第83話 最終決戦
「こんな小細工がいつまでも私に通じると思うなよ!」
ドリスはぬおぉおおおおっと唸り声を上げ、力まかせに引っ越し魔法の呪縛を解いた。自由になった彼女は息を荒くしながら怒りに身を震わせていた。
「ニーナ、お前だけは絶対に許さないぞ!」
「どうやら本気で怒らせちゃったみたいだね」
私はドリスのプライドに傷をつけたようだ。彼女は目を剥いて私を睨みつけていた。
「大人しく聞いていれば調子に乗りおって。私とサシで勝負だと? 数千年の研鑽を積み、無上の融合魔法を手に入れたこの私に? お前のような付け焼き刃の融合魔法で敵うと思っているのか」
「今の私にはヴォルフがついている。だから負ける気がしない」
私は足元から湧き上がってくるような力を感じていた。それはそばにヴォルフがいた時に感じた安心感にも似ていた。
「無辺の王が死んでついさっきまでピーピー泣いていたくせに、この腑抜けが。世界の覇者に情など無用。必要なのは圧倒的な力だけだ」
「ドリス、お前はつくづく寂しいやつだな。この世界にはかけがえのないものがあるんだよ。壊すしか能のないお前にはわからないだろうけどさ」
ドリスは呆れたようにふんっと鼻を鳴らした。互いにまったく相容れず、ふたりの間に流れるのは敵意だけだった。
「ニーナ、気をつけて。相手はレベル20の魔法使いだよ」
アウラが心配して声をかけてきた。
「わかってるよアウラ。でも相手がどんなに強大であろうが、チートを使う卑怯者であろうが、私はいつだって実力でねじ伏せてきた。それが私のプレイスタイルなんだ」
私は無上の融合魔法をかけた右の拳を見据えた。そこから溢れ出た魔力が炎のように立ち上っていた。
「力くらべと言うやつか。いいだろうニーナ。その勝負受けて立ってやる。私こそが世界の支配者にふさわしいことを身をもって知るがいい。ロンテディアもろともお前を消し去ってやる!」
ドリスも拳に無上の融合魔法を宿した。彼女の拳から魔力が荒々しく沸き立っていた。互いの魔力が激しくぶつかり合っていた。その気配が最終決戦の幕開けを告げていた。
先に動いたのは私の方だった。
「ドリスよ、勝負だ!」
私は唸り声を上げ駆け出すと、床を蹴ってドリスの前に飛び上がった。そのまま体をひねり勢いをつけ拳を撃ち込んだ。
その瞬間すさまじい衝撃波が広がった。ドリスも拳で応戦し、互いの拳がぶつかると、熱を帯びた光と轟音がほとばしった。
「うわぁああああああああああ!!!!」
爆音が轟くと同時に、どこからともなく悲鳴が上がった。衝突のエネルギーでロンテディア城の天井と壁が瓦礫となって吹き飛ばされた。一瞬で広がった視界には真っ赤に燃え盛る空が広がっていた。
「どうしたニーナ。城が壊れてしまったぞ。お前の仲間が吹き飛ばされないよう必死にしがみついているぞ」
ドリスは私の顔を覗き込み、薄笑いを浮かべる。
「威勢がいい割には所詮この程度よ。私がもう少し力を込めれば、ロンテディアは跡形もなく消し飛んでしまうぞ。その前に負けを認めたらどうだ」
ドリスの魔法は強力だった。私の拳が悲鳴を上げるように軋み、今にも砕け散りそうだった。気を抜けば私も吹き飛ばされるほどの威力があった。
それでも私は引き下がるつもりはなかった。私には勝機が見えていた。
「ドリス、お前に願いはあるか?」
「願い?」
ドリスが訝しげな表情を作った。
「魔法の本質は願いだ。先人たちの願いが魔法という奇跡を起こしてきたんだ。何の願いもないお前には、到底起こせない奇跡がある。それがお前の限界だ!」
「何を戯言を! ひと思いに始末してやる!!」
ドリスは激昂し、唸り声を上げ力を強めた。だが、この瞬間私は勝利を確信した。
「ドリスは私を超えられない。私はすでに奇跡は起こしているんだ!!」
私は力の限り叫んだ。
「ドリス、私のステータスを見ろ!!!!」
ドリスの表情が一瞬で曇った。
「ま、まさか……、レベル99……、だと……!?」
彼女の顔に死を悟った絶望が浮かんでいた。
「これはヴォルフが命を犠牲にして私にくれた経験値だ!」
奇しくも戦闘で死んだヴォルフの大量の経験値が私のものになっていた。ステータスはどれもカウンターストップ。限界を超えた計り知れない力が私の体に宿っていた。
「そ、そんな馬鹿な……、こ、こんなことはありえない……。魔法の有効範囲が宇宙の大きさを超えると言うのか……」
私は一気に畳み掛ける。
「決着をつけるぞドリス! お前は宇宙の塵となれ! 喰らえ、これが無上にして真の融合魔法!!『虚無を統べる女神の殲滅』!!!!」
私は全勢力を拳に込めた。手首をひねりねじ込むようにしてドリスの体に打ち込んだ。まるで世界を裏返しにするかのようにエネルギーが臨界点を超え、世界のど真ん中に風穴を開ける。
「バカなぁあああああ!! 絶対にありえないぃいいいい!! 無敵の私が、最高を誇る私が……、く、屈するだとぉおおおおおおおおおお!!!!」
爆発的な衝撃波が閃光を放ち空間を大きく歪ませた。その中心でドリスの体が容赦なく引き裂かれていく。
強大な魔力はすべてを押し流し、断末魔さえ断ち切った。やがて最後のひと欠片すら残さず、ドリスはこの世界から完全に消滅した。




