第一話
「どうだ?この身体は貴重なんだぞ!」
静まり返った部屋に響いたのは、五十代くらいの男のしゃがれた声だった。
「成功しました、博士。被験体の所有者を説得してくれて、本当に感謝しています。」
ゾア――主人公――はその場に横たわっていた。周囲の会話が何を意味するのか、ぼんやりとしか理解できない。目はまだ開けておらず、話している相手が誰なのかも分からない。彼が感じていたのは、ただひたすらな疲労感、重い呼吸、そして眠気だった。まるで意識が深い奈落へと引き込まれていくようだった。二度と目覚めることなく、この終わりなき疲れから解放されたい――理由も分からぬまま、心がただ投げ出したがっていた。
やがて眠りに落ちかけたその瞬間、鋭い声が彼の意識を現実へと引き戻した。
「おい!さっさと起きろ、このクソガキ!」
その体は鉄の繭のような冷たいカプセルから強引に引き出された。コンピューターの画面がかすかに光り、周囲には白衣を着た人々が立ち並んでいた。ぐったりした体を無理やり引き起こされ、ゾアは息を荒げながら、まだはっきりしない視界の中で必死に周囲を見渡した。
「おい、アート、彼はまだ成功が確認されたばかりだぞ。何をしているんだ?そんなことをすれば命に関わるかもしれない!」
アートと呼ばれた研究チームの一員である男が怒鳴り返した。
「黙れ、全員!」
怒声が響いたあと、部屋は静まり返った。しかし、その場にいる誰もが不快な顔をしていた。アートの行動に納得している者はいなかった。
そのとき、ゾアは徐々に意識を取り戻していった。弱々しく声を発した。
「……ここはどこだ?」
その言葉を聞いたアートは、ゾアに目を向けて確認し、彼が本当に話したことを認識すると顔色を失った。何も言わずにゾアを再びカプセルへ戻し、慌てて荷物をまとめ始めた。
「おいアート!一体何をしてるんだ?実験に問題があったら、お前が責任を取るんだぞ!」
「うるせえ!お前らまだ分からないのか?この実験が終わった後で、生きて帰れると思ってるのか?これは人道に反する実験だ!」
アートの警告を、誰も本気にしていなかった。彼はただの妄想家か、神経質になりすぎているだけだと思われていた。
その後、一人の女性医師がアートの奇妙な態度に気づき、彼が立ち去った後、冷たい繭の中で横たわるゾアに優しく手を差し伸べた。
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**世界観の概要:**
この世界は1000年前に終末を迎えた。それは人類によるある奇妙な実験が原因だった。人間の体内にある「第二の意識」という超常的な意識を目覚めさせることに成功したのだ。
第二の意識が覚醒すると、多くの場合それは元の意識を消し去り、体を乗っ取る。
だが、すべての人が覚醒に成功するわけではない。成功しても完全に乗っ取られた者は、別の種族――NGと呼ばれる存在になる。NGは超能力を持ち、高い自己認識を有し、人類に反旗を翻した。当初は国家に仕える生体兵器として作られたが、やがて反乱を起こし、自らの種として独立した。
NGは外見上は人間とほぼ同じであるため、社会に潜入できる。逆に、第二の意識を制御できた者は人間のままでありながら、同時に超常的な力を手にすることができる。
NGと人間の違いは、異常な身体特性や、獣のような耳などの非人間的な特徴で識別される。その違いが差別と対立を生み、ついには戦争が勃発。人類は敗北し、現在地球の70%がNGの支配下にある。残りの地域は人類がかろうじて維持している。
NGを排除するため、16歳になった人間には「浄化」と呼ばれる儀式が行われる。第二の意識に乗っ取られていると判定された者は、その場で処分される。
五つの文明による平和連盟が守る区域の外には、自由地帯と呼ばれる保護されていない土地が存在する。そこには「汚染変異体」と呼ばれる存在が生息している。それらは感情の暴走や失敗した覚醒によって生まれた、異形の怪物である。
一方、NGは独自の王国を築き、「女王」とその配下「十色座」と呼ばれる十人が統治している。各色座はそれぞれ独自の文化を持ち、たとえば「赤色座」は和風建築、「白色座」は英国風の荘厳な白い城で構成されている。
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再び現在に戻る。
女性医師の手当てを受けながら、突然ゾアの意識に記憶が流れ込む。
「俺は絶対に家族を失わない。幸せになれよ、弟よ。」
その記憶が終わった瞬間、ゾアの中の力が暴走する。研究室の外から悲鳴が響き渡る。扉が乱暴に開かれ、50代の医師ゼークがゆっくりと入ってくる。
彼の目の前に広がるのは、血に染まった死体の山。ゾアはその真ん中に膝をつき、金属製のテーブルに手をかけて震えていた。恐怖の表情でうつむきながら、頭を抱えてつぶやく。
「僕は……誰だ?どうして彼らは死んだんだ?」
ゼークは落ち着いた口調で答えた。
「君はゾア。この世界に新たに生まれた存在だ。この身体は、植物状態にあった少年のものだった。彼は自ら進んで君に身体を譲ったのだ。」
「僕は……生まれた?……なぜ助けたんですか?」
「植物状態のとき、君はとてつもない力を発動させた。その力と意識を新たな肉体に移すという実験は非常に危険だったが、我々は成功した。もし冷静さを保てるなら、君は感謝すべきだ。」
「……じゃあ、僕が本当に望むことは……」
「それは、人類を本来あるべき姿へと復興させることだ。」
ゾアは黙り込む。再び記憶が浮かぶ。
「幸せになれよ、弟よ。」
「……いやだ!!」
「……何だと?」ゼークが首をかしげる。
ゾアは顔を上げ、揺るがぬ眼差しで言った。
「僕が本当に望むのは……この身体の弟が幸せに生きられるようにすることだ。」
私は外国人ですが、物語を書くことが好きで、今回初めて小説を投稿してみました。
拙い部分もあるかもしれませんが、温かい目で見ていただけると嬉しいです。
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