第4話 最強の仲間
ヴォルフに睨みつけられ、私は恐怖でカチコチに固まっていた。その圧倒的な威圧感に、私の体から血の気が引いていくのがわかった。
どうしてこんな初級のエリアにヴォルフが出てきたのか。彼は裏世界にいる無辺の王のはずだ。もしかして私がゲームの世界に入り込んだのを知って、敵討ちにでも来たのかもしれない。私は恐る恐る尋ねた。
「も、もしかして、私のことを恨んでいますか……」
「グルルルゥウウウウ」
まるで地を這うような声だった。それは鼻息ひとつで私を吹き飛ばせるほどの強靭な肉体から響いていた。
その皮膚は鋼のような硬い鱗で覆われ、背中には空を遮るほどの大きな翼が生えていた。これはゲームとは違う本物のドラゴンだった。琥珀のような黄褐色の瞳に生命力が宿っていた。
「おおおお、おしっこちびりそうです……。ごごごご、ごめんなさい……」
私の恐怖は限界点に達していた。絶体絶命のピンチに死を覚悟した。所詮私はふつうの女の子。ゲームとは言え魔物が棲む世界で生きていこうなんて無謀なことだったのだ。そんな後悔が頭を過ぎった時だった。
私とヴォルフの間にパネルのようなものが浮かんで現れた。それはウィザード・オブ・ロンテディアのゲームと同じメニュー画面だった。
「何これ、どういうこと?」
私は呆気に取られつつメニュー画面に映っていたパーティーの表示を見た。すると私のプレイヤーキャラの隣にヴォルフの姿があった。
「ヴォルフがパーティーメンバーに入ってる……。もしかして、レジェンダリーアイテムっていうのは、ヴォルフのことだったの!?」
「グルルルゥウウウウ」
何ということだろう。ラスボスである無辺の王がパーティーメンバーになっているなんて……。
私は驚きを通り越して信じられない気持ちだった。何度確認しても間違いなかった。私は思いも寄らず最強の仲間を手にしていたのだ。
「何だよ、だったら先に言ってよ〜、もう! こっちは生きた心地がしなかったんだから〜。すっごく怖かったんだからね」
安心した私は馴れ馴れしくヴォルフの体をバシバシっと叩いた。ヴォルフの表情も心なしか穏やかに見えた。
ふたたびメニュー画面に目を移してヴォルフのステータスを確認した。そこには見たこともない数値が並んでいた。
攻撃力に防御力、生命力や魔法耐性はおろか、素早さや知能、精神力に運。どれを取っても数値は異常に高かった。
「冒険者レベル15か……。さすが魔物界の頂点にいるだけあるね」
「グルルルゥウウウウ」
ヴォルフは小さく頷いて応えた。彼はちゃんと私の気持ちを理解しているようだ。言葉を交わさなくても私の真意を読み取っていた。
「ヴォルフが一緒ならもう怖いものなんてないよ。君はこの世界で一番強いんだもんね!」
私はヴォルフの体に抱きついて子どものようにはしゃいだ。さっきまであんなに怖がっていたのが嘘のように安心感に包まれていた。そんな私は調子に乗ってあることを思いついた。
「そういえば、ヴォルフは必殺技を持っていたよね。口から火の玉出すやつ」
「グルルルゥウウウウ」
ヴォルフの攻撃力は山を穿ち、海を干上がらせるほどの破壊力を持つと言われていた。火の玉は彼が持つ技のひとつだった。私は実際にこの目で見てみたかった。
「ねえヴォルフ。私たちの新たな旅の門出を祝して、ここで一発ぶちかましてみてよ」
私の望みを聞いてヴォルフはゆっくりと長い首をもたげた。彼の視線が遠く連なる山々にそそがれていた。
ヴォルフはその中の最も高い頂に目標を定めると、ぐわっと大きく口を開け、その中に火の玉を作った。それが次第に熱炎を帯びていき、バチバチと電撃を放っていた。
「よーし、ヴォルフ。君の力を見せてくれ!」
私の合図でヴォルフが火球を放った。まるで砲弾のようなスピードで山の頂に飛んでいった。
しばらくの静寂のあと、大きな火柱が上がったかと思うと、そこに生じた衝撃波が雲を押しのけ、森を揺らし、私たちのいる場所にどーんと大きな爆発音を轟かせた。
「うわぁあああああ……。やばい、山が削れちゃったよぉ……」
ヴォルフの攻撃で空一面真っ赤に染まっていた。もくもくと巨大な黒煙が立ち上っている。その力はこの世界を消し飛ばすほどの圧倒的な破壊力を秘めていた。
異境を束ねし無辺の王ヴォルフ……。彼はまさにこの世界を支配している最強のドラゴンだった。
「勝ったな……」
私はおもむろに拳を空へ突き上げた。まだ何もはじまっていないというのに、私は勝利を確信していた。




