第43話 元王女とドラゴン
ヴォルフから飛び降り、無事着地した私たちは温泉街ユトラツを訪れていた。
ここは秘境とも言える山奥にあって、辺りはすっかり雪化粧していた。まさに大自然に囲まれた温泉郷といった趣きがあった。
私たちは良い宿を取ろうと街を散策しながら探した。その途中温泉だんごや、温泉コロッケ、温泉ソフトクリームを味わったり、足湯に浸かったりして楽しんでいた。
そしてようやく見つけた私たちの宿は、少し山手の方にあるコテージだった。そこは宿の近くに専用の露天風呂があって、それが決め手になった。
宿には必要なものがすべて揃っていて長期滞在でも問題なさそう。部屋の暖炉の火が私たちを暖かく迎え入れてくれた。
「素敵。いい部屋が取れてよかったね、ニーナ」
「そうだね。私も気に入ったよ。これならずっとここで暮らしてもいいくらい」
「冬を越えたらダンジョンに挑戦なんだね」
「そうだよアウラ。レアアイテム獲得に向けてここで英気を養うのだよ」
私たちはむふふっと含み笑いして、お互いに目配せした。これからどうするのかは決まっていた。
「ではさっそく参りますか、アウラさん」
「そうですねニーナさん」
ふたりで息を合わせて拳を突き上げた。
「露天風呂にレッツ・ゴー!!!!」
私たちはよろこび勇んでコテージを飛び出した。向かうのはすぐそばにあった露天風呂だった。そそくさと服を脱いで風呂場へ向かうと湯は森の中だった。
そこは山の斜面から突き出すようになっていてユトラツの街並みが一望できた。すっぽんぽんになった私たちはその絶景の前にしばし目を奪われていた。
「おおぉ、最高のロケーションだね」
広々とした湯船がもくもくと湯けむりをくゆらせていた。足先を湯につけるとぴりぴりとした感覚がした。
すこし熱めの温度だったけど、湯に肩まで浸かると、その気持ちよさに思わず声が出た。
「ふはぁああああ……」
乳白色のにごり湯に旅の疲れが一気に溶けていくようだった。この旅で最高の瞬間、いや人生で最高というべきか……。
森に囲まれた抜群の開放感と、温泉街ユトラツの美しい眺望に、私たちは心も体も癒されていた。
しばし湯を楽しんでいると、アウラが妙なことを言い出した。
「ねえニーナ」
「何?」
「私ね、ずっと気になっていたことがあるんだ」
「気になってたことって?」
「それはね、この旅がすごく大きな意味を持っているんじゃないかなって」
突然アウラの口から飛び出した壮大なテーマに、私は思わず吹き出した。
「あはは、急に真面目な顔してどうしたの。私は意味なんて考えたことはないよ。この旅がのんびりできればそれでいいんだ」
私はそう答えて話を終わらせたつもりだったけど、アウラは物足りないようだ。
「ねえ、ちゃんと考えてみてよ。だっておかしいでしょ? ニーナとヴォルフがいっしょに仲良く旅をしてるんだよ。ロンテディア王国の王女と魔物の頂点に立つ大陸竜だよ。これって世界がひっくり返るようなことなんだから」
「まあ、たしかに……」
「だから私にはこの旅が、世界を変えちゃうくらい大きな意味があると思っているんだよ。もしかしたら実現するんじゃないかって……。人と魔物が仲良く暮らす平和な世界が」
いつになく熱く語るアウラは真剣な表情で私に迫ってきた。でも私には正直迷惑な話だった。私はそんな厄介な仕事を背負いたくなかった。
それに私の今の身分は元王女だ。ドラゴンを仲間にするちょっと変わったただの一般人。ヴォルフの力を使って世界を変えようなんて、そんな大それた事を考えていなかった。
「ちょっと、私にそんな責任を負わせないでよ。この旅は私にとってはただの暇つぶしなんだから」
「でもそんな世界になったらもっとのんびりできるんだよ」
「やだ、やだ。私に使命とか役目とか持ってこないで。せっかく面倒な現実世界から逃げてこられたのに、そんな仕事を背負わされたらたまったもんじゃないよ。もし、それ以上私に言ったら……」
私は湯船に浮かぶアウラの胸に狙いをつけた。
「えっ、何?」
「なかなか良いものをお持ちですな、アウラさん」
「ちょっと、やだ。ニーナったら、変なことしないで……」
私はにししっと不敵な笑みを浮かべアウラに襲いかかった。後ろから抱きついてむんずと胸を揉み上げた。アウラの細い体には不釣り合いなほど大きかった。
「もしやこれは、まごう事なきレアアイテムではないか」
「やだ、だめ、やめてニーナっ! ちょっ、んはっ、んんっ、あああああ〜っ!」
アウラは湯船の中でばしゃばしゃと足をばたつかせて暴れていた。私はその反応がおかしくて仕方なかった。
しばらくふたりでじゃれ合っていると、右側にあった高い壁の向こうから人の声が聞こえてきた。
男湯からしたその声に、私たちははっとして動きを止めた。
「良い景色じゃねえか。大当たりだな」




