第三話『シークレットエモーション』2
「本当……今日まで気付かなかったなんて、信じられないよ」
「千歳はただ一生懸命に隠してただけなの……ここでは手塚神楽を演じて。学園が終わった後はフィギュアスケートに集中する。それが千歳の選んだ道だから」
普通に考えればリスクばかりが目立つ道で、思い付きもしないことだ。
僕だって女装をしてこの学園に通うことを想像したらゾッとする。
舞に遊び道具にされるのは御免だから、女装したいとは思わないけど。
「もしかして……さっき女性恐怖症だって言ってのも嘘?
唯花さんに男装しているのがバレないための」
僕は続けて聞いた。
一番大きな秘密を知られてしまったせいで、彼女は必要のない答え合わせにも応じてくれた。
「うん、唯花さんは勘が鋭いから特に注意して接しないといけない相手だったの。女性同士だから感じるところがあって、よく細かい仕草まで見ているのが」
「そっか……同じ女性相手でも舞が相手だったら、そんなに意識してる様子なかったから。女性恐怖症っていうのはちょっと言い訳っぽくて嘘くさく聞こえたんだよね」
そうか……他の男子には気付かれた事ないのに、親しくなってすぐに化粧をしているのを見破られたのも、手塚君が女性だったからなのか……それに僕のしているナチュラルメイクの仕方を教えて欲しいって聞いてきたのも、女性であることをバレないためだったんだ。
些細な事であった幾つもの事象が、僕の中でさらに男装をしていた真実を裏付ける。
未だ信じがたい事だけど、手塚君は男装をして凛翔学園に通っている、フィギュアスケーターの夕陽千歳さんなんだ。
「気付かれちゃったなら、ちゃんと事情も話さないとだね。
長い話しをするつもりはないから、ちょっとだけ付き合ってくれる?」
「勿論、相当に勇気がいることだと思うから。
これからの事を考えていく上でも、聞かせて」
「うん、本当の事を知られちゃったからには、水原君にも協力してもらわないといけないからね」
廊下側の壁にもたれ掛かる手塚君。
僕は机の上に座り、メジャーを置いて夕陽千歳へと切り替わった手塚君を見つめた。
密閉された教室、西に傾きつつも未だ強い勢力を持った陽射し、エアコンの涼しい風、暑さを紛らわせるようにラフな私服姿をした僕ら二人。
男同士だと信じ切っていたのに、この教室にいるのは男女一組のペアだった。
声色までフィギュアスケーターの夕陽千歳に変わった手塚君はそこからずっと秘密にしていた真実を語り始めた。




