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第65話 サブクエストRTA

「でっかい城壁だなあ〜。お金持ってんなあ〜」


 私は目の前にそびえ立つ堅牢な壁を見上げて言った。石組みでできた分厚い城壁は高さ10メートル以上あり、入り口の城門は二本の太い(やぐら)に挟まれた堅牢なものだった。ここはロワルデ大陸の最西端にある都市国家モルドレニアだ。


「さすがは錬金術の街のだね。お金には困ってなさそう。もしかしたらロンテディアより豪華なんじゃない? 錬金術って儲かるんだね」


「そりゃそうだよニーナ。この街には賢者の石があるんだから。金を作ってその価値を決められる唯一の都市なんだもん」


 賢者の石は錬金術で貴金属を生成するためにかかせない素材のひとつだ。それを強みにモルドレニアは金の生産を調整して金価格を決定する地位を持っていた。ロンテディアの国王に臣従しているがこの街の力は絶大だった。


「ところでニーナ。本当に賄賂を使って入国する気なの?」


「そうだよ。そのためにわざわざ半魚人の街へ行って光る鉱石を手に入れたんじゃない」


「でもその情報は確かなの? 本当に上手くいく? 私は心配だなあ……」


「大丈夫。まあ見ていてよ。私の言った通りになるから」


 私がいくら諭してもアウラの表情は浮かないままだった。その理由は彼女がまだこの世界がゲームなのだと理解できていないということもあるけど、そもそも賄賂を渡すことに後ろめたさを感じているのも原因だった。


「さっきも言ったけど、これはゲームの設定だからね。気を使わなくてもいいんだからね」


 私は不安がるアウラを引き連れ城門へ赴いた。するとそこに武装した番兵がふたり、城門の両端に立っているのが見えた。

 私の記憶では確か左に立つ番兵がサブクエストを発生させるキャラで、その番兵に入国を頼み込めば光る鉱石を交渉の材料にしてくるはず。


 とにかく番兵に条件を引き出せればこっちの勝ち。私のその石をリュックのポケットに忍ばせ、目当ての番兵に声をかけた。


「ねえ、番兵さん。私たちモルドレニアに入りたいんだ」


「だめだ。今は入国制限している。ロンテディア王国の結界が破られて、厳重警戒に当たっているのだ。諦めろ」


「そんなこと言わないで何とかならないの?」


「何度も言わせるな」


「ねえ、そんなこと言わないで〜」


「しつこいぞ、あっちへ行け!」


 番兵はまるで犬を追い払うかのように、私たちにしっしと手を振った。ずいぶんな扱いに私は憤慨した。こんなはずじゃなかったと、私は食ってかかる勢いで番兵の顔をまじまじと見た。


「な、何なんだお前は。変な奴だな」


 ヘルメットの隙間から覗いた彼の顔は真面目な堅物といった印象で、初回プレイの時に見た人物とは別人に思えた。


「おかしいなあ。私の記憶ではもっとねちっこい話し方で、いやらしい目つきの男だったような……」


 私の言動に番兵は訝しげな表情を浮かべた。


「ニーナ、あまり無理するとやばいよ」


「でも、このままじゃ入国できないよ」


「番兵さん、困ってるから」


 アウラが私の腕を取って引き下がろうとした時だった。


「交代の時間だ」


 どこからともなく気だるげな声が聞こえた。私たちの前に背が低くて小太りの番兵が現れた。


 私はその男に見てハッとした。そういえばあの時もこんな軽薄な感じだったこと思い出した。

 私たちの顔を見るなり先に立っていた番兵ふたりを他所へやると、男がそれとなく探りを入れてきた。


「なんだお前ら、モルドレニアに入りたいのか?」


「そうなんだよ! どうしても入りたいの!」


 私はうれしくなって思わず声を上ずらせた。私はこの展開を待っていたのだ。男は周りをきょろきょろとして他にひと気がないことを確認したあと、私たちに話を持ちかけてきた。


「どうしてもって言うなら考えてやらないこともない。まあ俺くらいいの立場の人間なら上手くやってやることもできるがな。まあ、それには何だ。あれだ。誠意ってやつが必要だな」


 キタキタこの流れ! やっぱりこいつだったと私は確信した。


「ねえアウラ、私が言った通りでしょ! この人最低でしょ! やばいでしょ! それに息が酒臭いよ!」


「ちょっとニーナ落ち着いて。指差したら失礼だよ……」


 アウラが興奮する私を諌めると彼女は男に尋ねた。


「ところでその誠意って何ですか?」


「ここから東にミンヒウルムという神秘の湖があるんだ。そこで採れる光る鉱石を俺にくれるんなら入国させてやってもいいぞ。まあ簡単じゃないがな」


 私の目の前にメインメニューが開いた。サブグエストを受けるかどうか尋ねていた。

 当然やることは決まっていた。私は間髪入れずサブクエストを受諾すると、サッと光る鉱石を取り出し、勢いよく男の胸に突きつけた。


「はいこれ光る鉱石ドーン!」


「び、びっくりしたぜ。持ってたのかよ」


 目を丸くする男に私はしてやったりの表情だった。再びメインメニューが開くとサブクエスト完了の通知が現れ、ゴールドとジェムが空から落ちて来た。


 サブクエスト受諾から三秒で完了。たぶん最速記録だ。


「おお……、これは本物だな……」


 男は光る鉱石を手に、その淡い光に魅了されていた。


「これで入国させてくれるんだよね」


「ああ、いいぞ、こっちだ……」


 男は入国許可証を私たちに持たせ専用通路に案内してくれた。分厚い壁の中を通り、そこからモルドレニアに入る。


「ね、アウラ、私の言った通りでしょ。しかもサブクエスト最速クリアだよ」


「何で上手くいったんだろう……」


 アウラは怪訝そうに首をかしげる。


「だからこれがゲームの設定なんだよ。この世界はRPGなんだよ」


 有頂天の私にアウラはため息をついていた。まあこの世界がゲームの中だということをいくら説明しても、納得してもらえないことはわかっている。


「でもあの番兵さんあんまりいい感じしなかったね……」


「そう? 私はあの男のゲスい顔を見た時、天使が降りてきたかと思ったよ。あははっ」


 そんなこんなで私たちは分厚い防壁を抜け、モルドレニアに入国した。視界に広がったのは美しく洗練された街並みだった。

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