第76話 最後の一撃
「ね、ねえニーナ……、リガードさんとレイズさんだけになっちゃったんだけど。ほとんどいなくなっちゃったんだけど……」
「こうなるからヴォルフを出したくなかったんだよ……」
私の予想通り王国騎士団がヴォルフに蹂躙される結果となった。最初から分かっていたことだけど、目の前でまざまざと見せつけられて、私は言葉にできないほどショックを受けた。
「忘れていたけど、ヴォルフってやっぱり強いんだね。人間じゃとても太刀打ちできないよ」
「でもアウラ、あのふたりはまだやる気みたいだよ」
私はリガードとレイズを見やって言った。ふたりは未だヴォルフに挑もうとしていた。相手の出方を見極めようと再び地上に舞い降りたヴォルフを睨みつけていた。
「私はまだ諦めてはいない。レイズよ、私に力を貸してくれるか」
「はい、リガード様」
リガードには考えがあるようだ。この状況で何かできるとは思えないけど、気になった私は聞き耳を立てた。
「君に無辺の王の弱点を洗い出して欲しい。探知できるか」
リガードの言葉を聞いて私はため息をついた。ヴォルフに弱点などないのだ。彼はこの世界で完璧で最強の存在だ。
ヴォルフに勝つにはプレーヤーである私とパーティーを組み、経験値を積んで、ステータスを上げて挑むしかない。NPCだけでは絶対に無理。彼らのやろうとしていることが不発に終わるのが目に見えた。
「リガード様、弱点探知魔法は攻撃の瞬間に生まれる防御の隙をつけるかにかかっています。無辺の王に通用するかはわかりません。それに私ひとりでは……」
一向に降参する気のないふたりを見て、ヴォルフがふたたび攻撃態勢に入った。口を大きく開け破壊光線を放とうとしていた。口元に光を集めバリバリと音を立てて威力を蓄えている。
「リガード様! 無辺の王が攻撃を!」
リガードたちに防御する間を与えず、ヴォルフが破壊光線を放った。巨大なエネルギー波が彼らに向かって飛んでいく。あわや直撃かと思われた、次の瞬間。
「神聖防御魔法!」
どこからともなく声がして、ふたりの目の前に防御結界が張られた。ヴォルフの破壊光線は結界の壁に当たり、四方八方に飛び散った。
「ルチナ!」
レイズが声を上げた。防御魔法を張ったのはルチナという魔法使いだった。彼女はヴォルフの攻撃反射を喰らい戦線を離脱していた部隊のひとり。ルチナは瀕死の重傷を負いながら、すべてのMPを防御魔法に注いだ。
「何とか耐えてるけど、やばいよ!」
「このままじゃ、街が壊れちゃう!」
飛び散ったヴォルフの破壊光線がモルドレニアの街に降り注いだ。至る所から煙が上がり、建物が破壊されていく。
肌を焦がすような破壊光線の熱風に耐えながら、私もアウラもこの攻防戦の行方を必死に追った。
「今だレイズ!」
「はい! 弱点探知魔法!」
ヴォルフの攻撃を躱しながらレイズが弱点探知魔法をかけた。ヴォルフの全身をくまなく調べ上げる。
ほどなくレイズ出した答えは私の予想を覆すものだった。
「リガード様! 無辺の王の弱点を探知しました!」
「嘘だあぁ! 弱点なんてあるわけないじゃん!」
私はそんなバカなと思わず声を上げた。
「レイズ、それは確かか!」
「はい、リガード様。無辺の王の胸元を見てください! 首の付け根あたりです。その部分の鱗が1枚はがれています!」
私もヴォフルの胸元を確認した。たしかにレイズの言う通り分厚い鱗が一枚なくなっていた。そのおかげで細く縦にできた隙間からヴォルフの地肌が見えていた。
「あれって、もしかして……」
私ははっとして思い出した。それはキエトの森で出会った伝説のアーチャー・ノーマンとの出来事だ。
あの一枚は彼の仲間にかけられたドラゴンの呪いを解くために、私がヴォルフの体から切り取って渡したものだった。
「はぎゃあぁああああああああ!!!! しまった! あの鱗は私がノーマンにあげたんだった!」
良かれと思ってやったことが、まさかこんな結果を生むなんて。あまりの理不尽さに私は悲鳴を上げた。
「どうやらニーナ様が無辺の王に弱点を作ってくれたようだ」
「違うわい!」
勝機を見出したリガードの眼光が鋭く光った。
「あの頑強な鱗がないのなら我々の攻撃が効くはずだ。これをしのぎ切ったら反撃に出る。私が無辺の王の懐に潜り込もう。レイズは支援魔法を!」
「はい!」
ヴォルフの破壊光線が終わると、すぐさまリガードが動いた。
「行くぞ、レイズ!」
「はい!」
レイズは魔法を発動した。
「聖なる鉄槌!」
彼女は打撃系の魔法をヴォフルの足元に着弾させた。高く舞い上がった土煙が壁のようになってヴォルフの視界を遮った。
リガードはそのタイミングを見計らい、土煙に紛れて突進した。
「我が渾身の一刀、受けてみよ!」
リガードは雄叫びを上げ跳び上がった。その勢いでヴォルフの弱点に剣を突き立てた。辺り一面まばゆい光が放たれ、ヴォルフが苦悶の呻き声を上げた。
その光景を見た私はリガードの剣が普通の物ではないことに気がついた。
「この剣は古来より神々から祝福を受けたこの世にふたつとない聖剣、その名はドラゴンスレイヤー、竜殺しの剣だ!」
「そんなの持ってたの!!!!」
「無辺の王よ、この神聖なる力の前に跪くがいい!!」
リガードはさらに力を込め、竜殺しの剣を根元まで押し込んだ。それがヴォルフの心臓を貫いた瞬間、耳をつん裂くような激しい断末魔の叫びが轟いた。
「ああ……、ヴォルフ……」
まさか、ヴォルフがやられるなんて……。私は信じられない気持ちだった。
激しい閃光が炸裂し、ヴォルフはのけぞるように巨体を揺らした。そしてそのまま力尽き、ゆっくりと地面へと崩れ堕ちていった。




