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第54話 チケットを買いましょう

 ヴォルフがダンジョンに同行してくれることになって、私とアウラはほっとしていた。非力なふたりで挑戦するには不安があった。やはりヴォルフの強大な力は頼りになる。

 私たちは再びニザヴァルに戻り、その奥にあるダンジョンへ足を運んだ。


「ここがダンジョンの入り口か」


 切り立った崖のところにダンジョンの入り口があった。その周りには岩肌を削って造った柱の装飾が施されていた。ところどころ崩れていていたけど神秘的な雰囲気がまだ残っていた。


「古代の遺跡か何かかなあ」


 アウラがぽかんと口を開けてアーチ型の入り口を見上げた。思っていたより立派で私もぽかんと口を開けて答えた。


「この装飾は神殿かもしれないね。きっとその文明の重要な場所だったんだろうね」


「それが今ではダンジョンになっているなんて古代の人たちが知ったらどう思うかな」


 決して喜びはしないだろう。神聖な場所が魔物たちの巣窟になっているなんて時の流れは残酷だ。


「ねえニーナ、あそこに何か書いてあるよ」


 アウラが見つけたのは入り口のそばに立っていた看板だった。そこには見たこともない言語で何かが書かれていた。

 他のふたりは読めるようだけど、私にはちんぷんかんぷんだった。しばらく困っていると、メインメニューが目の前に現れて日本語に翻訳してくれた。


「ダンジョンご利用の皆様へ……か」


 それはダンジョンの案内板だった。注意事項が細かく書かれていた。そしてその中にダンジョンには不釣り合いな文言があった。


「入場には要チケット購入って書いてるよ」


 アウラがその案内を見つけた。


「何だよチケットって、遊園地かよ」


 ハロルドが呆れていたけど、ここはフィードラーの縄張りだ。彼はダンジョンを使ってちゃっかり利益を得ていたのだ。どこからか彼の高笑いが聞こえてきそうだった。


 私は注意書きの通りチケット売り場へ行った。そこには古びた小屋が建っていて、料金表には大人9800ゴールド、小人5400ゴールドとなっていた。私は窓口から中にいる人へ声をかけた。


「すみません、大人一枚、小人二枚ください」


「あいよ、20600ゴールドだよ」


 やさしそうなおばちゃんの声がした。私がゴールドを支払うとチケット3枚が窓口から出てきた。


「頑張ってくださいな」


 私は売り場のおばあちゃんからささやかな声援を貰った。


「はいこれ」


 私は仲間のもとに戻ると買ったチケットをみんなに配った。そしてふたたび気合いを入れ直してダンジョンへ向かう。


「じゃあ、行こうか」


 私たちは緊張した面持ちでダンジョンに足を踏み入れた。中は陽の光が届かず真っ暗で、私は持ってきたランタンに火をつけた。

 そのまま奥へ進むと入場ゲートが見えてきて、そこに人が立っているのがわかった。近くまで行くと男が声をかけてきた。


「チケットよこせ、もぎってやる」


 聞き覚えのある声がして私ははっとした。


「あ、あんたは、昨日の……」


 彼は闘技場で私と戦った大鉈の男だった。名前はたしかトロルキーだったはず。昨日とは打って変わって物静かに振舞っていた。


 彼はみんなのチケットを受け取ると、びりっともぎって半券を渡した。


「ここで働いてたの?」


「ああそうだ。ここでもぎりをやってる。ボスからダンジョンの管理も任されている」


 その風貌からは想像できないけど、ちゃんと仕事に就いていたのかと感心した。 


「あのう、ダンジョンの中はどんな感じなんですか? やっぱり危険なんですか?」


 アウラがもぎりの男に尋ねた。


「そりゃダンジョンっていうくらいだ。魔物は出るし、トラップが山ほど仕掛けてある。半端な冒険者はみんな戻ってこれねえ」


「ああ……、やっぱりそうなんですね。戻ってこない人もいるんですね……」


 アウラは顔から血の気が引いていくのがわかった。私は初回のゲームプレイで何度もダンジョンを攻略してきたから勝手がわかるけど、初挑戦のアウラが不安に思うのは無理もない。話のついでに私は疑問に思っていたことを尋ねた。


「どうしてこんな辺鄙な場所にダンジョンがあるの?」


「今は見ての通り砂漠が広がっているが、大昔は肥沃な大地が広がっていたんだ。古代王国があってこの辺りを支配していたのさ。当時はロワルデ大陸でもっとも栄華を誇った文明だったんだが、それが何故か一夜にして滅亡したと言い伝えられている。このダンジョンはその王国の地下神殿ってわけだ」


「ふーん。一夜にして滅んじゃうことなんてあるの?」


「さあな、それが真実かどうかは俺様にもわからん。これはあくまで言い伝えだ」


「それで、ダンジョンは何層まであるの?」


「地下7層までだ。それに深さだけでなく横にも広くて大きいときたもんだ。最下層の奥には守護者がいるって噂があるが、真相はわからない。まだ誰も辿り着いたものはいねえからな」


「難易度は高めには見えないけどなあ……」


 私の見識を疑うかのように、もぎりの男が顔をしかめた。


「なあ、ねえちゃんよ。ダンジョンを甘く見るもんじゃねえぜ。俺様はもぎりを長くやっているからわかるんだ。ここは絶望の入り口だってことがな。耳を澄ませれば聞こえてくるんだ。ダンジョンに入った冒険者たちの悲鳴がな」


「ひいぃ!」


 アウラは持っていた魔法の杖を抱きしめて震え上がった。


「お前ら悪いことは言わん。無理せず早めに引き返してくるのが身のためだぞ」


「全然大丈夫だよ。必ずレアアイテムゲットして帰ってくるからさ」


「まったく冒険者って奴らは本当に頭がイカれてるぜ」


 もぎりの男はふんと鼻を鳴らして呆れていた。


「それにしてもけったいなパーティーだな。魔法使いふたりに、ドラゴンの子ども、そして何だか怪しい男がひとり。俺様はこんなパーティー今まで見たことねえ」


 たしかに、言われてみればそうかもしれない。私たちの雰囲気からはとても冒険者のパーティーには見えないだろう。


「それにあんたは何者なんだ。絶対冒険者じゃないだろ」


 もぎりの男はハロルドを指差した。


「俺かい? 俺は冒険者じゃないぜ。ただのパン屋さんさ」


 ハロルドは親指を立てると、にんまりと白い歯を見せていた。

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