表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/84

第75話 戦闘開始

「ねえ、ニーナどうするの? このままじゃみんなやられちゃうんじゃないの?」


 騎士の脇に抱えられたアウラが心配そうに言った。同じく騎士に抱えられた私は弱々しく答えた。


「私もどうすればいいかわからないよ……。ヴォルフは頭に血が上って言うことを聞かないし、リガードたちもスイッチが入ってやる気満々だし。もうなるようにしかならないよ……」


 それ以上何も言えなくなってしまった。私もアウラも悲惨な結果をここでただ待つしかなかった。すると私たちを両脇に抱えていた騎士が口を開いた。


「我々王国騎士団は竜討伐の準備をしております。きっとリガード様はあのドラゴンを倒してくれるはずです」


 騎士として仲間の武勇を誇るのは当然だけど、現実的に私はそんな輝かしい未来を描けなかった。


 リガードはヴォフルと対峙していた。無辺の王を鋭い目で睨みつけ、その禍々しく強大な姿を前にしても一歩も引く気はなかった。


 リガードは剣を抜くと高らかに号令を発した。


「これよりドラゴン討伐作戦を開始する! 我々の敵は目の前にいる無辺の王だ。皆武器を取り、奴を包囲しろ!」


 リガードの気迫に部隊の士気が上がった。ヴォルフを囲むように騎士たちが攻撃態勢を取った。その数30あまり。上空にはレイズを含め3人の魔法使いがいた。ヴォルフを空と地上から挟撃を仕掛けるつもりのようだ。


「レイズ、支援魔法だ!」


 リガードの指示でレイズが魔法を発動した。


身体強化魔法!フィジカル・リインフォースメント


 それは身体を強化する支援魔法だった。攻撃力、防御力、体力、素早さ。騎士団のすべてのステータスが上昇した。

 それでもリガード隊の総兵力は、ヴォルフのレベルには遠く及ばなかった。彼らが王国騎士団の精鋭部隊だとしてもその差は縮められないのだ。


 ヴォルフが瓦礫を踏みつけ大きな咆哮を上げた。全身から黒い闘気を発し戦意を見せる。その気迫が私たちが居る場所まで漂って来た。


「ヴォルフはきっとニーナを守ろうと必死なんだよ」


 私はアウラの言葉に胸が締めつけられた。


「我々は人類の宿敵ヴォルフと相見えた。これは人類の歴史に勝利を刻む僥倖ぎょうこうである。この命運に魂を捧げ、我々王国騎士団が無辺の王を討ち取ってくれよう!」


 リガードがヴォルフに剣を向けた。


「我らが誇りとともに! 討て!!」


 リガードの号令で一斉攻撃がはじまった。うおぉおおおおっと叫び声を上げ、剣を手にした騎士たちが飛びかかる。


 だがヴォルフは微動だにしなかった。まるで騎士たちを懐に誘い込むかのようにじっとしていた。


 騎士たちが振り上げた鋭い剣がヴォルフの体に突き立てられようとした、まさにその時。

 ヴォルフは素早い動きでくるりと身を翻すと、鞭のようにしならせた長い尾で騎士たちを薙ぎ払った。


 鎧が歪む金属音と骨が砕ける鈍い音がした。命の火が一瞬でかき消された。


 まるで木の葉を蹴散らすかのように無残に吹き飛ばされた騎士たちが、私たちのそばを掠めていった。


「きゃあぁああああ!」


 アウラが恐怖で悲鳴を上げた。私もその凄惨な光景にすくみ上がった。これはゲームではない命がけの戦いだった。


 局面はすぐさま魔法使い3人に移った。上空から同時攻撃を仕掛ける。彼女たち息を合わせ魔法を発動した。


神威の轟撃!セレスティアル・アーティラリー


 巨大な光の球が砲弾となって放たれた。その閃光が空を切り裂きヴォルフの体に直撃する。


 だが分厚い装甲のような鱗には傷ひとつつかなかった。それどころか魔法使いの攻撃は弾かれるように反転し、彼女たちに向かい飛んでいく。


「まさか攻撃反射!? みんな防御魔法を!!」


 レイズが声を上げた。だが、ひとりの魔法使い遅れを取った。


「ルチナ、早く!」


「ひいっ! 間に合わない!」


「ルチナ!!」


 彼女の体が大きな爆発に包まれた。防御を取れず自らが放った魔法の直撃を喰らっていた。弾き飛ばされた体に生気はなく、そのまま地面に落下した。


「もうだめだ……、完全に陣形が崩れてる……」


 私にはすでに勝負がついたように見えた。騎士団は戦闘を継続できる状態ではなかった。それでもヴォルフは攻撃の手を緩める気はないようだ。


 ヴォルフが地面を踏みしめ飛び上がる姿勢を見せたかと思うと、その巨体が一瞬で私たちの視界から消え去った。予期せぬ事態にリガードたちに緊張が走る。


「無辺の王が消えたぞ! 周囲を警戒しろ!」


 ヴォルフが音も立てず忽然と消えた。誰もがその場を動けなかった。見えない恐怖に押しつぶされそうになりながら、彼らは必死にヴォルフを探した。


 つかの間、互いの息遣いさえ聞こえてきそうな静寂のあと、ヴォルフが再び姿を現したのは魔法使いの背後だった。


「メリーナ! 無辺の王は後ろだ!」


「えっ、う、嘘……」


 その魔法使いがおそるおそる後ろを振り返ると、目と鼻の先にヴォルフの鋭い眼光があった。

 まるで死刑を宣告されたかのように、彼女は震える声を喉から絞り出した。


「お、お願い……、殺さ……ないで……」


 命乞いが利く相手ではなかった。ヴォルフはくるりと身を翻した。すると長い尾をしならせ、彼女の頭上へ振り落とした。


 どんと鈍い衝撃音がして、瞬きする間もなく地面に叩きつけられた。その魔法使いの骸が無残にリガードの足元に転がった。


「メリーナ!」


 レイズの悲痛な叫び声が瓦礫と屍体が散乱する、変わり果てたモルドレニアに響いた。ヴォルフの力の前に為す術はなく、部隊はあっという間に戦力の大半を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ