表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/33

第6話 サブクエスト『タパル村で井戸を掘り当てろ』

 私はハロルドに案内されタパル村の中へ入っていった。その途中つましい家が数軒建っているのが見えた。

 村は異様に静かで、明るく振る舞うハロルドの声が遠くまで響いていた。私は何故かそこに生活の気配を感じなかった。


「なんだかすごく静かだね。ひと気がまったくないけど……」


「男手はみんな井戸掘りに回っているんだ。他のものは遠くの川まで水を取りに行っている」


「そうなんだ……」


 案内された問題の井戸は村の奥まったところにあった。それは石で組み上げた井筒だけの質素なものだった。その周りに男連中が10人いて、みんなで道具を手に穴掘り作業にあたっていた。


「おい、みんな。小さな助っ人がやって来てくれたぞ。彼女はニーナだ。魔法使いさ」


 おおーっとどよめきが起きて、男連中が一斉に私に熱い視線を投げかけてきた。魔法使いと紹介されてちょっと気恥ずかしかったけど、村の存亡がかかっているためか期待の大きさがうかがえた。


 井戸の辺りは穴ぼこだらけで、3メートルほどの穴がいくつも開いていた。私は驚いてハロルドに尋ねた。


「もしかして、やみくもに穴を掘っていたの?」 


「ああ、そうなんだ。とにかく手当たり次第、掘って掘って掘りまくっていたんだ」


「みんなすごい体力だね」


「俺たちは体だけは丈夫だからな」


 おじさんたちはにんまりして笑っていた。みんなボディービルダーみたいにムキムキの筋肉がついていた。これだけの作業をこなしたというのに、彼らは汗ひとつかいていなかった。


「それで、ニーナはどうやって水脈を見つけるんだ? 井戸掘りの魔法でもあるのかい?」


「そういうのじゃないの。実は秘策があるんだ。それはダウジングってやつだよ」


「ダウジング?」


 ダウジングは金属の棒を使って地中の水脈や鉱石、水晶などを探し出す探査方法だ。このゲームの世界ではダウジングが効果を発揮してくれる。スキルポイントは必要なく、駆け出しの私でもすぐにできる。


「ダウジングの道具ある? こんな感じの、金属の細い棒を直角に曲げたものだよ。それを二本用意してほしいの」


 私は身振り手振りで説明した。


「ああ、それくらい簡単なものならすぐに作れるぞ。おい、今の話聞いたか」

 

 ハロルドは近くにいた仲間ふたりに声をかけた。彼はすぐに作って持ってくるよう指示を出していた。どうやらハロルドはこの村を仕切っているようだ。


 ふたりが現場をあとにしたかと思うと、そのうちのひとりがすぐに戻ってきた。その男はL字型に曲がった棒を手にしていた。


「へい、アニキ! お待ちどうさまです」


 彼はハロルドにダウジングの道具を渡した。


「もうできたの? 何でこんなに仕事が早いのよ」


 私はこの村の住人たちの手際の良さにびっくりした。


「これでいいかいニーナ」


「うん、大丈夫だよ」


 私はハロルドからダウジングの道具を受け取ると、早速水脈探索に乗り出した。やり方はL字ロッドをそれぞれ両手に持ち、棒の先を水平に保って意識を集中させる。

 水脈が見つかればロッドに動きが現れるはずだ。私は慎重にゆっくりと井戸の周辺を探した。


「そんなもので本当に見つかるのかい?」


「見つかるよ。私に任せておいてよ。どばーんと大量の水脈を探し出してやるんだから」


 私は自信たっぷりに答えたけど、反応を掴むのはなかなか難しかった。いたずらに時間は過ぎていって、探索もいつの間にか井戸から遠ざかっていった。ゲームならもっと楽にできるけど、実際やるのは厄介だった。

 それでも私は諦めるつもりはなかった。はじめてのサブクエストを成功させるんだと、湧き上がる空腹と不安に耐えながら慎重に探索を続けた。


 するとある場所にたどり着いた時だった。突然、平行に構えていたロッドが、ふわりと左右に開いた。


「見つけた、ここだよ!」


 私はうれしくて大きな声を上げた。それを聞いてハロルドが指示を出した。


「よし!ニーナが水脈を見つけたようだぜ! 全員で作業に取り掛かれ!」


 私が示した場所をおじさんたちが一斉に掘りはじめた。すごい勢いで土を掻き出していく。

 人間離れした体力に私はちょっと引いていたけど、そんなことはお構いなしに穴はどんどん深くなっていった。


 穴の深さがおじさんたちの背丈ほどになった時だった。突然どばーんと盛大に大量の水が吹き上がった。


「やった。大当たりだ!」


 私は飛び上がってよろこんだ。ハロルドも他のおじさんたちも歓声を上げた。噴水みたいに湧き上がる水がギャグみたいだけど、これでタパル村は助かるのだ。


「やったねハロルド。大成功だよ」


「ああそうだなニーナ。君は大したもんだよ」


「えへへへ」


 私が満足感に浸っていると目の前にメインメニューが開いた。そこにはサブクエスト完了の文字が表示されていた。

 すると突然空中からゴールドとジェムが降ってきて、それが私が背負っていたリュックに吸い込まれていった。私の肩にずっしりとした重みを感じた。


 獲得経験値は少なかったけど、その分30万ゴールドとジェム20個が手に入った。こんなに報酬がいいのは私が選んだ王女キャラの報酬ステータスが高いからだ。


「はじめてのサブクエストにしては上出来だね。このお金で街でじゃんじゃん買い物ができるよ。うれしいー!」


 私が飛び上がらんばかりによろこんでいると、それを見ていたハロルドがありえないことを言い出した。


「ニーナ、そのゴールドとジェムをこっちに寄越すんだ」


 一気に不穏な空気が広がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ