第17話
明日、新しい章を公開します。
少しずつ明かされる世界の真実。
アコウとゾアの静かな対話の中に、かつてない規模の謎が潜んでいます。
すべてが繋がりはじめた今、ぜひ次のエピソードをお楽しみに。
イチカワとアックの激戦が終わった後、戦いの熱気は静寂の夜に溶け込んでいた。空には月と星が輝き、穏やかな光で世界を照らしている。そんな夜空の下、アコウとゾアは焚き火のそばに腰を下ろし、自分たちにまつわる話を交わしていた。
「まさか、君とイチカワがそんなに特別だったとはな。」(ゾア)
アコウは無表情のまま答えた。
「特別というわけじゃない。イチカワのことならそう言えるかもしれないけど、僕は違う。」(アコウ)
「でも、君はすごく賢いじゃないか?」
「それは頭がいいんじゃない。努力の成果さ。誰にでも届くはずの場所。ただ、それだけの話だ。でも、イチカワは違う。彼は“ガイアの代理”になる可能性を持っている。つまり――生命の象徴だ。」(アコウ)
**ガイア**――世界の生命を象徴する存在。世界に深刻な脅威が迫ったとき、ガイアは力を使って秩序を取り戻す。では、アコウが言う「イチカワはガイアの代理」とは一体どういう意味なのか?
ゾアは初耳の概念だったが、アコウはよく知っていた。**「代理」という概念**だ。
この世界には、四騎士や魔女のような象徴的な存在がある。ガイアのような高次存在は、直接この世界に現れることはない。もし魔女が秩序を大きく歪めれば、ガイアは怪物を召喚し、世界を一から作り直す。その手法はアックの“やり直し”に似ているが、アックが“リセット”なのに対し、ガイアは“再創造”である。
それより軽い段階では、ガイアは**代理**を選ぶ。自らの力を授け、間接的に世界へ介入するのだ。
これが、宇宙に存在する**原初の実体**の概念である:
- **ガイア** ― 生命
- **カオス(Chaos)** ― 混沌(秩序以前の状態)
- **クロノス(Chronos)** ― 時間
- **ニュクス(Nyx)** ― 原初の闇
「じゃあ、アックはクロノスの代理なのか?」とゾアが尋ねた。
アコウの答えは**「違う」**だった。
イチカワがガイアに選ばれたとき、彼の瞳は赤く染まった。それは世界に選ばれた者だけが持つ印。アックによると、選ばれし者は現在七人おり、その全員を知っているのはジークだけだ。アックはその情報をアコウに強引に渡した――それもすべて計算のうち。
では、アックは**代理でない**のに、なぜ時間を操れるのか?
アック曰く、「自分はまだクロノスに“選ばれていない”。ただ、“目を向けられた”だけだ」という。将来的に選ばれる保証はないが、この時間軸では何が起こるか誰にも分からない。
「じゃあ、“目を向けられる”のと“選ばれる”のでは、どう違うんだ?」
アコウが答えた:
「イチカワも最初は“目を向けられた”だけだった。その頃の力は、補助的な“仙気”だった。でも、選ばれることで力が進化し、まったく新しい次元の強さを得た。彼の瞳の力はまだ全て使われていない。つまり、何が隠されているのかすら、僕にも分からない。」
つまり、アックが持っている時間の力は、クロノスのほんの一部にすぎない。もし彼が本当に選ばれれば、その力は桁違いなものになる。
イチカワとアックは**魔女**と呼ばれる。世界の仕組みに影響を与える力を持つからだ。必ずしも全ての魔女が原初の実体と関係しているわけではないが、その名は彼らにふさわしい。
もう一つの疑問:「**色つきの瞳を持つ者は、必ず原初の実体に選ばれた者なのか?**」
答えは**否**。原初の実体は世界の一部にすぎない。**世界そのもの**が特別な素質を持つ人間を選ぶこともある。その場合、彼らは原初の実体をも凌駕する力を持つ可能性がある。
**代理の役割とは何か?**
それは、選ばれた原初の実体の**概念を保つこと**。原初の実体が消滅したとき、その代理が後継者となり、新たな原初の実体になる。
そして、もし世界に選ばれた者が十分な影響力を持てば――**新たな概念を創造し、原初の実体そのものになることも可能**。ただし、それはかつて一度も起きていない。
アコウとの会話を通して、ゾアは膨大な知識に触れたが、全てを覚えきれず、核心だけを心に留めた。その洞察力ゆえに、アコウはイチカワの覚醒を事前に予見していた。
ただ一つ、アコウにも分からなかったのは:なぜガイアがイチカワを選んだのか。彼にはこれといった実績がなかった。
一方、アックは**全ての時間軸を消し、新たな時を生んだ**――それこそ、原初の実体にふさわしい行為ではないか? おそらく、旧時間軸でアックはクロノスに選ばれていた。そして、それを自ら消して、新たな流れを生んだ。そこまでして彼が捨てた旧世界とは、どれほどのものだったのだろうか?
そしてゾア自身について。アコウはこう言った:
「君は、**四騎士**の一人になる。」
ジークの情報によれば、その可能性は高い。ただし、ジークが語ったのは“力”だけで、状況や経緯はアコウにもまだ見えていない。
もう一つの恐るべき問い:これほど強くなった人類でさえ、なぜ**NG**には敵わないのか?
考え得る結論は――これは人類の限界かもしれない。一方、NGは原初の実体に選ばれていないにもかかわらず、**世界に選ばれ、目を向けられた存在が多数いる**のかもしれない。
選ばれし七人の存在は判明している。しかし、世界に“目を向けられた者”の数は不明――アコウですら知ることができない。
原初の実体が個を“見る”ことができるなら、**世界そのもの**も、同じように誰かを“見る”ことができるのか?
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【イチカワとアックの戦いの結末】
戦いは、死者を出すことなく終わった。イチカワはヒトミによって研究所へ連れ帰られ、尋問を受ける予定だ。アックは姿を消した。カラスは逃走に成功し、応急処置を受けた。シドも無事。クレイスは攻撃に耐え、キングは彼とセシリアの看護を担当。アコウは次の試験に向けてすでに戦略を練っていた。
一方、戦場から離れた安全区域の外。アックはある豪華な部屋に戻ってきた。そこは洗練された木のバーカウンター、柔らかなソファ、そして全面ガラスの大窓が広がる空間――山中にある**ブラックウィングスの別拠点**である。
アックは疲れた様子でソファに身を沈め、ため息をついた。
「任務は完了したよ。ついでにイチカワとも少し遊んできた。彼は本当に強い。」(アック)
謎めいた男はグラスを傾けながら言った。
「なぜ、私が君にリセットを使わせたくないのか分かるか?」
「なぜだい?」
「君がまた心を壊すのを見たくないからだ。ヒトミとは違う。君が自ら私の元へ来たとはいえ、私はその力を無神経に使ったりはしない。リセットを望むなら、私は必ず君の意思を確認する。それが些細な理由なら――**絶対に許さない。**」
読んでいただき、本当にありがとうございます。
今回の物語には、たくさんの想いを込めて執筆しました。
この数章では世界観や設定の紹介が多く、少し堅い印象を受けた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、これから本格的な戦いが始まり、物語はより緊迫感と感情にあふれた展開を迎えます。
ぜひ、その瞬間まで読んでいただけると嬉しいです。
一体何が待ち受けているのか――どうぞお楽しみに!