第6話 サブクエスト『タパル村で井戸を掘り当てろ』
私はハロルドに案内されタパル村の中へ入っていった。その途中つましい家が数軒建っているのが見えた。
村は異様に静かで、明るく振る舞うハロルドの声が遠くまで響いていた。私は何故かそこに生活の気配を感じなかった。
「なんだかすごく静かだね。ひと気がまったくないけど……」
「男手はみんな井戸掘りに回っているんだ。他のものは遠くの川まで水を取りに行っている」
「そうなんだ……」
案内された問題の井戸は村の奥まったところにあった。それは石で組み上げた井筒だけの質素なものだった。その周りに男連中が10人いて、みんなで道具を手に穴掘り作業にあたっていた。
「おい、みんな。小さな助っ人がやって来てくれたぞ。彼女はニーナだ。魔法使いさ」
おおーっとどよめきが起きて、男連中が一斉に私に熱い視線を投げかけてきた。魔法使いと紹介されてちょっと気恥ずかしかったけど、村の存亡がかかっているためか期待の大きさがうかがえた。
井戸の辺りは穴ぼこだらけで、3メートルほどの穴がいくつも開いていた。私は驚いてハロルドに尋ねた。
「もしかして、やみくもに穴を掘っていたの?」
「ああ、そうなんだ。とにかく手当たり次第、掘って掘って掘りまくっていたんだ」
「みんなすごい体力だね」
「俺たちは体だけは丈夫だからな」
おじさんたちはにんまりして笑っていた。みんなボディービルダーみたいにムキムキの筋肉がついていた。これだけの作業をこなしたというのに、彼らは汗ひとつかいていなかった。
「それで、ニーナはどうやって水脈を見つけるんだ? 井戸掘りの魔法でもあるのかい?」
「そういうのじゃないの。実は秘策があるんだ。それはダウジングってやつだよ」
「ダウジング?」
ダウジングは金属の棒を使って地中の水脈や鉱石、水晶などを探し出す探査方法だ。このゲームの世界ではダウジングが効果を発揮してくれる。スキルポイントは必要なく、駆け出しの私でもすぐにできる。
「ダウジングの道具ある? こんな感じの、金属の細い棒を直角に曲げたものだよ。それを二本用意してほしいの」
私は身振り手振りで説明した。
「ああ、それくらい簡単なものならすぐに作れるぞ。おい、今の話聞いたか」
ハロルドは近くにいた仲間ふたりに声をかけた。彼はすぐに作って持ってくるよう指示を出していた。どうやらハロルドはこの村を仕切っているようだ。
ふたりが現場をあとにしたかと思うと、そのうちのひとりがすぐに戻ってきた。その男はL字型に曲がった棒を手にしていた。
「へい、アニキ! お待ちどうさまです」
彼はハロルドにダウジングの道具を渡した。
「もうできたの? 何でこんなに仕事が早いのよ」
私はこの村の住人たちの手際の良さにびっくりした。
「これでいいかいニーナ」
「うん、大丈夫だよ」
私はハロルドからダウジングの道具を受け取ると、早速水脈探索に乗り出した。やり方はL字ロッドをそれぞれ両手に持ち、棒の先を水平に保って意識を集中させる。
水脈が見つかればロッドに動きが現れるはずだ。私は慎重にゆっくりと井戸の周辺を探した。
「そんなもので本当に見つかるのかい?」
「見つかるよ。私に任せておいてよ。どばーんと大量の水脈を探し出してやるんだから」
私は自信たっぷりに答えたけど、反応を掴むのはなかなか難しかった。いたずらに時間は過ぎていって、探索もいつの間にか井戸から遠ざかっていった。ゲームならもっと楽にできるけど、実際やるのは厄介だった。
それでも私は諦めるつもりはなかった。はじめてのサブクエストを成功させるんだと、湧き上がる空腹と不安に耐えながら慎重に探索を続けた。
するとある場所にたどり着いた時だった。突然、平行に構えていたロッドが、ふわりと左右に開いた。
「見つけた、ここだよ!」
私はうれしくて大きな声を上げた。それを聞いてハロルドが指示を出した。
「よし!ニーナが水脈を見つけたようだぜ! 全員で作業に取り掛かれ!」
私が示した場所をおじさんたちが一斉に掘りはじめた。すごい勢いで土を掻き出していく。
人間離れした体力に私はちょっと引いていたけど、そんなことはお構いなしに穴はどんどん深くなっていった。
穴の深さがおじさんたちの背丈ほどになった時だった。突然どばーんと盛大に大量の水が吹き上がった。
「やった。大当たりだ!」
私は飛び上がってよろこんだ。ハロルドも他のおじさんたちも歓声を上げた。噴水みたいに湧き上がる水がギャグみたいだけど、これでタパル村は助かるのだ。
「やったねハロルド。大成功だよ」
「ああそうだなニーナ。君は大したもんだよ」
「えへへへ」
私が満足感に浸っていると目の前にメインメニューが開いた。そこにはサブクエスト完了の文字が表示されていた。
すると突然空中からゴールドとジェムが降ってきて、それが私が背負っていたリュックに吸い込まれていった。私の肩にずっしりとした重みを感じた。
獲得経験値は少なかったけど、その分30万ゴールドとジェム20個が手に入った。こんなに報酬がいいのは私が選んだ王女キャラの報酬ステータスが高いからだ。
「はじめてのサブクエストにしては上出来だね。このお金で街でじゃんじゃん買い物ができるよ。うれしいー!」
私が飛び上がらんばかりによろこんでいると、それを見ていたハロルドがありえないことを言い出した。
「ニーナ、そのゴールドとジェムをこっちに寄越すんだ」
一気に不穏な空気が広がった。




