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第61話 味の基本は出汁にあり

 オイデユスは巨大な湖に浮かぶ水上都市だった。小さな浮島が連なってひとつの街になっていた。

 洞窟は半球のドームの形になっていて高さは100メートル以上。その壁や天井には光る鉱石が一面に埋め込まれ、まるで本物の空のような青さが広がっていた。


 アウラはそんな風変わりな街の景色を物珍しそうに見回していた。


「とても地下空間とは思えないよ」


「そうだね。地上と雰囲気は変わらないね。実際より広く感じるし」


 光る鉱石はうっすらと湖面を反射していた。そのおかげで壁の向こうにも景色が広がっているみたいだった。


「ねえニーナ。どうして湖の水が地下に流れ込まないのかな」


「半魚人は水を操る能力を持っているからね。ミンヒウルムの水源を街の防壁として利用しているんだよ」


 水の底を覗くと海藻がみっちりと生えていた。生きていくために必要な酸素はそれでまかっているようだ。半魚人の技術は私が思っていたより高度だった。


「やるじゃん半魚人ども」


 正直なめていたと私は認めざるを得なかった。


 さっそく浮島に架けられた橋を渡り街に入った。目につくのは貝殻や魚の頭を模した不思議な形の建物で、道には魚顔をした半魚人たちがそそくさと行き交っている。


 何とも奇妙で不思議な世界に私は目移りして仕方なかった。


「街の中心地はどこだろう? あっちかな」


「かもね、行ってみよう」


 アウラの勘を頼りにしばらく歩いていると何とか街のメインストリートに出られた。そこには食べ物屋さんや屋台料理がたくさんあって美味しそうな湯気を立てていた。周りには派手な看板が立ち並んでいて見ているだけでも楽しかった。


「そこのけったいなお二人さん。よかったら食べていってえなあ」「可愛いおねえちゃんたち。味見していってえー」「うちの店が一番やで。食べへんと後悔するでえー」


 お店の半魚人たちが気さくに声をかけてきた。ついさっき門番の半魚人に生き馬の目を抜くとか言われて身構えていたけど、みんな明るくてやさしい半魚人ばかりだった。私はこの街が気に入った。


「ニーナ、私お腹がすいてきちゃったよ」


「そうだね、何か食べてみようか」


 私たちはひときわ派手な看板の店を選んだ。クラーケン焼きと銘打ったその食べ物は、いくつもの半球状にくり抜かれた鉄板の上に生地を流し込み、具を入れて丸く焼いたものだった。店主が器用に生地をひっくり返していた。


「6個入りひとつください」


「あいよ」


 店主が手際よく舟皿に盛りつけていく。あっという間に溢れそうなくらいの大きさになった。ひとつ野球ボールくらいの大きさで、中からクラーケンの大きな身が飛び出ていた。ふたりで分けて食べてもお腹いっぱいになりそう。


「ソースやマヨはお好みでつけて。そのまま食べてもうまいけど」


「そうなんだ」


 こんがりと焼きあがったクラーケン焼きから香ばしい匂いがしていた。


「ただ小麦粉を焼いただけと思ったら大間違いやで。味の基本は出汁にあるんや。昆布ベースの出汁にかつお節や煮干しの出汁を混ぜた合わせ出汁でな、このオイデユスは出汁文化なんや。他の粉もんやうどんにも合わせ出汁が効いてるんやでえ」


「へえー」


 その話を聞いて私たちは何もつけず、そのまま食べてみることにした。身を割ってフーフー息をかけて口に入れる。


「はふっ、はふっ……」「はふっ、はふっ……」


 ふたりで熱さに悶えながら頬張った。出来立ての熱々に苦労したけど、店主の言う通り合わせ出汁が効いていて、あっさりした旨味が口に広がった。クラーケンの身は程よく弾力があって食べ応えがあった。


「うん、美味い!」


 私とアウラは口を揃えて言った。


「ところで、お姉ちゃんたちオイデユスははじめてかい? 観光客にしては、えらいけったいな半魚人やなあと思うて」


「えへへへ……、実は人間です」


「せやろなと思ったわ。顔の辺りがおかしいもん。わざわざそんな半魚人のかっこせんでもええのに。わてら外見で判断するようなことせえへんで」


「そうだね。ここの人たちはみんな気さくで大らかだもんね。だけど大事な用事があって、この姿の方が話が通りやすいと思ったんだよ」


「その用事て何なん?」


 店主が興味深げに尋ねてきた。


「実は光る鉱石を分けてもらいたいんだよ」


「ああそれか。まあここに来る人間はみんなそれ目当てやからなあ」


「どうふれば、手に入ひりまふか?」


 アウラはクラーケン焼きをはふはふしながら尋ねた。


「こればかりはきっちり管理されてるからなあ。お偉いさんに気に入られれば上手くいくかも知れへんけど」


「お偉いさん?」


「そうやで。そのお偉いさんて言うのはな、このオイデユスを開拓した不動産王やねん。それに商いもやってはるんやけど、わてらにとっては神様みたいな半魚人でな。魔物に襲われることもなくオイデユスで平和に暮らせるのはその人のおかげなんや」


「そのお偉いさんの居場所を知りたんだけど」


 私の問いかけに店主はにんまりとして言った。


「あんたらほんまに運がええわ。その人もうすぐここに来るで」


 私たちが目を丸くして驚いたその時だ。ひとりの半魚人が店を訪れた。


「儲かってまっか〜」


 と、景気良く登場した彼はでっぷりとした貫禄ある半漁人だった。私たちは一目見て彼がお偉いさんと噂の不動産王だとわかった。

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