第68話 カフェで事情聴取
その後、私はクライスのパーティーと共に近くのカフェに寄った。私はクライスの右隣に、テーブルを挟んで向かい側に女子3人が席に着いた。そこでお互いに簡単な自己紹介をした。
奥からバーサーカーのエルフ、イーダ・ストーンヘイム、魔法剣士のアティカ・ルッツ、プリーストのミリエル・アーネットだ。
リーダーのクライスはレベル8のソードマスターだった。剣の腕前は他のどのソードマンより高く、攻守にわたって活躍してくれるオールラウンダーだ。
顔立ちは穏やかで癒しの雰囲気も持っていて、多分このゲームの世界でもトップクラスのイケメン。
私はクライスと出会って乙女かってくらいドキドキしていた。実際目にすると本当にかっこよくて、長い眠りについていた私の女心が叩き起こされたような気がした。
そんな私に女子3人は心中穏やかではなさそうだった。最初に口火を切ったのはアティカだった。
「はっきりさせておきたいんだけど、ニーナはクライスとどういう関係なの?」
「どういう関係って……」
一気に不穏な空気が漂った。クライスの名を知っていた私は、完全に疑いの目を向けられていた。
「まさかこんな若い子にまで手をつけていたのかクライス……。どんだけ守備範囲が広いんだよ」
イーダは悔しそうに拳でテーブルを叩いた。
「どんなに清い心を持ってしても、若さには敵わないよ……」
ミリエルが悲しそうに目を潤ませていた。
「ちょっとみんな待ってくれよ。誤解しているよ。僕はそんな見境のない男じゃないから……」
クライスは弁解したけど、彼女たちはまったく信用していないようだ。3人はテーブルに乗り出す勢いで私に迫った。
「どうなの、ニーナ!!」
「どうって……」
私としては初回のゲームプレイで同じパーティーだったことをクライスに告げたかった。たとえ信じてもらえなくても、たとえ変な奴だと思われても、私は本当のことを伝えたかった。
けど、どう見てもこの状況ではそうもいきそうになかった。私は仕方なく適当な言い訳をした。
「特に何かあるわけじゃないよ。クライスは強いし、剣の達人だからその噂を聞いて名前を知っていたんだ」
「はあ……」
と、女子3人は、いやクライスもほっとため息をついていた。
これでこのパーティーの関係性が浮き彫りになった。これは完全にハーレム化したパーティーだった。しかもイケメンのリーダーを巡る争奪戦が激化している。私はもしやと、クライスに広場での喧嘩で気づいたあのことを尋ねた。
「もしかして3人にTバック履かせたのはクライスなの?」
「何故それを!! ……いやまったく、女性の見抜く目には恐れ入るよ。でもそれも誤解なんだ。僕はそこまで要求してない……」
クライスはそこまで言って口籠った。それを見たイーダが代わりに話を続けた。
「ニーナ、その理由はね、クライスがアティカにTバックを履かせたのがはじまりなんだよ。彼がアティカだけ特別扱いするからおかしくなったんだ」
「だからそれは私の誕生日のプレセントなんだから、誕生日に特別扱いされるのは当然でしょ」
アティカは何でもないことのようにすまして言った。
誕生日プレゼントにスケベ下着を贈るのもどうかしてるけど、他のふたりも意地になってTバックになるのもどうなんだろうか。
「ねえイーダ。こんな時にTバックの話なんてしないでよ。私は聖職者なんだよ。立場ってものがあるんだから」
「はあ? 何カマトトぶってるんだよ。お前だってアティカがTバック貰ってからケツが見える服に変えただろうが。聖職者のくせにふしだらなんだよ」
「本当やだやだ。真面目ぶってるくせにしれっとアピールして来るとか、したたかすぎるわ〜」
「ち、ちょっとふたりで私を責めないでよ。裸同然のイーダに言われたくないし、アティカが優位に立ってるのも許せない」
「何よ!」「何よ!」「何よ!」
また喧嘩がはじまった。こんなくだらないことで仲間割れするのも、原因がクライスの無自覚な行動にあるようだ。
「クライス、あんた罪作りな男だね。これはもう正妻戦争だよ」
「僕としてはみんなに仲良くしてもらいたいんだけど、どうしたものか頭が痛い問題だよ」
クライスは悩ましげな態度を取っていたけど、どこかしらまんざらでもない様子にも見えた。
私はそんな彼に冷たい視線を送ったけど、モテるってことが男にとって悪い気がしないのも理解できる。
「そういえば……」
と、私は初回プレイのことを思い出した。クライスはその時もよく女の子の話をしていた。
ゲームが終盤に差し掛かって緊張感が増す中、ひとり呑気におしゃべりするのがクライスだった。
楽天家でお調子者、そしてほんの少しナルシストな彼は、過酷な世界でも明るく振る舞う憎めないキャラだった。私はそんなクライスに何度も笑わされたのを覚えている。
ちなみに初回プレイで私が選んだキャラは闇属性の魔法使いで、ヴォルフとの最終決戦はクライスの他、ウォーリアーのデッカー・コルテガンブと召喚師のヨル・ゲイルノートというキャラで戦った。
ヴォルフは本当に強くてあらゆる属性魔法に高い防御力を持つラスボスだった。私は消耗戦になる事を予想して、召喚獣を操り手数を増やす作戦を取った。それが功を奏し、私たちはぎりぎりで勝利をもぎ取ったのだ。
私は初回プレイの懐かしさから我に返り、クライスに尋ねた。
「ところでクライスたちはどうしてモルドレニアに来たの?」
「ああ、それはね、この旅の前祝いってやつさ。僕たちはヴェルスを討伐しに行くんだよ」
ヴェルスと聞いて私ははっとさせられた。
「ヴェルスってミューロス大陸にいるドラゴンの?」
「そうだよ。ミューロスの大陸竜、冥獄に誘う語り部ヴェルスさ」
討伐の話になった途端、女子3人もにっこりと笑顔を作った。彼らは一見バラバラのように見えてヴェルス討伐には想いをひとつにしていた。私はそんな彼らに複雑な気持ちを抱いた。
「これは大変だ……」
私は急に辛くなって机の上に視線を落とした。




