第36話 冒険者レベルが3になりました
ロワヌさんのサブクエストを終えた翌日。私はモエニフの街から少し離れた開けた場所で、アウラの悩みに付き合っていた。
レベル3に到達した彼女は新しい魔法を習得しようと、真剣な表情で魔導書を睨みつけていた。
「ジェットブラスト……、エアーメイス……、ウィンドウジャベリン……。うーん、どれにしようかなあ……」
アウラが悩むのも無理はなかった。レベル3からは習得できる魔法はバラエティに富み、見た目にもかっこいいものが増えるのだ。そこは魔法使いにとっては一種の到達点になっていた。
そんなアウラとは対照的にヴォルフはすやすやとお昼寝中だった。陽を浴びながら、ぽりぽりとお尻を掻いて気持ちよさそうに寝ていた。
せっかくだから私も何か魔法を覚えようと考えていたけど、レベル1の私が習得できる攻撃魔法はなかった。いや、ひとつあるとすればスローイング・ダガーの威力を上げることだけど、私はそんなことにジェムを使いたくなかった。
「やっぱり私には生活魔法しかないのよ……」
半ば諦めの境地にいた私の意思を読み取って、魔導書がパラパラとページをめくっていった。こんなしょぼい私にぴったりの生活魔法はあるのだろうかと、その行く末を見守っていた。
すると魔導書がとあるページを開いて見せた。そこには思いがけない魔法が載っていた。
「ランダムテレポート?」
それは対象年齢10歳以下の子どもが遊びで使う、いわゆるどっきり魔法だった。行き先が指定できない転送魔法で、どこに飛ばされるかわからないスリルを味わう魔法だった。これも生活魔法のひとつだった。
「私こんなのばっかだな」
ランダムテレポートは生活魔法の中でもMPの消費は高い部類だった。今の私なら一発が限度だ。
あまり使い勝手はよくないけれど、レベル1の私でもテレポートができるのなら試してみたい気もした。私は何の気なしにランダムテレポートを習得した。
「アウラ、もうそろそろ決めたら? そんなに悩んでも仕方ないよ」
「うん、わかってる。わかってるよ……。でもちょっと待って……」
アウラは苦悩の表情を浮かべ悩んでいた。まるで出口のない迷路に迷い込んでいるみたいだった。
「アウラが撃つ魔法なら何でもかっこいいよ。でも習得するなら厨二心をくすぐるような豪快なものがいいんじゃないかな。どかーんとド派手な魔法が」
そのアドバイスは私の個人的な意見だったけど、それがアウラの背中を押したようだ。彼女は悩みに悩んだ末、結論を出した。
「じゃあ……、ウィンドウジャベリンにしようかな……」
「おお、いいね。私もそれがいいと思う!」
ウィンドウジャベリンは空気で槍を実体化させ、敵に投射する風属性の攻撃魔法だった。それは威力も速度も抜群でエフェクトもかっこいい魔法だった。
アウラは魔導書に手をかざしウィンドウジャベリンを習得した。彼女の表情には満足感と高揚感が浮かんでいた。
私はアウラの成長を見ながら、冒険者はみんなこうして高みを目指していくのだと感慨に浸っていた。私の方は経験値獲得効率が悪いせいでいつまで経ってもレベル1のままだけど……。
「ねえアウラ、早速試し撃ちしてみたら。あの岩を標的にするのがいいよ」
私たちの視線の先に地面から突き出した大きな岩が見えていた。私はそれを指をさしてアウラにうながした。
実は私もアウラに負けず劣らずこの魔法に興味があった。実際にレベル3の攻撃魔法を見るのがはじめてだった私は、それがどんなものなのか楽しみにしていた。
「じゃあ、あの岩に撃ち込んでみるね」
アウラはおもむろに魔法の杖を持ち上げた。そして標的に向けて魔法を発動した。
「ウィンドウジャベリン!」
その瞬間、空気が渦を巻いて杖の先に集まってきた。それが鋭く尖った槍の形になると、炸裂音を伴って勢いよく放たれた。
けど、何故かそのウィンドウジャベリンは空高く上っていったかと思うと、くるりと向きを変えて、私の方へ飛んできた。
「何で!?」
私は咄嗟に身を屈めウィンドウジャベリンを避けた。すると紙一重というところで頭の上を通り越して行き、それが地面に着弾すると大きな爆発とともに土煙を上げた。
「ち、ちょっと、アウラ気をつけてね……」
「ごめんねニーナ。ちょっと手元が狂っちゃった……」
アウラは仕切り直してまた魔法を放った。
「ウィンドウジャベリン!」
すると今度は私の頭上から空気の槍が飛んできた。
「何でだよ!!」
ズドンと大きな音を立てて、まるで雨のように空から降ってきた。
「ウィンドウジャベリン!」
「何で私の方に飛んでくるのよ!」
「ウィンドウジャベリン!」
「いや、おかしいって! 意味わかんないって!!」
「ウィンドウジャベリン!」
「あばばばっ!!」
容赦なく放たれる攻撃を、私は必死にかわした。
「ウィンドウジャベリン!」「ウィンドウジャベリン!」「ウィンドウジャベリンン!」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってアウラ! 杖を下ろして!! 私死んじゃう!!」
私はアウラの腕にすがりつくようにして止めた。今でも自分が生きているのが不思議なくらいだった。
「ねえ、ニーナ。何故かまったく岩の方に飛んでいかないんだけれど……」
「いや、と言うか、まだ一発も前に飛んでないよ……」
私たちの辺りは穴ぼこだらけになっていた。どんだけノーコンなんだと私は戦慄した。
「ねえアウラ。魔法発動にはイメージが大事でしょ。いったん落ち着いて、あの岩に飛んでいくイメージをしてみようよ」
「わかった」
アウラが言うわかったが本当にわかったのか疑わしかった私は、少しはなれた場所にあった岩場に避難した。そこから頭だけ出して事態を見守ることにした。
アウラは真剣な表情を作った。この一発に全神経を集中していた。アウラはふうっと深い息を吐くと、目を閉じて魔法のイメージを頭に思い浮かべた。
そしておもむろに魔法の杖を岩に向けると、カッと目を見開き力強く魔法を唱えた。
「ウィンドウジャベリン!」
だが豪快に放たれたウインドウジャベリンは私たちの真後ろに飛んで行ってしまった。向かった先は気持ちよさそうに寝ていたヴォルフだった。
私たちははっとしてその行方を見つめていると、ウインドウジャベリンはヴォルフのお尻の辺りに命中してあっさりと弾かれてしまった。
「まあ、そりゃそうだ」
ヴォルフくらいの大物にレベル3の攻撃が通じるわけがなかった。硬い鱗で覆われた彼の体には強力な防御能力が備わっている。
でも私が安心したのもつかの間、ヴォルフに弾かれたウィンドウジャベリンが、くるっと向きを変え私たちの方に飛んで来た。
「やばい! あれは攻撃反射だ!!」
攻撃反射は攻撃を仕掛けた者に打ち返すヴォルフが持つ特殊スキルだった。そのウィンドジャベリンが狙うのは、当然魔法を放ったアウラだった。
「危ない! アウラ逃げて!!」
「ひいぃ!!」
アウラに回避する余裕はなかった。このままではアウラに当たってしまう。私は咄嗟にアウラのもとに駆け寄ると、無我夢中で魔法を発動した。
「ランダムテレポート!!!!」
私たちは魔法が放つ強い光に包まれた。




