第79話 王都帰還
レイズの最後のテレポートが終わった。私たちを包んでいたまぶしい光が消えると、草原の向こうに高い城壁が見えた。それはまさしくロンテディア王国だった。私たちはついに帰って来たのだ。
「ここからは馬車で入城していただきます」
リガードが用意していたのは貴族が乗る立派な馬車だった。金色の装飾が施された豪華な馬車は6頭立てで、白馬が大人しく出発を待っていた。
「何だか大げさだなあ……」
「ニーナ様、今日はロンテディアの歴史的な日ですよ。王女の凱旋なのです」
リガードは少し呆れたような表情を見せながら、馬車の扉を開け乗るようにうながした。私はその様子をぼうっと見ていたアウラの手を取った。
「えっ、私も乗るの?」
「そうだよ」
「私はそんな立場じゃないし……、分不相応な気がするんだけど……」
「そんなこと気にしなくていいんだよ。アウラは私と旅をしてくれた仲間なんだから、これくらいの待遇は当たり前だよ」
私は半ば強引にアウラとともに馬車へ乗り込んだ。車内は外観と同様に美しい造りになっていた。
壁や天井には緻密な刺繍が施されていて高級感に溢れている。まるで動く貴賓室のようだ。
「わあ、すごい!」
アウラは目を輝かせて言った。
「ねえニーナ、この座席ふかふかだよ。お尻が浮いているみたい」
私の向かいに座ったアウラは子どものようにはしゃいでいた。刺繍が入った布張りの座面を撫でながら、座り心地を堪能していた。
「すごいね。さすが貴族が使う馬車は違うわ」
私もその豪華絢爛さに思わずうっとりとした声を出した。
「貴族って本当に夢のような生活なんだね。私には想像もつかない世界だよ。すごいなあ。憧れるなあ〜」
アウラは興奮を抑えられないようだ。
そうこうしていると馬車はゆっくりと動きはじめた。国旗を掲げた衛兵を先頭に隊列を組んで進んで行く。リガードやレイズも馬に跨り後ろについていた。
ほどなく車列はロンテディアの門をくぐった。車窓から見える街並みは私が追放された時とあまり変わらなかったけど、大通りにさしかかると景色は一変した。沿道に大勢の市民が集まっていた。
「ニーナ様! おかえりなさい!」
空気を震わせるほどの市民の大歓声が上がった。楽団のファンファーレが鳴り響き、紙吹雪が舞う中を車列がゆっくりと進んで行く。
大人も子どもも手を振って迎え入れてくれた。街はお祭りムード一色だった。祝賀祭はすでにはじまっていた。
「うわぁああああ、すごい人だよニーナ。みんな盛り上がってるよ。やっぱ都会ってすごいなあ。街もすごく立派で綺麗だし」
人々の熱気と王都の雰囲気にアウラは感動していた。まるでお上りさん状態で物珍しそうにキョロキョロしっぱなしだった。
「みんなニーナのために集まってくれたんだよ」
「出る時は罪人扱いだったのに、みんな調子いいんだから」
そう答えると私は口をつぐんだ。窓際で頬杖をついて静かに外を眺めていた。とても祝賀会の主役とは思えない態度を取っていた私にアウラは不安げに尋ねてきた。
「ねえニーナ、ひとつ聞いてもいい?」
「うん、いいよ」
「ニーナはどうしてロンテディアに戻って来たの? あれだけ旅をしたいって言い張っていたのに……」
「だって仕方ないでしょ。私は囚われの身なんだから。レイズの追跡からは逃れられないし」
「私にはニーナがそんなことで諦めたりしないのはわかってる。ロンテディアに戻ってきたのは何か考えがあってのことなんだよね……」
私はアウラに胸の内を見透かされた気がしてどきりとした。
「さすがアウラだね。伊達に私と長い付き合いしていないものね」
「私は心配してるんだよ。ニーナは何をしようとしているの……?」
「ごめん。今は言えない……。でも心配はいらないよ。私はこの旅の決着をつけたいだけだなんだ」
「決着?」
「そう」
私は言葉少なげに答えるだけだった。
しばらくして車列がロンテディア城の前に着いた。馬車から降りると、赤い絨毯が足元から城の中まで伸びていた。周りには大勢の家臣たちが待っていて、一斉に頭を垂れた。
「おかえりなさいませニーナ様」
大勢の侍女たちの中にドリスの姿を見つけた。久しぶりに目にしたドリスは少しやつれて見えた。そんな彼女に私はねぎらいの言葉をかけた。
「ただいまドリス。また会えてうれしいよ。君も大変な目に遭ったね」
「滅相もございません。ニーナ様のご苦労を思えばたいしたことではございません。わたくしども心よりニーナ様のお帰りを望んでおりました。その願いが叶いわたくしは大変うれしく思います」
ドリスは目に涙を溜めていた。それが今にもこぼれ落ちそうだった。
「ありがとうドリス。それでひとつお願いがあるの。私は今すぐに国王に会いたいんだ」
「はい、国王陛下もニーナ様をお待ちになっております」
「その場所に案内してくれる? アウラとリガード、レイズ、それにドリスにもその場に同席してもらうから」
「かしこまりました」
私の命を受けドリスは表情を引き締めた。普段の侍女としての顔つきに戻っていた。私とアウラは他のふたりとともにドリスに案内され城の中に入っていった。




