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第80話 玉座の間

 王への謁見は玉座の間で行われた。そこは私が国外追放を言い渡された場所だった。異様に広い部屋の奥に玉座に腰掛けるエルドレッド国王の姿があった。このひとが私のお父さん。


 皆が頭を下げ王への忠誠心を示していたけど、私はひとり列の先頭に立ち、腰に手を当てたまま王に冷ややかな視線を向けていた。


「国王陛下、この度は謁見をお許しいただき誠にありがとうございます。国王陛下の命を受けたニーナ様帰還作戦が完遂したことをここにご報告いたします」


 リガードが代表して奏上した。


「よくぞロンテディア王国の危機を救ってくれた。お前たちの活躍はすでに伝え聞いている。反逆者を捕え、ニーナを連れ戻し、それに加え無辺の王を討ち取った。これほどの成果があるだろうか」


 国王は興奮を隠しきれない様子だった。肘掛に手をつき前のめりになってよろこんでいた。


「それも国王陛下のご武運と我ら王国騎士団精鋭たちの犠牲があってこそでした」


「うむ。大変な戦いだったと聞く。リガードよ、よくぞ成し遂げてくれた。それにドリスにも礼を言わねばならない。お前の才気が働きニーナを見つけ出す事ができたのだ」


「身にあまるお言葉、光栄に存じます」


 国王の謝意にドリスは深々と頭を下げて応えた。


「そして我が娘ニーナよ。よくぞ戻ってくれた。お前にはいらぬ苦労をかけてしまったな」


「え? ああ、別にいいよ。楽しいこともたくさんあったし」


 私はあっけらかんと答えた。実際旅ができて私は楽しかったし、ゲームの世界に転生した私にとって国外追放は冒険をはじめるのに好都合だった。


「事の経緯はリガードからすでに聞いているだろう。王国を危険にさらしたのは我が弟ルードヴィクとその息子レイナードであった。お前に結界破壊の濡れ衣を着せ、国外追放を画策したのだ。これを見破る事ができなかったのは私の落ち度だ。王として、父として、自らの至らなさを痛感しておる。ニーナよ、どうか私の過ちを許してはくれぬか」


「いいよ。気にしないで」


「ほ、本当にいいの?」


「うん。でもまあ強いて言うならもっと旅を続けたかったんだけどね。今は仕方がない事だと理解してるよ。こうなる運命だったんだってね。ルードヴィクもレイナードもそうするしかなかったんだよ」


 私の発言に国王は表情をこわばらせた。要領を得ないのか不快感を隠そうとしなかった。


「どういう意味だ。私にもわかるように説明してくれ」


「そのままの意味だよ。彼らは悪くないってこと。ふたりは影で操られていたんだよ。だからふたりを解放してあげて欲しいんだ」利用されて


 場の空気が一瞬で凍りつくのがわかった。周りでじっと黙って聞いていた家臣たちからも動揺した声が聞こえてきた。


「まさかニーナは他に真犯人がいると言いたいのか」


 国王の言葉に私は深くうなずいた。


「私がロンテディアに戻ってきた理由はその真犯人の正体を暴くため。そしてロンテディア王国にまつわる秘密を明かすためなんだ」


「これはまったく、旅の土産話にしては、いささか血なまぐさいな……。よかろう、その話を聞こう。ニーナよ、その秘密とは何だ」


「その秘密は、ロンテディア王国の結界魔法がまがい物だったってことだよ。王国やロワルデ大陸の平和は影の支配者が自分に都合よく作り出したインチキだったんだ。その事に気づいた王女ニーナ……、いや私が国外追放の憂き目にあったんだ」


 私は心霊スポットモエニフで元王女ニーナの魂と遭遇した時、ロンテディア王国には重大な秘密があると告げられていた。


 そしてその秘密を知ったものが皆粛清されるという歴史があることも……。お化けのロアヌさんも秘密を知った人物のひとりだった。


 私はこの旅を通じてその秘密を解き、真相を知ったのだ。


「インチキ……、だと……? この500年の安寧はまやかしだったというのか……?」


「そういうことになるね」


 私の言葉に国王は目を大きく見開いたまま固まっていた。そばにいた家臣も同様だった。

 まるでロンテディア王国そのものが根底から揺らいでいるようだった。皆が驚愕する中、リガードが声を上げた。


「も、もしニーナ様がおっしゃっている事が本当であるならば、必然的にその真犯人は結界を作った大魔法使いという事になります」


「そうなんだよリガード。大魔法使いはそれだけの能力を持っているんだ。私は旅先でニザヴァルのダンジョンを訪れたことがあったんだけど、その最奥にある守護者の間には大魔法使いが書いた魔導書が隠されていたんだ。そこに書かれていた内容は——」


 私の話を聞いてアウラがはっとして声を漏らした。


「人を幸せにする魔法……、それって精神支配の魔法のことだよね?」


「そう。それだよアウラ。それがまさしく人の精神を操る人心掌握の魔法なんだ。大魔法使いはこのロワルデ大陸を支配するために、その禁忌の魔法を使って人を駒のように扱ってきたんだ。結界のクリスタルはその魔法を探知されないようにするためのダミーだったんだよ」


「ニーナ様、お言葉を返すようですが、大魔法使いが生きていたのはロンテディアが建国した500年も前の話です。その者が今もこの世にいるとは思えないのですが……」


 リガードの疑念に私はやさしく笑みを作って答えた。


「違うんだよリガード。大魔法使いは今も生きているんだ。そいつは目立たないように姿を変え、政治の中枢に入り込み、その強力な魔法で人を操っていたんだ。王国に忠誠心を誓うフリをしてね。そして、その大魔法使いはこの中にいる」


「この中に!?」


 まるで玉座の間に雷が落ちたかのような衝撃が走った。驚きとともに、猜疑や、怒り、恐怖が、真っ黒な感情となって渦巻いていた。そこにいた誰もが理性的ではいられなかった。


「ニーナよ、いますぐその者の名を上げよ!」


 国王が大声を張り上げた。


 私は後ろを振り返り、そこにいた大魔法使いの顔をじっと見つめた。そしておもむろに腕を上げ、まっすぐ指をさして言った。


「この騒動の黒幕、大魔法使いの正体は……


 ↓


 ↓


 ↓


 ↓


 ↓


 ↓


 ↓


 ……ドリス、お前だ!」

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