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第53話 ダンジョン挑戦、その準備

 今日はダンジョン挑戦の日だった。私たちはその準備のために、ニザヴァルの街から少しはなれた場所に来ていた。ぶつくさと文句を垂れるハロルドを引き連れて、人目につかない場所を選んだ。


「ニーナ、もういいんじゃない? ここまでくればバレないと思うよ」


「そうだね。もういいかな」


 私は周囲に人がいないことを確認して答えた。そんな私たちにハロルドは怪訝な表情で尋ねた。


「こんな街外れまで来て何する気なんだ? 今日はダンジョンに行くんだろ」


「そのダンジョンに行く前に、ひとつ解決しないといけない問題があってね」


「問題? 何のことだ?」


 ハロルドは見当もつかないといった感じで肩をすくめた。私はそんな彼が聞いて驚くであろうことを告げた。


「ヴォルフをダンジョンに連れて行こうと思っているんだ。彼は戦闘力が段違いだし、いざという時に頼りになるし」


「何考えてんだよお前。あんなでけえ……、いや、大きいお方がダンジョンに入れるわけないだろ」


「だから今からその対策をするんだよ。まあ、見てなさいって」


「対策?」


 困惑するハロルドを横目に、私はいつものように空に手を掲げヴォルフを呼び出した。


「我が元へ出でよ! 無辺の王ヴォルフよ!」


 どかーんと地面に突き刺さるかのようにヴォルフが凄まじい勢いで空から降ってきた。その禍々しく巨体な翼を広げ、鋭い視線で私たちを見下ろしていた。


「お、お久しぶりでございます、ヴォフル様……」


「グルルルゥウウウウ……」


 ハロルドは私たちに取る態度とはまったく違う腰の低さで、ぺこぺこと頭を下げていた。


「魔物の世界も大変なんですね」


 アウラがハロルドを思いやっていた。


「おいニーナ、さっき言ってた対策って、ヴォルフ様に何をする気だよ!」 


「ふふーん、それはね。生活魔法を使うんだよ」


「生活魔法?」


「そう!」


 私は魔導書を取り出すと、ふわりと目の前に浮かべた。私の意思を読み取って、魔導書がページをパラパラとめくっていく。


「ヴォルフの体が大きすぎるんなら、小さくなってもらうしかないでしょ」


「そんな都合のいい魔法があるのかよ?」


「実はこれがあるんだよね〜」


 魔導書がそのページを開いて見せた。そこには旅で使える便利な魔法が書かれてあった。


「ここで使うのはトラベルパッキング魔法だよ。これはその名の通り、旅行かばんの荷物を整理してくれる生活魔法なんだけど、私が目をつけたのはこの魔法の上位モデル。それがトラベルパッキング魔法PROなんだ。これがさらに便利で荷物自体のサイズを小さくしてくれるんだよ」


 私は得意げに説明した。


「まさか、ヴォルフ様をそれで小さくするのか」


「その通り!」


「でもニーナ、ヴォルフは生き物だけど大丈夫なの?」


「心配はいらないよアウラ。その辺はちゃんと下調べしているからね」


 私は魔導書に手をかざして魔法を習得した。私は光の中に包まれ体の奥から力が湧いてくるのがわかった。私は確信を胸にヴォルフと向き合った。


「準備はいい? ヴォルフ」


「グルルルゥウウウウ」


「じゃあ、いくよ!」


 私はここぞとばかりに魔法のステッキを手に取った。別になくても魔法は発動できるけど、あった方が雰囲気が出るので使うことにする。私はヴォルフに向けてステッキをくるくると回して魔法をかけた。


「トラベルパッキング魔法PRO発動。ヴォルフよ、小さくな〜れ!」


 私が魔法を唱えるとステッキの先から放たれた光線がヴォルフの体を包み込んだ。すると山のように大きかったヴォルフの体が、みるみる小さくなっていく。

 みんながその効果に驚いていると、ヴォルフの巨体はあっという間に私が両手で抱えられるくらいまで縮んでしまった。


「やった、大成功だよ!」


「すごいねニーナ。上手くいったね!」


「さすがはPRO仕様。ここまで小さくできるとは」


「キュルルルゥウウウウ」


 ヴォルフも満足そうにしていたけど、すでにあの恐ろしい面影はそこにはなかった。

 この魔法の効果のおかげか、ただ小さくなるだけでなく、見た目も鳴き声もドラゴンの子どもみたいに可愛らしくなっていた。ヴォルフは小さな翼を羽ばたかせると私の頭の上に乗ってきた。


「かわいい!」


 ちびヴォルフのキュートなルックスにアウラはメロメロになっていた。


「いつも私が背中に乗っていたからね。今度は私が乗せる番だね」


「ああ、おいたわしやヴォルフ様……。無辺の王がこんなにニワトリみたいに小さくなられちまって……」


 ハロルドは青い顔をして落ち込んでいた。魔族のトップが人間にいいようにされていては、ショックを受けるのも無理もない。


「これでヴォルフもいっしょにダンジョンに行けるね」


「キュルルルゥウウウウ!」


 ヴォルフは可愛らしくパタパタと翼をばたつかせてよろこんでいた。部下の前でボスとしての体面を保つ気はまったくないようだ。


「まあ、これで万事解決ってわけだな。俺はほとほと疲れたから宿に帰らせてもらうよ……。ダンジョン攻略がんばってな」


 勝手に話を切り上げてその場を立ち去ろうとするハロルドを、私は彼の服を掴んで引き止めた。


「ちょっとどこ行くの? ハロルドもいっしょに来るんだよ」


「どうして俺までダンジョンに行かなきゃならねえんだよ」


「あんたは何かに使えそうだから」


「便利な道具みたいに言うな!」


 ハロルドは眉間にシワを寄せてふてくされていた。

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