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第82話 無上の融合魔法

 ドリスは嘲り笑いながら、ふわりと空中へ舞い上がった。まるで生き物のように黒いローブを揺らし、不気味な影を周囲に落としていた。その底知れない邪悪さは、まさしく闇の化身のようだった。


「皆下がれ! ドリスから離れろ! 国王陛下をお守りするんだ!」


 リガードの指示が飛び、城にいる衛兵たちが玉座の間になだれ込んできた。彼らは国王を守るように取り囲み、武器を手にドリスと対峙した。


「ドリスよ。お前の目的は何だ!」


 国王は玉座から立ち上がり、怒りをぶつけるように叫んだ。


「目的? そうねえ……。まあそんなに深く考えたことはないわ。人間を操って遊ぶのが楽しいから、っていうのが答えかしら。それに体制側にいれば働かずに楽に暮らしていけるしね。まあそれも暇つぶしってわけだけど」


 どうやらドリスは精神支配魔法を使い、献身的に働く侍女の記憶を周囲に植え付けていたようだ。


「国や文明を渡り歩いては好き勝手して、いらなくなったら滅ぼしてきたんですか」


 あの温厚なアウラでさえ怒りを露わにした。


「私はこの世界で唯一無上の融合魔法を使える存在。言わば神なのよ。お前たちが無能のくせに今まで生かされていたのは私の許しがあってこそ。少しだけ時間をやろるから、この私に感謝しなさい」


「何をふざけたことを! もう貴様の好き勝手にはさせんぞ!」


 リガードが剣を抜いた。周りにいた衛兵たちも臨戦態勢を取った。


「そう……。私もロンテディアには飽きていた頃だし、ちょうどいい機会だから殺して上げる。この国は滅ぼして私はモルドレニアに移るとするわ。無上の融合魔法で消し去ってあげる」


 ほくそ笑むドリスが両腕を広げた。まさに魔法発動をしようとした時だった。


「アルティメット・スマートムービング!」


「なっ!」


 ドリスがうろたえ、もがいていた。けど私が発動した強力な魔法で身動きひとつできなかった。


「か、体が動かない……。こ、これはいったい何だ……、魔法なのか……!?」


「どうドリス? そう簡単には動けないでしょ」


「何をした……!」


「これは引っ越し魔法(模様替えも可)だよ。生活魔法の一つで、私はこの引っ越し魔法を極限まで高めたんだ」


「生活魔法だと……!?」


 周囲からおおっとどよめきが起こった。まさか引っ越し魔法で拘束するなんて誰も考えつかないだろう。思わぬ事態にドリスは苛立ちを隠そうとしなかった。


「まったく、小賢しいまねを! こんなチンケな魔法打ち破ってくれるわ!」


 ドリスは必死に足掻いていたけど、何の対策もない彼女が簡単に解ける魔法ではなかった。


 その様子を見てリガードが一歩前に出た。衛兵たちもあとに続いた。


「ニーナ様! 我らも加勢いたします。奴の身動きが取れない今がチャンスです!」


 たしかに彼の言う通り、攻勢をかけるなら今しかない。でも私は勢いづくリガードたちを手で制した。


「君は下がっていてほしいんだ」


「何故ですか」


「私はドリスと一対一の勝負がしたいんだ」


「ですがニーナ様、奴は大魔法使い。一筋縄でいくような相手ではありません……」


 リガードの顔に戸惑いが浮かんだ。一見無謀とも思える私の行動に彼が理解できないのも無理はない。それでも私には固い決意があった。


「私はヴォルフの死に報いたいんだ。私がここまでやって来れたのは全部ヴォルフのおかげだよ。そしてヴォルフと出会って旅を続けられたから、黒幕がドリスだとわかったんだ。だからこの決着は絶対に私が成し遂げなきゃいけないんだよ」


「ですがニーナ様……」


「大丈夫、心配いらないよ。私を信じて、リガード」


 私はおもむろに魔導書を取り出した。ふわりと目の前に浮かんだ魔導書が私の思考を読み取ってパラパラとページをめくっていく。私はその上に手をかざし、静かに命じた。


「魔導書よ、その叡智により私を至高へと導け。そして全属性の最上級魔法を私に与えよ」


 私の言葉に魔導書はまばゆい光を放って応えた。それが波のように広がると、足元から全身へと湧き上がってくる力を感じた。


「まさか、ニーナ様が……、融合魔法を!?」


 信じられないといった様子のレイズにアウラが言った。


「レイズさん。あれはもうニーナじゃないです。ニーナの中にヴォルフの魂が乗り移っているんです……」


 私の体の中で得体の知れない何かがうこめくのがわかった。奥深くから湧き上がるその力が私を突き動かしていた。


 すでに私は王女ニーナでも皐月仁衣菜でもなかった。感じるのはヴォルフのような比類なき力と不動の精神だった。


 私が今為すべきことはただひとつ。それは幻像の魔法使いを討ち倒すこと。たとえこの旅が終わろうとも。


 私は各属性の最上級魔法をかたっぱしから習得する。


「地属性・大地の狂撃ジオ・ブランディッシュ


「水属性・滅尽の一滴(デス・ドロップレット)


「火属性・炎獄の大殺戮(ゲヘナ・ジェノサイド)


「風属性・猛嵐の抱擁エンブレイス・オブ・テンペスト


 ——名を読み上げるごとに魔導書が放つ光が私の中に流れ込んでくる。まるで新しい回路が出来上がるように私の体が脈動する——


「雷属性・一撃の方程式ストライク・イークウェーション


「氷属性・超・絶対零度ビヨンド・アブソリュート・ゼロ


「光属性・救済の天空門ゲート・オブ・サルベーション


「闇属性・果てなき混沌カオス・インフィニット


「無属性・覚醒の斧槍ハイアウェイク・ハルバート


 9つの最上級魔法をすべて習得すると、次にこれら最上級魔法の融合を試みる。


「魔導書よ、この私に全属性の最上級魔法を束ねた至高の魔法を与えよ。世界を作り変え、新たな秩序をもたらす無上の融合魔法を!」


 その瞬間、私の体から魔力が燃え上がる炎のように溢れ出した。空気が振動し衝撃が波紋のように広がっていった。


 私は右手に拳を作り、その一点に魔力を集中させた。すると大きな塊となって現れた魔力は、まるで破壊の意思を持っているかのように激しく揺らめいていた。


 私はこの一撃にすべてを賭ける。


「ドリス、私と無上の融合魔法で勝負しろ!」

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