第3話
「受験通知書を持ってこなかったのか?中にルールが書いてあるってのに……」(ゾア)
ゾアが自分の能力を使うために他の受験者を探し始めてから、すでにかなりの時間が経っていた。しかし、このエリアはあまりに広く、誰かを簡単に見つけるのは難しかった。彼の記憶によれば、参加者はモンスターを倒して得られるポイントを集めなければならない。さらに、他の受験者を倒すか降参させることでポイントを奪うことも可能だった。過酷なルールではあるが、ゾアはまったく気にしていなかった。彼にとっては、少し時間をかければ全員を倒して試験を突破できると思っていたのだ。
「変だな。さっきから静かすぎる。」(ゾア)
その言葉を口にした瞬間、不意に襲いかかる一撃が静寂を破った。巨大なメイスがゾアの腰に直撃し、激痛が体中を駆け抜けた。ゾアは吹き飛ばされ、崩れかけた建物のひび割れた壁に激突する。ぶつかる音が虚ろな空間に響き、土埃が舞い上がった。
震えながら、痛みによってかすれた声でゾアは言った。
「な、なんだよ、これ……?」(ゾア)
目の前には真っ黒なモンスターが立っていた。目は緑色に光り、鋭い視線を放っている。大きな体格だが、背中が曲がっているため、実際の身長はわかりづらい。その手には、身体に見合った巨大なメイスを持っていた。ゾアの脳裏にはガイドに書かれていた情報がよぎった。この試験に放たれているモンスターは四種類。最弱のタイプはゾアの肩ほどの高さ、中位のものはゾアと同じくらいの大きさ。そして今目の前にいるのは、最強クラスのモンスターの一つに間違いなかった。
ゾアは、これまでなぜ弱いモンスターに出会わなかったのかを理解した。それは、この高ランクのモンスターがこのエリアを占拠していたからに他ならない。
「……マジかよ。」(ゾア)
立ち上がろうとするも、額から流れ落ちる血が片目を塞ぎ、呼吸すら苦しくなる。もはや逃げる力も残っていない。残された手段はただ一つ——知恵で立ち向かうしかない。
一瞬のうちに、モンスターの姿が消えた。ゾアはすぐさま、敵が死角から攻撃してくると予測し、前方へ跳び出して振り返った。案の定、モンスターは背後に現れ、地面を叩き割るほどの力でメイスを振り下ろした。再び、土煙が舞い上がる。
煙の中から現れる巨大なシルエットに、ゾアの恐怖は増す一方だった。足が震え、次の行動を考える間もなく、再びモンスターが突進してきた。ゾアは咄嗟にその足元をすり抜け、背後に回って渾身の一撃を放った。わずかによろめかせることに成功したものの、モンスターはすぐに体勢を立て直し、反撃のメイスを振るった。ゾアは避けきれずに吹き飛ばされ、ひび割れたコンクリートと雑草の地面を転がった。体は無数の傷で覆われた。
意識が遠のくほどの激痛。血の匂いが鼻を突き、絶望が胸を満たしていく。だが、モンスターは止まらなかった。なおもメイスを振り下ろす。ゾアはかろうじて転がって避けるが、衝撃で再び吹き飛ばされる。何とか立ち上がって逃げ場を探すも、反撃の余力は残っていない。逃走は続き、傷は増える一方だった。
そして、モンスターが止めを刺そうとするその瞬間、ゾアの記憶が蘇る。
「前に俺がお前を助けたんだから、今度は助け返してもらうのが当然だろ?」(ゾア)
だが、返ってきたのは沈黙だけだった。かつてこの身体の本来の持ち主も、困難を一人で乗り越えてきた。誰も助けず、誰も手を差し伸べなかった。努力も痛みも、誰にも知られぬまま、ただ耐えてきたのだ。
「できたんでしょ?だったら、当たり前じゃん。」
苦しみの過程を誰も見ていないから、成果だけを当然のように扱う。中傷され、無視され、無意味な言い争いの末に見捨てられてきた。そして今また、ゾアは血だまりの中に一人、助けもなく倒れている。
その悔しさと怒りが胸の中で渦巻く中、彼の胸が光り始めた。そこから引き抜かれたのは、今まで見たことのない西洋風の長剣——ゾアの体内に存在しなかったはずの武器だった。その剣はモンスターの腕を切り落とし、鮮血が噴き出す。モンスターは恐怖に叫び、数歩後ずさった。血の匂いがゾアへの恐怖心をかき立てている。
ゾアは立ち上がり、ボロボロの体を引きずりながらも、目は燃えるように輝いていた。剣を見つめながら彼は悟った。自分の能力は、自分の体から武器を引き出すことはできない。だが、これは自分の体ではない。この体は他人のものであり、自分は一時的に借りている存在なのだ。だからこそ、この体は「他人」として認識され、能力が発動したのだ。
ゾアは、痛みに笑いながら狂ったように叫んだ。
モンスターは逃げようとするも、その前に鋭い一閃が走った。その一撃はモンスターの体ごと、背後の壁までも真っ二つに切り裂いた。すべてが容易く断たれた。ゾアはこの一撃で、試験合格に必要なポイントをすべて獲得した。
「くそっ、この体マジで痛ぇ……」(ゾア)
その華麗な戦いぶりは、監視モニター越しに多くの視線を集めた。
だが、すべてが順調に進むわけではなかった。ゴールを目指す途中、顔を隠した謎の青年が現れた。背には巨大なカラスの翼が広がっている。
「見事なパフォーマンスだったね。でも、そろそろそのポイント、全部渡してもらおうか?」
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
この物語は、私がずっと考えていたテーマを形にしたものです。
書きながら多くの苦労もありましたが、読者の皆さんの反応を想像しながら、毎回楽しんで書いていました。
次回の話も今準備中ですので、楽しみにしていてくださいね!
引き続き応援よろしくお願いします!