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第42話 いざ温泉郷へ

 私たちは心霊スポット・モエニフから旅立った。ヴォルフの背中に乗り空へと舞い上がった。

 私は妖しげなモエニフの街並みとノーマンがいたキエトの森に別れを告げながら、この旅の思い出に浸り満足げでいたけど、アウラの方は私に冷たい視線を向けていた。


「私に何か言いたいことがあるの?」


「うん、あるよ。ニーナがノーマンさんに話していたことだよ」


「私が何か変なこと言ったかな? 思い当たる節がないんだけど」


「シュランゲを倒したって話だよ」


 アウラはじとっとした目で私を見つめた。


「ああ、その話ね。アウラには話してなかったかなあ。実はそうなんだよ。私はシュランゲを倒したんだ。って言うより、すべての大陸竜を倒しこの世界を魔物から奪い返したんだよ。そして手に入れたドラゴンの心臓で私は再びこの世界に転生したのだ」


「ニーナも何かの呪いにかけられているんじゃ……」


「違いうわい! これ事実だから! 本当の話だから! そんなイタい人を見るような目で私を見ないでよ!」


 私の悲痛な叫び声はむなしく虚空に消えていった。どうせ何を言っても理解されないことはわかっていた。だから最近の私はこの件に関して半ばやけくそになっていた。


「でもノーマンさんすごくよろこんでくれてよかったね」


「そうだね。まさか誰もドラゴンの鱗が手に入るなんて思わないものね」


「一時はどうなることかと思ったけど……」


「まあ、終わり良ければすべて良しだよ。その証拠にノーマンからお土産をたっぷりもらえたしね」


 私はノーマンからもらった袋を掲げた。中には小瓶に入った回復薬がたくさん入っていた。これがあれば体力やMPの回復、毒をもらったときの解毒にも使える。ノーマンの薬の知識は薬剤師並みだった。


「もう必要ないって言って押し付けられた気もするけど」


「まあね。でもこっちとしてはありがたいことだよ。これだけ回復薬があればダンジョンに行けるしね」


 私はひそかにダンジョン攻略を狙っていた。このロワルデ大陸にある初級のダンジョンなら私たちでも挑戦できる。きっとそこにはスリルとお宝が私を待ってくれているはず。


「ニーナが行きたいダンジョンには何があるの?」


「実は私もわからないんだ。行ってみて確かめたいんだよ。そのダンジョンの奥深くにものすごく貴重なアイテムがあるって話を聞いたんだ」


「ニーナは根っからの冒険者だね」


 胸を踊らせる私にアウラは呆れ顔で言った。


「そのダンジョン攻略のためにも万全の準備を整えて冬を越さないとね」


「そうだね、もう冬だもんね」


 私の体に当たる風はすでに冷たくなっていて、冬の到来を肌で感じさせた。もうすぐロワルデ大陸は雪に覆われる。そうなる前に手を打っておかなければならなかった。


「それで、どうやって冬を越すつもりなの?」


「ユトラツに行こうと思うんだ。こじんまりした街だけど雰囲気もいいし、温泉もあるんだよ。そこでのんびり過ごしながら冬を越すの」


「へえ、いいね。それは楽しみ!」


 温泉街ユトラツは有名な観光スポットだった。大小様々な趣向を凝らした温泉施設があって料理もおいしいと評判だった。高レベル冒険者やお忍びでセレブリティーが来ると言われていて、私も一度訪れてみたかった。


 ヴォルフは北に進路を取ると、その大きな翼を力強く羽ばたかせた。するとあっという間に景色が一面銀世界に変わり、荒涼とした山々が連なるその先に湯けむりが上がっているのが見えた。


「あれが温泉街ユトラツだよ」


 山間にできた街の真ん中には湖のような巨大な露天風呂あって、その周りに宿が建ち並んでいた。

 それ以外にもところどころに乳白色の湯があって、まさに温泉郷といった趣きがあった。冬を越すためこの街で約3ヶ月間の滞在を予定していた。


「じゃあ行こうかアウラ」


「うん」


 私はおもむろにアウラの体を抱え上げた。彼女は最初ぽかんとして私にされるがままだったけど、事態を飲み込めず怪訝な表情を作った。


「何? これはどういうこと? どうしてニーナが私をお姫様抱っこしてるの?」


「どうしてって、今から飛び降りるんだよ」


「何で!?」


「だってヴォルフを街に下すわけにはいかないもん。街がパニックになっちゃうでしょ」


「いや、それなら街の外れに降りてそこから歩けばいいじゃない……」


「こんな雪深い道を歩くなんて面倒でしょ。いっそ飛び降りた方が早いもん。それに私には落下耐性がついているから、心配なんていらないよ」


 顔を真っ青にするアウラに有無を言わせず、私は着地地点に目星をつけた。


「ヴォルフとはしばしのお別れになるね。ちょっと寂しい気もするけど、次に会う時まで我慢するよ。ヴォルフもそれまで元気でいてね」


「グルルルゥウウウウ」


「ちょ、ちょっと待って! 勝手に話を進めないで。私はまだ心の準備が!」


「じゃあ行くよ! それ〜!」


 私はアウラを抱えヴォルフの背中から飛び出した。すると風切音に混じってアウラの悲鳴がこだました。


「はぎゃぁあああああああああああ!!!!」


 私たちは吸い込まれるように着地点に目掛けて落ちていった。 

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