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第70話 A5ランクの最高級ステーキ

 私とアウラは街のステーキレストランを訪れていた。この店はモルドレニアで一番美味い肉が食えると評判だった。A5ランクの最高級牛肉を味わえるとあって、その噂を聞きつけた人たちで店内は満員だった。


 目の前に運ばれてきたのは最高級サーロインステーキだ。お腹いっぱい食べたくて注文した500グラムの肉塊はボリューム満点で、鉄板皿の上でじゅうじゅうと音を立てて焼き上がっていた。紙エプロンをつけた私たちは興奮状態になっていた。


「こ、これが、最高級サーロインステーキ……」


「そうだよ、お肉界の王様、いや神か……」


 ナイフを入れるとその身はとても柔らかく、何の抵抗もなくすうっと切れた。その断面にはうっすらと赤みが差していて、滲み出た肉汁でてらてらと光っていた。


 私は期待に胸を膨らませ頬張った。すると口いっぱいに肉汁が溢れ出して、まるで溶けていくような食感と、まろやかなコクと旨味が味わえた。


「うまっ!」「うまっ!」


 私たちは声を揃えて絶賛した。何とも言えない幸福感に包まれて、私たちは何度もため息を漏らした。


「ああ〜、こんなに美味しいステーキを食べられるのも、お金持ちのニーナのおかげだよ。このパーティーじゃなかったら一生食べられなかったかも」


「そうだよ。そうなんだよアウラ。何度でも私のことを惚れ直してくれていいからね」


 私たちはその巨大なステーキをあっという間に完食した。膨らんだお腹をさすりながら、ふうっと大きなため息をついた。


「完全に燃えた尽きたぜ……」


「もう食べられない……」


 しばし、ふたりで高揚感に浸っていた。もう胃袋は限界って感じだったけど、食後のデザートは外せなかった。いわゆる別腹ということで私たちはアイスクリームを注文した。


 モルドレニアに来て7日が経っていた。その間ふたりで街にある文化施設を見て回った。ここには美術館や博物館、演劇場や闘技場、サーカス団まであって、私たちはモルドレニア観光を隅々まで楽しんでいた。


「世界のライオン展すごくよかったね。素晴らしい作品ばかりだったよ。やっぱりモルドレニアには一級品が集まるって噂は本当だったね」


 アウラはアイスクリームを突きながら、さっき観てきた美術館のことをうれしそうに話した。


「私にはまったくわからん」


 アウラの感想に賛同できず私は首を横に振った。その理由はライオンの絵画はどれもライオンとは似ても似つかないものばかりだったからだ。


 自分に絵心がないのを棚に上げて何だが、見てきた絵画はどれも立体感がなくのっぺりとしていて、ライオンというより子どもが描いた珍獣モンスターに見えた。


「あれが上手いとは思えない。アウラはちゃんと観てた?」


「ちゃんと観てたよ。私は愛嬌があって好きだよ。笑って舌なんか出してさ」


「ライオンが笑うか? 百獣の王なんだよ。もっと誇り高きものでしょ。あのクオリティなら私が描いたライオンの方が上手い気がする」


 不満もあって私は小さな対抗心を抱いていた。


「ところでモルドレニアを出た後はどうするの? また大きな国に入るの?」


「うーん」


 と、アイスを口に運びながら、私は頭の片隅にあった旅の計画を打ち明けた。


「ここから北に小さな村があるんだけど、そこに巨大生物が出現していて住民が困ってるって話があるんだ。カメレオンワームってやつ」


「それってどんな魔物なの?」


「その名の通りカメレオンみたいな巨大な芋虫だよ。周りの環境に擬態して餌がかかるのを待つんだって。トンネルや道に化けたりして、そこを通った生き物を襲うんだ」


「まさか人も食べちゃうの?」


「そうなんだよ。人間も食べちゃう。しかも飲み込んだものを溶かして食べるから、死体も痕跡も何にも残らないんだって。だからみんな行方不明扱い」


 私はアウラを怖がらせようと、わざと声色を変え、低くねっとりとして言った。


「そ、そんなの私は相手にできないよ……」


「まあそうなんだけど、こっちにはヴォルフ先生がいるし、何とかなると思うんだ」


 我がパーティーは計画があるようで全くないのはいつものことだ。それでもサブクエストをこなせたのはヴォルフのありあまるパワーのおかげだ。


 パーティーのリーダーとしてはお恥ずかしい限りだけど、私はヴォルフに頼りっぱなしだ。するとアウラが心苦しそうにこぼした。


「まさにヴォルフさまさまだね。今ここにいないのは残念だけど……」


 ヴォルフもいっしょにモルドレニアに連れて来てあげたかったけど、この街の警備ではたとえトラベルパッキング魔法で小さくしてもリスクが大きかった。


「ヴォルフにはおみやげを持っていってあげよう。ここのステーキはお持ち帰りできるみたいだし、他の店にも美味しそうなものがたくさんあるし」


「うん、それがいいね。きっとよろこんでくれるね」


 突然私のリュックがブルブルと震えた。中を確認すると黒水晶のクロちゃんの丸い体が見えた。

 彼は持ち主も知らない過去を教えてくれる魔導具だ。真っ黒な顔に『新着情報』の文字が浮かび上がっていた。


「いったい、なんだろう……」


 私はちょうどアイスを食べ終えたところで、クロちゃんを持ち上げテーブルの上に置いた。彼は動画視聴に120ゴールドを要求していた。


「とりあえず見てみるか」


「うん」


 私はクロちゃんの頭の投入口にゴールドを入れた。すると真っ黒な水晶玉の奥から、もやもやと映像が流れはじめた。

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