第46話 謎の対決
「はぎゃぁああああああああああ!!!!」
私は叫び声を上げながらコテージを飛び出した。雪が積もる庭をスポーツブラにスパッツという出で立ちで走っていた。
「良いよその調子! がんばれニーナ!」
アウラが嬉しそうに私に手を振って声援を送る。
「何で走らされているの私!? 体が勝手に動くんですけど!!」
私はアウラの魔法にされるがままだった。抵抗しようにも体はまったく言うことを聞かなかった。まさかこんなオーソドックスな手を使ってくるとは……。
「これは私が考案したスパルタ式ダイエット魔法だよ」
と、アウラはいつになく得意げだ。
「筋トレ魔法はもとより、運動会魔法や、一夜漬け魔法なんかも組み合わせて苦労の末に作ったんだから。これは一ヶ月で結果を出す最強の短期集中ダイエット魔法だよ」
「○イザップかよ!」
私は早々弱音を吐いた。1カ月もこんなことをさせられるなんて正気の沙汰ではなかった。
「こんなの拷問だよ! 体が壊れちゃうよ! 寒い、ツラい、お腹すいた!」
「がんばってねニーナ。私も心を鬼にして応援してるんだから。きっと春になれば鋼の精神と身体を手に入れることができるよ!」
「アウラのやつ、他人事だと思って能天気なことを……」
ランニングの後は腕立て伏せや腹筋運動、それにスクワッドまでさせられた。体はボロボロで立ち上がることもできなかった。
「許してくだせえ……、許してくだせえ、アウラ様……」
私は這いつくばってアウラの足にしがみついた。
「もう無理です。本当に立ち上がれません。どうかご慈悲を……」
「じゃあ、これ飲んで」
アウラから受け取ったのはノーマンがくれた回復薬だった。私は小瓶の蓋を剥ぎ取ると、貪るようにして飲み干した。
するとすぐに効果が現れて、全身を覆っていた痛みと疲労から解放された。私は感動のあまり涙目になって言った。
「ああ、楽になった。すごい、すごい効き目だよ、これ! ノーマンに感謝だよ。さっきまでの苦痛が嘘みたいに消えたよ!」
「この回復薬があれば、一日中トレーニングできるね。じゃあ、もう1セットやろうか」
「地獄か!!!!」
その後もアウラのスパルタ式ダイエットは夕方まで続いた。何とかハードワークをこなしコテージに戻ると、私はテーブルの上に突っ伏した。
「どうだったニーナ? 結構効果ありそうじゃない?」
「どうだったじゃないよ。こんなの魔法の暴力だ。訴えてやる!」
「まだ初日だよ。これから毎日特訓するんだから。春が来るまでにニーナを元に戻さないとね」
「ぬぐぐぐぐぅ……」
私はアウラを恨めしく睨みつけた。
「そんなに怒らないでよ。これもニーナのためなんだから。まあ初日は大変だったかもしれないけど、がんばったご褒美にちゃんと夕食を用意してあるんだから。それで機嫌直して」
ご褒美と聞いて私は一気に晴れやかな気分になった。私にとって今は何よりも空腹を満たすことが一番だった。
「ああ、アウラ、そんなの用意してくれてたんだ。私ずっとお腹空いてたんだよ。早く食べさせて……」
「はいはい、ちょっと待っててね」
アウラが席を立ちキッチンに入った。手際よく夕食の準備をしてくれた。私が期待に胸を膨らませて待っていると、アウラは小さな紙の箱を持ってきた。蓋を開けると中には美味しそうなサンドウィッチが入っていた。
「うわぁ、すごい! これ玉子カツサンドだ!」
それは厚焼き玉子をからっと揚げてサンドウィッチにしたものだった。その黄金に輝く玉子焼きに私は身を震わせて興奮した。鼻を近づけると甘味ソースの風味が香ってきた。
「街に買い物に行った時に美味しそうなお店を見つけたの。食べようと思って買ってきたんだ」
「わーい。ご馳走だ、わーい」
私は子どものように大喜びしていたけど、アウラは別の皿を私の前に差し出した。
「ニーナはこっちね」
目の前に現れたのは緑色のゴツゴツした野菜だった。そこからふんわりと湯気が立っていた。
「何で私のは蒸したブロッコリーなんだよ!!」
私はテーブルを叩いて抗議した。
「えっ、カリフラワーの方がよかった?」
「そういう問題じゃねえよ!!!!」
私は今にもアウラに飛びからんばかりに怒り狂った。
「ニーナは知らないかもしれないけど、ブロッコリーは栄養価が高いし、ダイエット効果も期待できるんだよ」
アウラは私に目もくれず、玉子カツサンドを口に運んだ。
「自分だけ美味そうなもの食いやがって!!!!」
「だって私は節制必要ないもん」
「鬼、鬼、鬼ババア!!!!」
ついに私の怒りは頂点に達した。テーブルを叩きながらアウラに悪態を吐ついた。するとアウラは顔色ひとつ変えず、私からブロッコリーを取り上げてしまった。
「食べないなら下げちゃうからね」
あまりにそっけない態度に私は何も言えず面食らってしまった。そして何もなくなったテーブルを見て、猛烈な無力感に襲われた。私には何の選択肢も決定権も与えられえていないのだ。
「ああ、待ってアウラ……。持って行かないで、食べる。食べるから……」
空腹には抗えず、振り上げた拳を下さざるを得なかった私は、目の前に再び現れたブロッコリーを虚しく見つめていた。何故かそうしているだけなのに、私の目からぽろりと涙が溢れた。
私はおもむろにブロッコリーを手に取ると、豚のように鼻を鳴らしながらそれに噛り付いた。悲しさと情けなさとひもじさをいっしょくたにして、ただ一心不乱に噛り付いていた。
アウラのスパルタ式ダイエットがはじまって約一ヶ月。季節はすっかり春めいていた。
そんな中、私はひとり姿見の前に立っていた。鏡に映る自分の体に見惚れていた。
「いいんじゃない?」
私は引き締まったボディーラインを取り戻していた。このビフォーアフターは鮮烈で、私はまるでスポットライトを浴びながら、回転するお立ち台に立っているような気分だった。
「これで胸張ってダンジョンに行けるわ」
生まれ変わった私は本物の自信を手に入れていた。そしてダンジョン攻略に向け、静かに闘志を燃やしていた。




