った。


彼は立ち上がり、真正面から見据える。

静かで、揺るがず、不屈の眼差し。


そして、掠れながらも強い声で言い放つ。


「誰が相手でも、俺は恐れない。

これ以上に恐ろしいものと、何度も向き合ってきた。

……キング(King)の拳に比べれば、目の前のやつなんて、取るに足らない」


その言葉は、火に油を注いだ。


白龍は激昂し、翼を大きく広げる。

白銀のオーラが爆発的に噴き上がる。


一瞬後――

雷光のような速度で突進。

輝く腕が、天雷の一撃を放とうとする。


――だが。


ゾアの姿が消えた。


空間が歪み、灰が逆流する。


白龍の背後――

ゾアが出現した。


彼の両手には、炎を纏うガントレット。

その炎は赤ではない。

黒に、銀河の輝きを混ぜた色――

まるで燃え盛る宇宙そのもの。


漆黒の金属が腕を覆い、

紫と蒼の光が脈動する刻印が、生き物のように走る。


ゾアは全てを込め、拳を振り抜き、叫ぶ。


「――Burn… Galaxy Impact!!」


拳が白龍の背中に突き刺さる。


宇宙を帯びた黒炎の柱が爆発し、

その身体を貫き、空間ごと吹き飛ばした。


雷鳴のような轟音。

白龍は数十メートル先へ吹き飛ばされ、

ブラックホールのように歪む黒炎の渦に飲み込まれる。

そこでは、万物が捻じ曲げられ、溶解していった。


ゾアは膝をつき、荒く息をする。

口元から血が溢れ落ちる。


ガントレットは最後に一度だけ輝き――

光の灰となって崩れ去った。


歪魔は口を開け、震えながら叫ぶ。


「な……何だ、今のは……!?

そのガントレット……一体……!?」


ゾアは視線を落とし、低く答える。


「……あれは、

奴自身の魂から引き出した武器だ」


――その瞬間、全てが繋がった。


ゾアは自身の能力、

魂から武器を召喚する力を使ったのだ。


しかもそれは、

白龍の魂を武器へと変換し、主に叛逆させる力。


矛盾と背徳を孕んだ能力――

魂装武器ソウル・アームメント》。


そして、あのガントレットは、

白龍の魂が生んだ“反逆の黒炎”。


灰は降り続け、炎は消えない。


黒炎の海の中、

立ち尽くすのは――

血に塗れながらも、揺るがぬゾアの背中だった。


その戦いの前。

**アコウ(Akou)**はゾアを呼び出していた。


割れた天井の隙間から差し込む光だけが照らす、静かな部屋。

風が隙間を抜け、ゾアの黒髪を揺らす。


アコウの声は低く、

一言一言が、刃のように鋭かった。


「ゾア。今回は……

やむを得ない状況になったら、能力を使え」


ゾアは眉をひそめ、しばらく沈黙した後、言った。


「以前は……

剣だけを使え、と言っていたはずだ」


アコウは頷き、

ゾアの腰にある剣へ視線を向ける。


「そうだ。以前はな。

だが、今は違う」


彼は一歩近づき、腕を組む。

その声は冷静だが、計算に満ちていた。


「以前、能力の使用を制限していた理由は単純だ。

魂から武器を引き出す際のクールタイムが長すぎた。

一瞬の隙で、致命傷になる」


ゾアの目を見据え、続ける。


「だが今は……

お前の目が変わった」


ゾアの瞳が、わずかに光る。

鳳凰の輝き――

人ならざる存在の光。


アコウは微笑み、言った。


「鳳凰の眼は、

クールタイムの制限を消し去る。

つまり今のお前は、

武器を連続で切り替えられる」


「使え、ゾア。

相手に理解する暇を与えるな」


ゾアは剣を握りしめ、問い返す。


「……なぜ、最初から使わなかった?」


アコウの笑みは、薄く、冷たかった。


「俺は――

お前の強さを知っているからだ」


「剣だけで、歪魔には勝てる。

能力を見せれば警戒される。

白龍も疑う」


彼は静かに告げる。


「だが、最後に放てばいい。

相手が“剣しかない”と信じた、その瞬間に」


「――恐怖が、刃よりも早く殺す」


ゾアは頷いた。

その瞳に、迷いはなかった。


そして計画通り。

白龍は、自らの魂が武器にされるという悪夢を目の当たりにした。


存在そのものを戦力に変えられる恐怖。

信じていた力が、否定される恐怖。


アコウの狙いは、即時の勝利ではない。

消えない恐怖を植え付けること。


白龍は知った。

アコウはゾアだけではない。


セシリア(Cecilia)――

完全な克制者が、控えている。


灰の中、白龍は立ち上がる。

怒りは消え、そこにあるのは――不安。


「……撤退だ」


彼は歪魔を掴み、超高速でその場を離脱した。


ゾアはそれを見届け、力尽きる。


落ちる前、

ツバサ(Tsubasa)の腕が受け止めた。


「よくやった、ゾア」


――戦いは終わった。

だが、これはただの第一手に過ぎない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ