第40話 遅れて登場
私は戸惑うノーマンを小屋から引っ張り出すと、彼を森の中の開けた場所に連れていった。私とアウラはどうすべきなのかわかっていたけど、ノーマンはまだ信じられない様子だった。
「いったい何を考えているんだ……。本当にドラゴンの鱗が手に入るというのかい?」
「そうだよ、その通り」
「私の説明不足だったなら謝るよ。鱗の件は小型のワイバーンやヴイーヴルじゃなくて、大陸竜に限った話なんだよ。ドラゴンを召喚しても無駄だよ」
「ちゃんとわかってるよ。別に召喚するわけじゃ無いんだ。ドラゴンは私たちのパーティーメンバーになっているんだから」
「ドラゴンが仲間? 申し訳ないが君たちのステータスを見てもレベル1と3じゃあとてもそんなことができるとは思えないんだが……」
「ふふーん」
と不敵な笑みを返す私は、内心ノーマンの驚く顔を想像して楽しんでいた。きっとヴォルフが現れたら、彼はびっくりしすぎて腰を抜かしてしまうかもしれない。
そうなればせっかくのイケメンも台無しだけど、それを見てみたいというノーマンへの歪んだ愛情を私は抑えることができなかった。
しばらくしてちょうどいい具合に開けた場所に着いた。私はここでヴォルフを呼ぶことにした。
「じゃあ早速呼び出すね」
「ああ、どうとでもしてくれ」
半ば呆れた様子で肩をすくめるノーマンを尻目に、私はいつものように空へ腕を伸ばしヴォルフを呼んだ。
「我が元へ出でよ! 無辺の王ヴォルフよ!!」
私は胸を張り得意げにヴォルフの登場を待っていた。けど何故か一向に現れる気配はなかった。
「あれ? あれれ?」
「あっはっはっは。これは傑作だな。まさか無辺の王を呼ぼうとしたのかい?」
ノーマンは腹を抱えて大笑いしていた。
「なななな、何でだろう……。ヴォルフが来ない。お、おかしいなあ……」
盛大にスベった私は顔から火が出そうな勢いで、自分でも赤面しているのがわかった。そんな不憫な私を見兼ねてアウラが私に耳打ちした。
「ねえ、ニーナ。もしかしたらヴォルフは私たちを見失ったんじゃないかな」
「ど、どうしてそんなことに……?」
「だって私たちはこの森にランダムテレボートで来たんだよ」
「そうだった!」
私ははっとして思い出した。そのランダムテレポートはアウラのウィンドウジャベリンを避けようとして使った魔法だった。
その間ずっと昼寝をしていたヴォルフは、私たちが姿を消したことを知らないだろう。もしかしたら彼は今頃私たちを探し回っているのかもしれない。
「どうしたんだいニーナ。ドラゴンはどこにも見当たらないが」
「あ、あのう……。ちょっと諸事情があって、ヴォルフは遅れて到着する見込みです」
私は苦し紛れの言い訳をすると、ノーマンはまた大笑いした。
「あっはっはっは。これも傑作だな。私は子どものいたずらには寛容な方だが、あまり大人をからかうものじゃ無いよ」
「いたずらじゃないもん。本当にヴォルフは来るもん」
私はノーマンに小学生扱いされ、口を尖らせて抗議した。
「ああ、そうだ思い出したよニーナ。君たちが食人植物に襲われる前に採っていたキノコのことなんだが、あれは全部毒があって食べると死——」
突然ノーマンの言葉を遮って空から黒い物体が降ってきた。それはまるで爆弾が炸裂したかのような衝撃で、ドーンと凄まじい轟音とともに舞い上がった土煙の中からヴォルフが姿を現した。
「ヴォルフ! 来てくれたんだね!!」
私はヴォルフの体にしがみついて、ぴょんぴょんと飛び上がって喜んだ。ヴォルフの方は柄にもなく焦っていて、ぜえぜえと息を切らせていた。
「ごめんねヴォルフ。何も言わすに消えたから、ずっと探してたんでしょ」
「グルルルゥウウウウ……」
ヴォルフは両手に私とアウラの荷物を抱えていた。私は何から何まで申し訳ない感じがした。
「誤解しないでねノーマン。いつものヴォルフはちゃんとかっこよく登場してくれるんだよ。今回はたまたま上手くいかなかっただけだから勘違いしないでね」
私はヴォルフの面子を保とうと必死だったけど、ノーマンは態度を豹変させた。
「そんなこと、どうでもいい!!!!」
ノーマンの怒声が辺りに響いた。彼は武器を手に戦闘態勢に入っていた。




