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第52話 隻眼の男

 着地したのは闘技場から少し離れた場所だった。ならず者たちの騒ぎがかすかに聞こえていた。

 あの乱闘騒ぎから抜け出させてひとまずは安心だったけど、ハロルドの回転技で私もアウラも目を回していた。まるで洗濯機の中に放り込まれたみたいにもみくちゃで、アウラはハロルドの腕の中で干された洗濯物みたいにぐったりとしていた。


「気持ち悪い……」


「吐きそう……」


 私とアウラは恨めしくハロルドを見る。


「どうだい、すげえだろ。あれは俺の必殺技だ。人間なんて簡単に吹き飛ばせるんだぞ」


 オーガ姿のハロルドはひとりで満足そうだけど、私の方は気持ち悪さと情けなさでがっくりしていた。

 こんな事態になってはダンジョン攻略どころか、この街にいることさえできなくなってしまった。この時のために頑張ってきたというのに、何の成果も得られないとは……。


「もうこの街にはいられねえな。荷物を宿に取りに戻ったら、すぐにここから出たほうがいい。すぐに追手がやってくるぞ」


 そう言ってハロルドが宿の方に足を向けた時だった。私たちの前に男が立ちはだかった。再び緊張が走った。


「騒ぎを起こしたのはお前たちだな」


 男が落ち着いた低い声で言った。


「これからどうするつもりだ」


「ど、どうするって……、すぐに荷物をまとめて出て行くよ……」


 ハロルドに抱えられたままの私はしょんぼりして答えた。すると、男が目を丸くして驚いたかと思うと、豪快に高笑いした。


「うわっははははっ。まったく、こんな無茶苦茶な冒険者ははじめてだ」


 男はオーガを見てもまったく恐れていなかった。それどころか驚きもせず、気さくに話しかけてきた。その肝っ玉の強さに他のならず者にはない威厳を感じた。私もハロルドもその男が普通の人物でないことに気がついた。


「あんたは、もしかして……」


 ハロルドの問いかけに男は黙って頷いた。


「ワシはこの街を取り仕切っている者だ。名はフィードラー。皆ワシのことをボスと呼ぶ」


 彼の顔には縦に大きな傷がついていて失った左目を黒い眼帯で隠していた。歳の割には恰幅が良く、白髪交じり髪をオールバックにまとめていた。


 その雰囲気はまさにボスと呼ばれるにふさわしく貫禄たっぷりで、葉巻を咥え紫煙をくゆらせる姿は様になっていた。


「ずいぶん参っているようだな」


「そりゃそうだよ。こっちは命からがら逃げてきたんだよ。どうしてこの街はどうしようもない、ならず者ばかりなんだよ……」


「この街は身寄りのない曰く付きが集まるからな。王国にも家族にも見捨てられた奴がここにいるんだ。そんなトラの檻に懸賞金がかかった者が入れば、目の色変えて襲ってくるのは当然だ」


 隻眼のボスは、ふんと鼻を鳴らして言った。


「それにお前もお尋ね者じゃねえか」


「私はまじめな冒険者だよ」


「うわっははははっ。ここに集まる者は皆自分が真っ当だと言いよるわい」


 フィードラーはひとり楽しそうだった。何がそんなにおかしいのかわからないけど、大げさに笑う彼の姿が自分の力を誇示しているようにも見えた。


 するとぐったりとしていたアウラが、重い頭を起こして尋ねた。


「あ、あのう……ボスさん。私たちはダンジョンに入りたくてこの街に来たんです……。ボスさんに頼まないとダンジョンには入れないって聞いて……、おえっ」


「そうだったか。ダンジョンに挑みに来たのか。それならば合格だ」


 私はあまりの呆気なさに一瞬何が起きたのかわからなかった。


「本当に許可してくれるの……?」


「ああそうとも。お前は大鉈のトロルキーを倒したのだろう。あいつはこの街で一番強い男だ。そこまで力があるのなら追い返す理由にはならんからな。そもそも闘技場はダンジョンに入りたい輩の試験場でもある。実力のない者をダンジョンに行かせるわけにないかんからな」


 フィードラーは口から煙を吐き出して言った。


「トロルキーを倒したのであればその資格ありだ」


「そういうことだったんだ……」


 蓋を開けてみればどうということはなかった。私たちは知らず知らずのうちにダンジョンの入場審査を受けていたようだ。

 かなりドタバタの展開だったけど、諦めていたダンジョン挑戦のチャンスが向こうから転がり込んできた格好だった。


「だが気を抜くなよ。ダンジョンに入って帰って来ない者も少なくない。準備はできているのか」


「うん、その点は大丈夫だよ」


「ならいい。他の者にはこれ以上騒動にならんように言っておいてやる」


 彼の計らいで私が襲われる心配もなくなった。


「ありがとうフィードラー。助かったよ」


 フィードラーは満足そうににんまりした。私もそんな彼に笑顔を返した。


「よし! これですべて話がまとまったな」


 するとフィードラーは景気づけとばかりに怪気炎を上げた。


「ようこそならず者の街ニザヴァルへ。冒険者たちよ、気の済むまで地獄を味わうがいい!」


 うわっははははっ、とフィードラーは高笑いをしながら、私たちを迎え入れてくれた。

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