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第7話 形勢逆転

「何言ってるのハロルド。悪い冗談はやめてよ……」


「俺は大真面目に言ってる。そのゴールドとジェムは俺が全部いただく」


 豹変したハロルドに私は面食らっていた。さっきまでのナイスガイの姿は見る影もなかった。周りにいたおじさんたちまで、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていて、私はやっと自分が騙されていたことに気がついた。


「あんたたち、この村の住人じゃなかったんだね」


「そうさ、よく気づいたな。俺たちは住人でもないし人間でもない」


 人間でもないという告白に私は言葉を失った。


「俺たちの本当の姿を見せてやるよ」


 ハロルドたちは唸り声を上げると、つむじ風のような煙を巻き上げた。一瞬彼らの姿が見えなくなったかと思うと、次に現れた時にはすでに人間の形をしていなかった。


「あんたたち、オーガだったんだ……」


 落ちくぼんだ鋭い目に尖った耳、下あごから大きな牙覗かせるその顔はまさに野獣のようだった。全身に刺青を入れた緑色の体は分厚い筋肉で覆われていた。

 これで穴掘りの体力が人間離れしていた理由がわかった。オーガは人間よりも大きく怪力で、高い変身能力を持つ厄介な魔物だった。


「じゃあこれも……」


 私は持っていたダウジングの道具を地面に投げ捨てた。するとつむじ風が湧き上がり煙の中からオーガが姿を現した。私は背筋が凍るのを感じた。


「ワァーハッハッハッハッ。どうだ驚いたろ。俺たちは何にでも変身できるんだぞ」


「ずっと私を騙してたんだね。ナイスガイだと思ってたのに……。ここの住人たちはどうしたの?」


「俺たちの姿を見て蜘蛛の子を散らすように逃げて行ったよ。今頃どうしてるだろうなあ」


 オーガたちは占領したタパル村で、私のような冒険者や通りがかった行商人を襲っていたのだ。

 私はその罠にまんまと引っかかってしまったのだ。ハロルドが声をかけてきた時から、私はずっと彼に値踏みされていた。


「さあ、お遊びはここまでだ。井戸を掘り当てたことに免じて命だけは助けてやる。有り金全部寄越しな」


「やだ」


「やだじゃない」


「やだもん。これは私がサブクエストで貰ったものだもん」


「呆れた小娘だ。どうやら力ずくでいくしかないようだな。後悔しても遅いぞ」


 いつの間にか私はオーガたちに囲まれていた。退路を断たれ、じりじりと狭められていく。戦闘は避けたかったけど仕方がない。私は攻撃態勢を取った。


「私にだって攻撃魔法のひとつくらい撃てるんだから!」


 私が持っていた魔法は、手から刃物を実体化させ投射するスローイング・ダガーだった。今使える魔法はこれだけ。

 でも誰か一人でも怯ませられれば突破口が開くはず。私はハロルドに狙いを定め、魔法を放った。


「喰らえ! これが私の記念すべきはじめての魔法。スローイング・ダガー!!」


 素早く右手を水平に振り、投げるような動きをすると、私の広げた手のひらから実体化したダガーが飛び出していった。


「やった、成功!」


 私は手応えを感じながらダガーの行方を追った。けど、ハロルドの体に当るとその鋼のような筋肉に弾かれてしまった。

 無情にも何のダメージを与えることもなくダガーは彼の足元に落ちてしまった。


「何だこのへなちょこ魔法は。こんなもんじゃあ、虫一匹殺せやしないぞ」


「へなちょこって言うな!」


 私は馬鹿にされてムッとした。


「お遊びはおしまいだ。お前ら、ニーナから有り金と服を取り上げろ」


 ぐへへへっと下卑た笑い声を上げながらオーガたちが迫ってきた。まさに絶体絶命のピンチだった。どう見ても私には勝機はなかった。

 でもそんな最悪な状況にもかかわらず、我慢できなくなった私は思わず吹き出してしまった。


「プッ、ププププッ……」


「何がおかしいんだニーナ」


「だって、私にはあんたたちが恐れをなす姿が目に浮かぶんだもん。どうやったって私に勝てるわけないんだもの」


「この状況で何をたわけたことを言っている」


「じゃあ、今からそれを証明してあげる」


 私は右手を空へ伸ばし、そして高らかに相棒の名を叫んだ。


「我が元へ()でよ。無辺の王、ヴォルフよ!」


 私の声を聞いて、空からヴォルフが降りてきた。ずどーんと轟音を響かせて、その禍々(まがまが)しい巨体を見せつけた。その瞬間オーガたちの顔面が蒼白になった。


「なななな、何でヴォルフ様がここに!!」


 事態が飲み込めず、オーガたちはパニックに陥っていた。睨みを利かせるヴォルフを前にオーガたちは深々とひれ伏した。


「ウェーハッハッハッハ! どうだ参ったかオーガどもよ。これが私が言った勝利の景色だ。ウェーハッハッハッハ!」


 形勢逆転。私は気分爽快だった。悪い奴らを懲らしめるなんて現実世界では絶対に味わえない快感に酔っていた。

 そのおかげでマウントを取る私のダメな癖が出てしまったけれど、完全に調子に乗った私は体を仰け反らせ高笑いしていた。


「アニキ、どうしてあんな癖の強い小娘に、ヴォルフ様は仕えているんですか……」


「そんなこと俺に聞かれてもわからねえよ」


 ハロルドは苦々しい表情を見せていた。たしかに彼らがうろたえるのも無理はない。ヴォルフは魔物の頂点にいる存在だ。彼らにとって言わば魔族の王なのだ。

 そんなヴォルフが人間の少女の仲間になるなんて魔物じゃなくても誰だって驚くだろう。呆然とするオーガたちに私は告げた。


「とにかく、あんたたちには私の言うことを聞いてもらうからね。もし逆らうようなら……」


「グルルルゥウウウウ」


 ヴォルフが睨みを利かせた。恐れ慄くオーガたちはその大きな体をぎゅっと縮こまらせていた。

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