第50話 闘技場の決闘
ボスの名前はフィードラー。彼はニザヴァルを支配し、ならず者たちの頂点に立つ人物だった。ハロルドによるとフィードラーはめったに姿を現さないという。
彼に関する情報はこれだけ。他に手がかりはなく街の中を探り回るしかなかった。でもその甲斐あって私たちはボスがいるかもしれない場所を掴んだ。そこはならず者たちが集まる闘技場だった。
「ねえハロルド、ここが闘技場なの?」
大きさは小学校の体育館くらいだった。アーチ形の屋根をした木造の建物だった。
「ああそうだ。ここで毎日試合をしているんだ」
「闘技場って剣闘士が戦い合うんですよね。この街にそんな人物がいるんですか?」
「剣闘士なんて立派な奴はいねえよ。ならず者同士のやり合いさ。勝てば賞金がもらえて、観客の方は賭けができる」
「ふーん、なるほど。当然闘技場を取り仕切ってるのはボスってことだよね。彼がここに現れてもおかしくないってことか」
「そういうことだ」
早速私たちは闘技場に足を踏み入れた。すでに試合ははじまっていて男二人が武器を手に戦っていた。
ハゲ頭の男は大鉈を振るい、もう一方は仮面姿でフレイルという打撃武器で戦っていた。互いに盾で攻撃をかわしながら、激しい死闘を繰り広げていた。
その一挙手に興奮する観客たちが罵声にも似た声を飛ばしていた。それがまるで地鳴りのように闘技場を揺らしていた。
「すごい熱気だね」
「私はちょっと怖いよ……」
アウラは闘技場の雰囲気に飲まれているようだ。金がかかっているからか観客はみんな目を血走らせていた。
観客席は二階にもあって小さなフィールドを取り囲んでいた。その距離は手を伸ばせば届いてしまうほど近くて、満員の観客は身を乗り出して熱狂していた。
「ねえ、ハロルドさん。この闘技場のどこかにボスはいますか?」
「ざっと見た感じじゃあ、それらしい人物はいねえな」
「この大勢の中から見つけるのは大変ですね……」
アウラとハロルドはボスの捜索をはじめていたけど、私の方はボスそっちのけで試合に夢中になっていた。これはゲーマーの性だった。勝負事には目がなかった。
私は無意識に観客を押しのけて一番前に陣取ると、その戦いを熱く見守った。
「勝つのはあの大男かな」
私は大鉈の男の勝利を予想した。彼は手数が多く優位に思えた。大鉈の男は防戦一方の相手を次第に追いつめていった。
しばらくして白熱した試合は私の予想どおり大鉈の男が勝利した。闘技場に歓喜と落胆の声が響いていた。
「さあ、次にこの男に勝負する奴はいねえか! 勝てば賞金がたんまり出るぞ! 武器は何でもいい! 好きなものを使え!」
胴元らしき男がしきりに観客を煽っていた。私はその声に吸い寄せられるように手すりを乗り越えフィールドに入った。
「ちょ、ちょっと、ニーナ何してるの!」
「マジかよ。あいつ気でも狂ったか!」
心配するふたりをよそに、私は武器が置いてあった場所に赴いた。そこにあったバックラーと呼ばれる丸い盾を手に、しげしげと品定めしていた。すると胴元の男が私に声をかけてきた。
「あんたが本気なら俺は歓迎するぜ。だが魔法を使うのは反則だ。ここは武技だけの闘技場だからな」
「うん、わかってるよ」
「いや、わかってねえだろニーナ! お前剣なんて使えるのかよ!」
呆れ顔のハロルドに私は振り向いて言った。
「私は冬の間、厳しい試練を乗り越えて来たんだ。そのおかげで体も精神も仕上がってるんだよ。ゲーマーの血が騒ぐんだ」
「アウラ、あいつが言う試練て何のことだ?」
「それはたぶん……、ダイエットの話だと思うんですけど……」
「何だそりゃ、あいつ頭おかしいんじゃないの?」
ハロルドは頬を引きつらせて頭を抱えていた。
「とにかく私は一度はこういうの経験してみたかったんだ。せっかくゲームの世界に来たんだから楽しまないともったいないでしょ」
私はバックラーを左手に構え、ショートソードを手に取った。その剣は軽くて私にも簡単に扱えた。
「準備はできたみたいだな。じゃあ早速試合開始といこうか」
場内に大きな歓声が上がった。皆興奮して殺気立っているのがわかった。私に声援を送る人もいたけど、会場のほとんどの観客は大男に賭けていた。
私は試合相手の男と向かい合った。ふたりの体格差は歴然で、見た目には象と蟻といったところだろうか。
「おいおい、こんなおチビちゃんと試合かよ。なめられたもんだぜ」
男は下卑た笑みを浮かべ皮肉めいて言った。
「無駄口叩いてないで、自分の心配をしたらどう? 地面に崩れ落ちるのはあんたの方なんだから」
私は相手の挑発を何でもないような口ぶりで言い返した。
「何だこのクソガキ! 調子に乗ってんじゃねえぞ。てめえなんざ俺様がバラバラにしてくれるわ。その細い腕も足ももぎってやる! 耳も鼻も目も口も、もげるところ全部もぎってやる!」
試合開始の銅鑼が鳴った。歓声が一段と大きく上がった。私は剣を構え戦闘態勢に入った。
「さあ、かかってきなよ!」
「この野郎! イキがりやがって! ハエのように叩き潰してくれるわ!」
興奮した男が唸り声を上げた。そして怒りにまかせ、私の頭にめがけて大鉈を振り下ろした。




