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第8話 生活魔法を習得しよう

 私のはじめてのサブクエストは上手くいったけど、そのあとは襲われたり、魔法で戦ったりと目まぐるしかった。

 最終的にはヴォルフのおかげでオーガたちを服従させることができたけど、たっぷりと冒険の洗礼を受けた気分だった。私は一呼吸して興奮を抑えると、早速オーガたちに命令を下した。


「これから君たちには、この村で真面目に働いてもらうことにする」


「何で魔物が真面目に働かなきゃならねえんだよ」


 ハロルドが文句を言うと、他のオーガたちからも一斉にブーイングが起こった。


「今まで悪い事ばかりしてきたんだ。その罪は仕事で償ってもらうからね。これが普通のゲームプレイならオーガなんてすぐに殲滅しているところだけど、私は君たちの才能を見込んで言ってるんだよ」


「才能?」


「そうだよ。君たちには変身能力があるじゃない。それを使ってバリバリ働いてもらうから」


 月曜日の出勤から逃げてきた分際で、私が働けと言うのも何だが、私の頭の中には妙案があった。


「一体何をすればいいんだ?」


「それはね、パン屋さんだよ!」


「パン屋さん?」


「タパル村には住人たちが残していった小麦畑があるじゃない。小麦を育てて自家製のパンやケーキを焼くの。この世界の小麦はすぐ育つし、君たちは何にでも変身できるんだから、パンを作る道具になってパンを作ればいい。できた商品は交易商に売るんだ」


 キョトンとするオーガたちの反応はいまいち悪かった。


「ところで何でパン屋なんだよ」


「私はパンが好きだから」


「知らねーよ!!」


「とにかく、これからは真面目に働くこと。売り上げは君たちの好きに使っていいからね。これからは人の物を盗ったり、人を傷つけるようなことは全部禁止。コンプライアンス違反は絶対許さないからね! わかったら返事する!」


「はーい」


 私はヴォルフの力を振りかざして彼らを屈服させた。オーガたちはあまり納得していないようだけど、彼らを無益に殺すより、こっちの方が平和でいい。




 その後、タパル村を旅立った私とヴォルフは途中で見つけた小さな湖畔で、少し遅いお昼休憩を取った。

 タパル村で貰った干し肉が私のお昼ご飯だった。塩漬けにして乾燥させただけのシンプルさ。いわゆる保存食だった。


「何の肉だろう」


 私はその謎肉を恐る恐る口にした。


「固っ、全然噛み切れないんだけど!」


 まるで石のような固さで、まったく歯が立たなかった。正直人が口にするものなのかも疑問だった。

 私が悪戦苦闘する横でヴォルフも食事をはじめた。視線を向けると彼が口にしたのは、何と近くにあった大きな岩だった。


「ヴォルフってそんなものを食べるの!?」


 彼は涼しい顔をしてその頑強な顎と鋭い牙で固い岩を噛み砕いていた。口からこぼれた岩の欠片がドスンドスンと音を立てて地面に落ちた。その豪快な食べっぷりを見て私も負けじと干し肉にかじりついていた。




『ウィザード・オブ・ロンテディア』の世界では9つの属性魔法が使えた。地水火風の基本四属性に加えて、光闇雷氷無の属性魔法があった。

 それぞれの属性には攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、そして能力上昇などの支援魔法が用意されているのだが、このゲーム最大の特徴として冒険者レベルを上げれば、習得した様々な属性魔法を組み合わせ、より強力な魔法を使えるようになるのだ。


 これが融合魔法と呼ばれるものだった。それはゲームをクリアするための必須条件であり、各属性の最大レベルの魔法をすべて組み合わせれば魔法の頂点『無上の融合魔法』を習得できる。


「いつか必ず無上の融合魔法をぶっ放してやるんだから!」


 私は鼻息を荒くして息巻いていた。


 無上の融合魔法は破壊力はもちろん、世界を作り変えるとさえ言われる究極魔法だった。これこそが魔法使いが到達すべき本懐と言えるのだが……、


「今の私の実力じゃあ、先は長いな……」


 経験値獲得率が非常に悪い王女様キャラの私には長く遠い道のりに思えた。


「こんな私でも使える魔法ってあるのかな」


 私はおもむろに魔導書を取り出した。するとふわりと空中に浮かんだ魔導書が私の思考を読み取ってパラパラとページをめくっていった。

 しばらくすると魔導書があるページを私に開いて見せた。そこに書かれていたは毛色が違うものだった。


「生活魔法か……」


 生活魔法はこの世界で便利に暮らしていくための魔法だった。掃除や洗濯をしてくれる家事魔法や、探し物を見つけてくれる探査魔法など、種類は多くバラエティに富んでいた。

 使用に必要なレベルの設定はなく、私のような駆け出しでもすぐにでも習得できる。MP消費量も少なくて済み、旅をする上で持っておいて損はない。


「生活魔法を極めてみるのも面白いかもしれないなあ」


 私の考えに魔導書が再びページをめくりだした。止まったページには『防犯魔法』と書かれてあった。


「なるほど。これはありかも……」


 それは探知範囲は狭いが、犯罪などの危険を知らせてくれる常時発動型の生活魔法だった。危険を察知すると頭の上にパトランプが生えて注意を促してくれる。


「ダサいけど取っておく方がいいかな。もう騙されるのは嫌だしね」


 私は習得のために魔導書に手をかざした。すると防犯魔法が書かれたページの文字が淡い光を放ちはじめた。その光が私の体の中に流れ込んで来ると、全身に力が漲るのを感じた。


「これで習得完了。あとは落下耐性のスキルでも取っておこうかな」


 スキルは運動能力や知覚能力を上げてくれたり、特殊な能力を身につけることができる。私はなけなしの経験値をつぎ込んで、メインメニューから落下耐性のスキルを取得した。


「よし、これで次の旅の準備はできた。ヴォルフ、そろそろ出発しよう!」


 私はヴォルフの背中に跨ると、次の目的に向けふたたび大空へと飛び立った。 

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