第37話 森の中
気づいた時には私は全く別の場所にいた。そこは辺り一面鬱蒼と生い茂る森の中だった。私のすぐそばにアウラがいて、私と同じようにきょろきょろ周りを見回していた。
どうやら私が放ったランダムテレポートが成功したようだ。アウラに怪我はなく私はほっと胸を撫で下ろした。
「ごめんねニーナ。私のせいでこんなことになっちゃって……」
「いいよ。気にしないで。でも本当にギリギリだったね」
まさかヴォルフの攻撃反射を食らうとは思ってもみなかった。あれは偶然の事故だったけど、さながらヴォルフは全身凶器と言ったところで、無辺の王の恐ろしさをまざまざと思い知らされた気分だった。次からは魔法の練習はヴォルフのいないところでするとしよう。
「ここはどこだろう……?」
アウラが不安げに辺りを見回した。森の中は薄暗く不気味に静まり返っていて、木々の間からかろうじて木漏れ日が地面に落ちていた。
「ちょっと待って。今調べるから」
私はメインメニューの開いて、目の前に浮かんだパネルにマップを表示した。
「ここはキエトの森だね。さっきいた場所から、それほど遠くには飛んでいないね」
「どれくらいの距離になるの?」
「約2キロってところかな」
ここはモエニフから東に2キロしか離れていない場所だった。これなら徒歩でも一時間あれば帰れる距離だった。
テレポート魔法とは言っても所詮は子どもが使う生活魔法で、そもそもそんなに遠くには飛ばせない。私は思ったより深刻な状況でなく安心した。
「せっかく森に来たし、山菜とか何か食べられそうなものがあったら採って帰ろう」
「うん」
私たちは気分を変えたくて、街へ戻るついでに森の散策と洒落込んだ。太陽の位置を見ながら、生い茂る草木を避けつつ西へ向かって歩いていった。するとその途中アウラがおもしろいものを見つけた。
「ニーナ、これ見て。キノコが生えてるよ」
「おお、本当だ。おっきくて立派なキノコだね」
木の根元にしいたけに似た形のキノコが生えていた。私は試しにそのひとつを摘んで、そっと鼻を近づけた。
「これおいしそうな匂いがするよ。焼いて食べたらいけるじゃないかな」
すっかり食べる気になった私たちは、キノコを片っ端から採っていった。アウラが被っていた帽子をカゴにして採ったキノコを入れていった。すると、みるみる帽子いっぱいになって、こぼれ落ちてしまいそうになった。
「ねえニーナ、すごい収穫だよ。まだあっちにも生えてるよ」
楽しくなった私たちは目につくキノコを採っていったけど、夢中になっているうちに行き先から外れていることに気づかなかった。
「今日の夕食はキノコ料理に決まりだね」
と、アウラが呑気にキノコに手を伸ばした時だった。どこからともなく飛んできた物体が彼女の腕に巻きついた。そのまま勢いよく引っ張られると、アウラの体が宙に浮いた。
「はぎゃあぁああああああああああ!!!!」
「アウラ!」
周りにはうねうねと触手のようなものが伸びていて、その根元にはアザミの花のようなトゲトゲしい本体が見えた。その生物は大きく口を開け、鋭い牙の間からちろちろと舌を出していた。
「しまった油断した。人食い植物だ!!」
「助けて、ニーナ!!」
アウラの抵抗も虚しく、四方八方から触手が何本も伸びてきて彼女の体に巻き付いた。ぬるぬるとアウラの太ももを這っていく。
「えっちぃ! そこはだめえぇええええ!!」
もう悩んでいる暇はなかった。私はアウラを助けるため攻撃魔法を発動した。
「アウラの操は私が守る! スローイング・ダガー!!」
私が飛ばしたダガーは正確に触手を貫いたけど、すぐに別の触手が現れてアウラの体に巻き付いていく。
「くそう! もういっちょ!!」
私は再びダガーを投げたけど何度やってもキリがなかった。私が攻めあぐねていると人食い植物が私にも襲いかかってきた。
「ニーナ! 後ろ!」
「しまった! はぎゃあぁああああああああ!!!!」
触手に足首を掴まれた私はそのまま引きずり込まれ、逆さ吊りにされてしまった。無数の触手が飛んできていやらしく私の体を這いずってくる。
このままアウラと同じように私は人食い植物に辱めを受けるのだろうか……。そんな嫌な予感に苛まれながらも、私は人食い植物に目一杯可愛こぶって言った。
「やめて〜、そこはらめえぇ〜!!」
すると、さっきまで私の下半身を狙っていた触手が急に向きを変え、私の鼻の穴に勢いよく突き刺さった。私はあまりの痛さに悲鳴を上げた。
「ふごぉおおおおおおおおおお!!!!」
何故なのか……。どうして私とアウラの扱いが違うのか。私は苦痛と悲しみが入り交じった声にならない声を出していた。
まさに絶体絶命のピンチだった。これではヴォルフを呼ぶこともできない。私がふがふがしながら意識を失いかけていると、突然男の叫び声が聞こえた。
「動くな! 今助けてやる!!」
男は人食い植物に弓で立ち向かっていた。彼が構える弓には矢が三本。それを同時に放つと、矢はカーブを描き次々に触手を撃ち抜いていった。
その腕前はまさに正確無比といったところで、私はその技を見て彼が卓越した技量を持つアーチャーだとわかった。
「さあ、こっちに来るんだ!」
男は私たちを触手から解放すると安全な場所に避難させてくれた。
「大丈夫だったかい?」
そう言って彼は頭に被っていたフートを取り払い、私たちに素顔を見せた。その面持ちは思わず見惚れてしまうほどの端正な顔立ちの色男だった。




