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第一話 『両翼のフローラリア』7

 前回同様、堂々とした立ち振る舞いで教壇に立つ豪屋代君。

 春の身体測定の時点で身長が180cm以上あった大柄の豪屋代君は見るからに威厳があり、僕とはあまりに体格差があり過ぎる。

 サングラスを着けているため、思考が読めないところもあるため、僕としては近寄りがたい相手だ。


「キャストの人選については我に一任させてもらったが、普通のロミオとジュリエットをやっていては面白みに欠ける。そこでローズ役はこの中にいる男から指名させてもらった。つまりは女装をして舞台上で演技をしてもらうという事だ」


 いよいよ始まった部活会議。

 どんな言葉から始まるかと身構えていると、教豪屋代君は前振りなくそう言った。


 想像だにしない、とんでもないことを豪屋代君が言い出したせいで教室がざわつき始める。 

 男装や女装を取り入れること自体は珍しい事ではないけど、演技未経験者が多いこのクラスの中で、この発言はクラスメイトを不安に陥れるには充分過ぎた。

 

 学芸会ムードが一変して教室中で顔を見合わせ合い、自分が選ばれなければいいのにと願う声が聞こえる。それは僕も同じだ。着せ替え人形の如く舞に女装をさせられて遊びに連れて行かれた事はあるけど、屈辱的な思いをさせられた記憶しかない。


 僕は男だ、女装が似合うなんて言われて喜ぶような女装趣味は断じて持ち合せてはいないのだ。


「気持ちは分かるが静粛に。では、まずは主役の二人から発表する」


 説明のないまま威圧され、クラス中が静まり返り、緊張が走る。

 豪屋代君は自主製作で映画も撮ったことがあり、芸術分野に対して真剣に従事している冗談を言わない男だ。今回の舞台演劇でも手を抜くことなく、最高の作品を作り上げようと考えているだろう。


 それだけに、主役に任命されれば苛烈を極めた稽古が約束されている。

 まだ大学受験や就職活動をするには程遠い一年生の僕達に対して、容赦のない仕打ちを強いられることになるだろう。


 穏やかにこの学園生活を過ごしたいと願ってやまない僕としては選ばれれば由々しき事態だ。


 そして、クラス中の視線が豪屋代君に注がれる中、彼は一瞬、僕の方に視線を向け、口を開いた。


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 僕と……手塚君が主役……?

 衝撃的な発言に唇が渇き、頭の中が真っ白に染まっていく。


 僕は辛うじて意識を保ち、女装をさせられることになった手塚君に視線を向けた。


 その表情に先程の明るい笑顔はなく、まさに信じられないという具合に目を見開き、どうして自分が指名されたのか分からないといった表情をしていた。


 確かに主演を演じることは名誉なことかもしれないけど、僕も手塚君も責任重大な主演を務めたくはないのだ。


 やがて、気持ちの整理が付くことのないまま部活会議は終わり、席にやって来た脚本担当の樋坂浩二(ひさかこうじ)君から脚本が手渡される。


 こうして、僕は学園祭の舞台で画家を目指す貧しい青年のジャック・ドーソン役を担当することになり、手塚神楽君はアメリカの名家ブケイター家の一人娘、ローズ・デウィット・ブケイター役に任命された。

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