第一話 『両翼のフローラリア』5
「舞、最近聞いてないけど、新しいアルバイト先は見つかったの?」
追及されるのを嫌がっているように見えた僕は話題を変えようと舞に聞いた。
「てんでダメね。家から近くて、高校生でも働かせてくれる好条件の仕事先となるとなかなか見当たらないのよ」
この舞原市は東京のような大都会とは違ってそこまで栄えた場所はなく、高校生の働き場所となると駅前に集中する。
時給が高めの繁華街はあるけれど、僕らが住んでいる家からは遠く、治安も良くないと言われているから候補から外すのが無難なところだった。
舞は中学の頃、陸上部に入って陸上をしていたが、高校に入ってからはアルバイトに精を出している。
しかし、最初に雇ってもらったカラオケ店は夏休みを最後に辞めてしまった。随分、店長や上司からこき使われたみたいで居心地が悪かったようだ。
だから、働き時の夏休みを最後におさらばして新しい職場を探しているのだ。
「水原君って相手の事をよく見てて、気を回してくれるよね。水原君って女の子みたいだよね」
手塚君は何を思ったか、そんな言葉を僕に向けて発した。
追及されるのを嫌がっていたから気を回したのは確かだけど、手塚君から女の子みたいと言われるのは初めての事だった。
すると、反応できずにいる僕を見て動揺した様子で「ごめんごめん……嫌だよね、こんなこと言われるの」と手塚君は謝った。
「それはあたしと街を歩いていても言われるから、気にしなくていいわよ」
「いや、僕の意見は聞いてくれないの……」
「だって、男らしくないじゃないの。声変わりしてもほとんど変わらなかったし、見た目も童顔のまま変わらないしね」
そこまで言われると落ち込んでしまって言い返せない。
お遊びで化粧をさせられて女物の服を着させられた日には誰も男だと気付いてもらえなかった過去がある。
その手の趣味の人に喜ばれるわよと言われた時はノックアウト寸前だった。
男らしく振舞っているつもりなのに、理不尽に感じてしまう。
「そんなに落ち込まなくて大丈夫だって、水原君。
料理も出来て気遣いも出来て、良いところ沢山あって、僕も水原君とは話しやすくて一緒にいて安心するよ」
「本当に……? ありがとう、手塚君」
手塚君の優しい心遣いに感謝して、僕らは昼食を食べ終えた。