第18話
明日、新しい章を公開します。
荒れ果てた小さな町――草木が伸び放題に生い茂り、静寂の中に激しい戦いの残響がこだましていた。
「奴はカードなんて持っていない。全力で殺して次に進め、ゾア。」
アコウは淡々とした口調で言った。それはまるで日常の一コマのように、感情のかけらもなかった。
現在、彼らはクラス最後のメンバーを追って移動中だ。その道中、何人もの者がゾアに挑んできたが――現実は甘くなかった。
目前の敵が恐怖に満ちた目で突進してくる。命を懸けた一撃だった。だが、返ってきたのは一閃――冷たい刃が彼の体を貫き、戦いは一瞬で終わった。
――一方そのころ。
大画面のTVの向こう側には、きらびやかなオフィスが映し出されていた。部屋の調度品すべてが上流階級の贅沢さを物語っている。
柔らかなソファに身を委ねる一人の美女が、赤ワインのグラスを優雅に傾ける。その白く細い指が、テーブル上のiPadに触れると、画面には試験に参加している生徒たちの映像が映し出され、画面下には金額を示す数値が次々に上昇していった。
彼女の指がゾアの映像で止まったとき、すべてが明らかになった。
――この試験は、金持ちたちによるただの金儲けのゲームだった。
---
戦場へと視点が戻る――
いくつもの荒廃した町を抜けた先、彼らが辿り着いたのは、またしても激しく破壊された廃墟だった。
「また遅かったか……」ゾアが呟く。
そこは大規模な戦闘の跡地。イチカワの戦いとは別に、多くの出来事が同時に進行していたことを物語っていた。
大量にいる1年生たち。その中で一夜にして複数の戦闘が勃発するのも、決して不思議ではなかった。
アコウはカードを持つ者を追うため、彼らの通過地点を地図にマークしていた。それにより、次の標的の行動ルートを予測することができた。
しかし、強者の情報はまだ乏しい。現在分かっているのは、**ザイファ(Zyfa)**という名の生徒がまだ姿を現していないことだけだった。
---
遠く離れた場所――
ツタに覆われた広大な屋敷の門前に、一人の若者が座っていた。髪はオールバック、サングラスをかけ、手には古びたスチールバット。
彼は目の前の男に詰め寄っていた。周囲には明らかに不穏な空気を漂わせる仲間たち。
「カードを誰が持ってるか知らないだと?」
犠牲者は黒い袋で頭を覆われ、体中が震えていた。青あざと血が全身に広がり、怯えた様子で首を横に振っていた。
バットの一撃が容赦なく振り下ろされる。血が飛び散ると、周囲の者たちは大笑いしながら言った。
「おいおい、死んじまったら使えねぇだろ。手加減しろよ。」
男は笑いながらもう一度問い詰める。
「どれだけ時間をやったと思ってんだ?カード一枚も手に入れてねぇってどういうことだ?」
犠牲者はすすり泣きながら答える。
「お願いです……僕には力がなくて、誰にも勝てないんです……」
その瞬間、光が走った。
次の瞬間には、犠牲者の姿が消え、空中には青白い光の軌跡だけが残されていた。
異変に気づいた男たちの視線が光の方へ向かう。
そして――
「まさか……Sランクの生徒の一人……**ルーカス・フォン・シュタイン(Lukas von Stein)**!」
そこに現れたのは、整った水色の髪を持ち、髪先に雷光がきらめく青年。肩から肘にかけて、青白い電流が走り、まばゆい光を放っていた。
その視線は鋭く、圧倒的な自信に満ちていた。
袋を剥がされ、縄を解かれた犠牲者の少年――**フェリクス・ヴェーバー(Felix Weber)**は、血だらけの顔で震えながらも驚きの声を漏らした。
「ま……まさか……ルーカス……?」
バットの男は目を見開き、吐き捨てるように言った。
「知り合いだからって助けに来たか?ルーカス・フォン・シュタインってだけでビビると思ったら大間違いだ。」
無視してルーカスはフェリクスに「森の奥に逃げろ」と優しく促す。最初はためらうフェリクスだったが、ルーカスの笑顔に背中を押され、その場を後にした。
---
この拷問グループのリーダー――バットの男の名は**グレタ・ブラウン(Greta Braun)**。Aランクの生徒で、暴力と圧倒的な力を背景に仲間を集め、他の生徒たちを脅し従わせていた。
フェリクスは能力を持たない「無能」とされ、カード探しの雑用に使われていたのだった。
ブラウンはゆっくりと立ち上がり、不敵な笑みを浮かべながら命令を出す。
「お前ら、下がれ。こっからは俺のショータイムだ。」
ルーカスが呟く。
「自信満々だな、ブラウン。」
「俺たち、今まで何回もやり合ってきただろ?また遊ぼうぜ。」
会話が終わるや否や、ルーカスが一閃――雷光を帯びた蹴りをブラウンへ。
しかし、ブラウンはそれを片手で受け止め、そのままルーカスの足を掴んで館の中へ投げ飛ばした。衝撃で壁が砕け、埃が舞う中、ルーカスは立ち上がりながら呟いた。
「お前のその反撃能力……チートすぎる。てっきり俺たち、互角かと思ってたのに。」
ブラウンは鼻で笑った。
「本来なら俺もSランクのはずなんだよ。上の連中が見る目ねえだけだ。」
「お前の力がA止まりの理由、教えてやろうか?それは――俺より弱いからだよ。」
言葉の応酬の末、ルーカスが電撃のこもった蹴りを放つ。ブラウンは怯まず、ルーカスの攻撃を反撃能力で跳ね返す。
ブラウンの能力は**「絶対反撃」**。受けたダメージをそのまま相手に返すというものだった。
だからこそ、ルーカスの最初の一撃も、実は自分自身にダメージを与えていたのだ――
戦いはまだ続いていた。ブラウンはバットを振りかざしルーカスに襲いかかるが、電磁速度を誇るルーカスは軽々とそれをかわし、雷を伴う拳を繰り出す。一撃ごとに白い稲妻が放たれ、周囲をまばゆい光で包み込んだ。ルーカスは強烈な蹴りを放ち、ブラウンの身体を建物の外へと吹き飛ばした。そしてそのまま上空から飛び降り、雷撃の一撃を地面に叩きつける。白と青の雷が地を裂き、稲光が眩しく広がり、震動が周囲一帯を揺らした。
直後、ルーカスの口元から血がにじみ出る。彼は顔をしかめ、痛みに耐えていた。ブラウンはすぐに立ち上がり、鋭い一撃でルーカスを後退させた。
実は、ルーカスはブラウンのカウンター能力がいつ発動されるか予測できず、あえて連続攻撃を仕掛けたのだった。それは極めて危険な賭けだった。
「最後の最後まで反撃を温存してたな…さすがだよ」
ルーカスは息を切らしながら呟いた。
ブラウンは肩にバットを担ぎ、冷笑を浮かべた。
「お前の考えなんて、全部お見通しだよ。そんなに強いつもりか?」
再びブラウンが突撃し、バットの連撃が容赦なく降りかかる。ルーカスは稲妻のように動き回り、それをかわしながらも、反撃のタイミングを伺っていた。だが、彼の力は攻撃を強化するものであり、相手の反撃に当たれば自らが大きく傷つく。
その頃、遠く離れた場所で、ルーカスの友人フェリックスはアコウの腕の中で意識を失っていた。アコウの瞳は決意に満ち、廃墟を見据える。隣に立つゾアは静かに呟いた。
「そろそろ、僕も舞台に上がる時が来たみたいだね。他人にばかり見せ場を譲るのも、飽きてきたし。」
戦場に戻る。長い激戦の末、ルーカスとブラウンは血と傷にまみれ、満身創痍だった。ルーカスは素早く接近し、フェイントのパンチを繰り出す。それを本命だと思い込んだブラウンは反撃を発動したが――その瞬間、下から本当の一撃が炸裂。雷を帯びたアッパーカットが彼の顎を直撃した。
ブラウンは草地に吹き飛ばされ、立ち上がった直後、ルーカスの連打を浴びる。必死に足払いを決めてルーカスを倒すが、その隙に背中へ強烈な一撃を食らわせる。ルーカスは血を吐きながらも立ち上がり、戦意を失わなかった。
「諦めろ、ルーカス!」
ブラウンは叫び、最後の一撃を放つ。
同時に、ルーカスも決死の一撃を繰り出す。衝突した二つの力は爆風を生み出し、砂煙が辺りを包み込む。
その瞬間、遠くからブラウンの部下たちが近づき、拍手を送りながら現れる。先頭に立つのは、痩せた青年クララ・ホフマンだった。
「素晴らしい戦いだった。まさかSランクの生徒と互角にやり合えるとは…」
ブラウンは眉をひそめ、焦りの色を浮かべる。
「言っただろ…逃げてろって…!あいつは危険なんだ!」
だが、クララは気に留めない。ブラウンについてきたのは、ただカードを手に入れる近道だったからだ。しかし、何の成果もないブラウンに、もう期待はしていなかった。
その時、クララの言葉に潜む敵意に気づいたブラウンが反応しようとした――
突然、背後から剣が彼の体を貫いた。
「能力を発動する暇もなかったみたいだね。不意打ちは、反撃できないからさ。」
カラスがそう呟いた。
振り向いたブラウンは、背後に立つカラスの姿を見て目を見開く。口から血が溢れ、何かを言いかけたが、剣を引き抜かれた瞬間、彼の体は地面に崩れ落ちた。
ルーカスは言葉を失い、ただその光景を呆然と見つめる。強敵だったブラウンが、一撃で倒されたのだ。
実は、クララ・ホフマンはカラスの一味だった。彼は地図上に散らばる多くの小グループに手下を送り込み、利用価値がなくなった者は容赦なく排除していた。
怒りに燃えたルーカスは、稲妻の如きスピードでカラスに襲いかかる。強烈な蹴りが炸裂し、カラスは地面に叩きつけられ、口から血を吐く。
だがその直後、どこからともなく新たな人物が現れた。黒いマントに半面の仮面、分け目のある髪。得体の知れない雰囲気を纏っていた。
ルーカスが再び攻撃を仕掛けようとした瞬間、銀の十字剣が閃き、ルーカスの腕から血が噴き出す。後退する彼の前に立つのは――
マクシミリアン・アドラー。
Bランクの生徒で、マーキングした地点に瞬間移動できる能力を持つ。
彼がルーカスに止めを刺そうとしたその時――
天から白銀の刃が雷のように舞い降りた。
カラスが叫び、避けろと指示するが――遅かった。
剣はマクシミリアンの体を貫き、血が飛び散る。彼は目を見開き、全身に深刻なダメージを負い、最後の力で転移してその場から逃れた。
立ち上がったのは、銀の剣を手にした青年。
その目には傲慢な光を湛え、口元には微笑が浮かんでいた。
「久しぶりだな、黒翼のクソ野郎。」
現れたのは――Sランク魂の剣を操る者、ゾアだった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
では、また次の章でお会いしましょう!