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第58話 幻像の魔法使い

 ウォルフリックの願いを聞いて私たちは唖然としていた。死という言葉の重みが肩にのしかかってきた。


 なのに私の目の前にメインメニューが浮かび上がって、このサブクエストの依頼を受けるかどうか尋ねてきた。私はとてもふたつ返事とはいかず、ウォルフリックに聞き返した。


「どうしてそんなことを言うの?」


「私の魂を解放してほしいのだよ。この500年の間に私の魂はその魔導書と結びついたのだ。おかげで人ならざるものになってしまった……。お前たちが封印を解き、魔導書の破壊してくれるなら私の役目はそこで終わる。そしてその時、私には安らかな死が訪れる」


「それでいいの? 思い残すことはないの?」


「思い残すことは何もない。国王の命を受けた時から覚悟はできていた。私が手に入れたものは騎士としての誇りだ。私は自分の役目をまっとうできたこと、それだけで満足なのだ」


 ウォルフリックは落ち着いて話していた。魔導書と共に消えるのことが彼にとって本望なのだろう。私は彼の意を汲んでメインメニューでサブクエストを受ける選択をした。


「わかったよ。私たちに任せて」


「引受けてくれてうれしいよ」


 私は手にした魔導書をまじまじと見た。まるで魔導書に幻像の魔法使いの意識が乗り移っているかのようだった。私の破壊の意思を読み取って、淡い光を放ち抵抗の姿勢を示していた。


「ここは俺の出番だな。貸してみな。俺がバラバラに引き裂いてやる」


 ハロルドがしゃしゃり出てくると、私から魔導書を取り上げてしまった。


「俺の怪力なら造作もない」


 と言ってハロルドは無造作に魔導書を開くと、真っ二つに引きちぎろうと力を加えた。だがその瞬間、魔導書から放たれた電撃が彼の体を貫いた。


「はぎゃあぁああああああああああ!!!!」


 ハロルドはもんどりを打って地面に倒れると、ごろごろと転がって苦しんでいた。


「やっぱり魔導書自体に強力な防御魔法がかけられていたんだね」


「そうだ、幻像の魔法使いが魔導書の破壊を恐れ仕掛けた魔法だ」


「知ってるなら先に言えよ!」


「はい、回復薬です」


 ハロルドはアウラから小瓶を受け取ると、ぐいっと一気に飲み干した。


「ねえウォルフリック。私たちがどうしてあの結界を通り抜けてここに来れたのか今わかったよ。その理由は魔導書を破壊できる攻撃力を持っているからなんだね」


「そうだ、お前たちのパーティーの総火力は魔導書の防御力を超えているだろう」


 ウォルフリックの指摘に私はうなずいた。もちろん私やアウラの攻撃力は微々たるもの。その攻撃力を引き上げているのはもちろん、私の頭の上にいる彼だ。


「ヴォルフの力なら魔導書を破壊できるはず」


「キュルルルゥウウウ」


 ウォルフリックが私の頭に乗っていた小さなドラゴンを不思議そうに見つめた。


「私はヴォルフという名のドラゴンは無辺の王しか知らないが……」


「そうだよ彼こそが無辺の王なんだ。今はちっちゃくなってるけど、ヴォルフは山を穿ち、海を干上がらせるほどの破壊力を持つ最強のドラゴンだよ。まあ見ていてよ」


 これからヴォルフの力を使って魔導書を破壊する。部屋の隅にあった石の上に魔導書を置いてスタンバイした。


 幻像の魔法使いは曲者だ。攻撃を加えれば何かを仕掛けてくるかもしれない。このサブクエストは今までとは違い、細心の注意を払う必要があった。


「ヴォルフ、わかっているとは思うけど、あの強力な防御魔法を突破するためにできるだけ攻撃を一点に集中させてほしいんだ」


「キュルルルゥウウウ」


 ヴォルフはやる気満々だった。翼をバタつかせ闘志を燃やしていた。


「じゃあ行くよ。みんなは後ろに下がって」


 ヴォルフが私の頭にしがみついて攻撃態勢を取った。私も吹き飛ばされないよう足を開いて構えた。緊張感が高まる中、私はひとつ大きく息を吐くと、ヴォルフに攻撃の指示を出した。


「これから禁忌の魔導書を破壊する。私たちで500年来の決着をつけよう! 穿て! 無辺の王ヴォルフよ!」


 するとヴォルフが小さな口をぱかっと開け、そこから強力な破壊光線を放った。それが熱風と轟音を撒き散らし魔導書に直撃した。だがその途端、ヴォルフの破壊光線は魔導書の防御結界に弾かれ四散した。


「ああ、攻撃が通じない……。ヴォルフ様でもダメなのか……」


「まだまだ、これからだよ! パワーアップだ、ヴォルフ!!」


「キュルルルゥウウウ!!!!」


 ヴォルフの破壊光線がもう一段強まった。すると魔導書の防御結界がばりばりと音を立てて歪みはじめた。このままいけば結界を打ち破ることができるはず。

 私が手応えを感じていると、魔導書の背後から何やら怪しい黒い影が伸びてきた。


「おいニーナ! 何か出てきたぞ!」


「ウォルフリックさん。あれは何ですか……」


「あれは思念体だ。幻像の魔法使いの分身と言うべきか。あの影に飲み込まれたが最後。2度と外には出られなくなるぞ」


 ヴォルフの破壊光線で浮かび上がった影は人のようで人でなかった。大きく口を開け私たちをあざ笑うかのように壁伝いに広がってきた。その影は私たちを闇に飲み込む勢いで部屋全体を覆い尽くそうとしていた。


「ニーナ、もう後ろの壁まで影が伸びて来たよ!」


「やべえぞ。これじゃあ飲み込まれるぞ!」


 もう時間はなかった。私はここで一気にケリをつける。


「このまま防御結界を突き通すよ! 最後の力を振り絞るんだヴォルフ。行っけー!!」


「キュルルルゥウウウ!!!!」


 ずどーんと最後に放った強攻撃が防御結界を打ち砕いた。そしてついにヴォルフの破壊光線が魔導書のど真ん中を貫いた。


 思念体が金切り声を上げながら、魔導書とともに粉々に砕け散った。破片が青い炎に包まれながら天井から降り注いだ。


「やった! 魔導書を破壊したよ!」


「おお、やってくれたか……」


 バラバラになった魔導書をウォルフリックは感慨深げに見つめていた。


「やったねニーナ!」


「うん!」


 私とアウラは飛び上がってよろこんでいたけど、それも束の間。突然、守護者の間がガタガタと音を立てて揺れはじめた。


「そうだ、お前たち伝えるのを忘れていた。魔導書を破壊した後はこの守護者の間は跡形もなく消え失せるのだ」


「そ、そうなの!?」


 見上げた天井からぱらぱらと小石に混ざって土煙が落ちてきた。次第に揺れが大きくなって、いつ崩れ落ちてもおかしくない状況になっていた。


「こりゃやべえぞニーナ! 早く逃げないと埋まっちまう! アウラもこっちに来い!」


 ハロルドがアウラを抱え私の元に駆け寄って来た。彼は私を軽々と抱え上げると守護者の間から脱出を試みた。

 するとその直後、耐えきれなくなった天井から石の塊が落ちてきた。その中にウォルフリックの姿が見えた。


「ウォルフリック!」


 私は彼に向かって叫んだ。だけどウォルフリックはその場から微動だにしなかった。

 彼は腰につけていた剣を抜くと、まるで勝利を宣言するかのようにそれを高々と掲げた。そして心配する私にウォルフリックは穏やかな笑みを返した。


「ニーナ行くぞ!」


「でも、ウォルフリックが……」


「もう時間がねえ! 脱出するぞ!」


 ハロルドは崩れ落ちる瓦礫を避けながら、私たちを抱えて守護者の間を飛び出した。崩壊は外の通路にまで及んでいて、その中をハロルドは雄叫びを上げながら走った。


「しっかり掴まっとけよ! うらぁあああああああああ!!!!」


 目の前の出口が崩れ落ちようとしていた、まさにその瞬間。ハロルドは体勢を変え滑り込むようにして通路から突破した。振り返ると通路は瓦礫で完全に塞がっていた。


「助かった……」


 私たちは間一髪の脱出劇に生きた心地がしなかった。


「お帰りなさいませ。どうやら守護者に会えたようですね」


 出口で待っていたメドゥヌが仰向けに伸びていた私たちの顔を覗き込んで言った。彼は鎌で口元を隠して、何故かうれしそうにしていた。


「まあ、何とかなったよ……」


 私が半ば放心状態で答えると、メインメニューが開いてサブクエスト完了の文字が表示された。するとゴールドとジェムが空中から降ってきて私のリュックに吸い込まれた。


 何とかサブクエストをこなせてほっとしていたけど、私の心境は複雑だった。


「ウォルフリックさん、成仏できたかなあ……」


 アウラも同じ気持ちだった。


「たぶん、できたんじゃないかな……」


 私の脳裏に最期まで聖騎士であろうとしたウォルフリックの勇姿が浮かんだ。私は彼の魂が解放されたのだと信じてあげたかった。

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