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第33話 サブクエスト『大屋敷のお化けを退治しろ』

 ロワヌさんから依頼を受け、私たちはお化けが出るという屋敷に入った。中は広々とした3階建てで、ロビーに大階段が備え付けられた豪華さだった。

 それ以外にも屋敷には高価な調度品が置かれていて、私はきょろきょろと目移りしていた。

 まだ昼間とあって室内は明るく、とてもお化けが出てくる雰囲気はしなかった。


「すごい立派なお屋敷だね。素敵じゃない。私こういうところに来るのはじめてなんだよねえ」


 私は感心し通しで屋敷の中を見回していたけど、アウラは興味なさそうにしていた。


「ねえ、ニーナ。まさか今日ここで一晩過ごすつもりなの?」


「そうだよ。でももしお化けが現れなければもう一晩追加ってことになるね。それでもダメなら数日はここでお泊りだね」


 アウラはムスッとして口をつぐんでしまった。潤んだ瞳に怒りの感情が表れていた。


「ちょっと、そんな顔しないでよ。いつもの元気なアウラちゃんはどこへ行ったのかな〜」


「私がお化け苦手なの知ってるくせに……」


「そんなに睨まないでよ。これも大事なサブクエストだよ。アウラはやればできる子なんだから一緒にがんばろう。これは私たちが乗り超えなければならない冒険者の使命だよ」


 私の励ましにもアウラは暗い表情のままだった。彼女の体から闇属性成分が溢れ出していた。

 このままではとても夜までもたないだろう。最悪サブクエスト辞退もありえた。私は状況打開のため次の手に打って出た。


「アウラ、君は忘れていることはないかな?」


「忘れていること?」


「そう、君はもうすぐ冒険者レベル3になるんだよ」


 アウラははっとした表情を見せた。彼女の目が一瞬で光を取り戻した。


「レベル3になるってことは初心者から初級者に格上げになるんだよね。そうなったらかっこいい風属性魔法が習得できるんじゃないのかな? まあ、このサブクエストを達成させることが条件になるけど」


「そ、そうだった。私レベル3目前だったんだ……」


「ここで逃げたら、その経験値は手に入らなくなるよ。いいのかなあ〜、お預けになっても」


「う、ううっ……」


 アウラは悩ましげに爪を噛んでいた。彼女の気持ちが揺らいでいるのがわかった。私はこのタイミングを見計らって一気に畳み掛けた。


「あ〜そう言えば確か、打撃系のエアーメイスとか、投擲(とうてき)系のウインドウジャべリンとか使えるよね〜。あとは全体攻撃のジェットブラストとか。竜巻魔法よりもかっこよくて破壊力も上がるんだよね〜」


「うん、そう……。レベル3の風属性魔法はかっこいいのがたくさんあるの……」


「じゃあもう、やるしかないんじゃないのかなあ〜。これを逃したら次はいつのことになるのかわからないよ〜」


 しばし逡巡していたアウラだったけど、ついに決心がついたようだ。


「わかったよニーナ。私がんばる! このサブクエストでレベル3をゲットする!」


 アウラの魂に再び火がついた。彼女は拳を突き上げ息巻いた。


「よっ! さっすがアウラちゃん! 君こそ魔法界の風雲児だ! 期待してるよ!」


 私はアウラの勇姿にこれでもかと手を叩いておだて上げていた。





 数時間後。私たちはその日の夜を迎えた。屋敷は昼と打って変わって暗く静まり返っていた。

 そんな中、私たちは屋敷内を見回りながらお化けの出現を待っていたけど、まだ一回目の巡回を終えただけだというのに、アウラはすでにビビり散らかしていた。


「ふえぇ〜ん、もう帰りたいよ〜」


「昼間のやる気はどこに行ったんだよ」


「だって、広くて暗くて怖いもん。昼間と全然違うもん……」


 確かに屋敷の中は昼間とは違い怪しげな雰囲気が漂っていた。それにこの街が心霊スポットモエニフだということも手伝って、アウラを余計に怖がらせていた。


「ああ……絨毯怖い、ああ……カーテン怖い……」


「ただの絨毯だし、ただのカーテンだよ。ねえアウラ、そんなに怖がってたら何もできないよ」


「だってここお化け出るんでしょ。もうダメ絶対無理。全部お化けに見えるだもん。この屋敷の落ち着いた雰囲気と気品溢れるラグジュアリー感が怖いの……」


「そこ怖がるところじゃなでしょ。褒めるところでしょ」


 アウラのよくわからない恐怖の基準につっこみを入れつつ、私たちは巡回を続けた。その後もアウラは悲鳴を上げ続けて、階段が怖いとかドアノブが怖いとか私の顔が怖いとか目に入るものすべてを恐れていた。


 しまいには私の背中に頭を突きつけ、視界を遮り見回りを拒否する始末だった。鏡に映った私たちの姿はまるでケンタウロスに見えた。こんな状態でお化けを捕まえることができるのか私は不安だった。


「ねえ、ニーナ〜」


「ん? 何?」


「おしっこしたい。おしっこしたいぃ〜」


「ああ、トイレならこの廊下の先にあるよ」


「ひとりじゃ無理。ニーナ、一緒についてきて〜」


 アウラはまるで赤ちゃんだった。


「仕方ないなあ。じゃあ、いっしょに行くか」


 私はアウラとケンタウロス状態でトイレへ向かった。ふたりで燭台を手に暗い廊下を進んだ。二階のトイレは個室になっていた。


「アウラここだよ、早くトイレに行っトイレ」


「そんな寒いダジャレいらない」


 ぶつぶつと不満をこぼしながらアウラはトイレに入った。ドアを閉めると衣擦れの音をさせてトイレに腰掛けた。怖いのか終始怯えた声を上げていた。


「ねえ、近くにいてね。どこにもいかないでね……。ひとりにしないでね……」


「ずっとここにいるよ。大丈夫だから安心して」


 アウラが戻るのを待つ間、私はこのサブクエストをキャンセルしようと考えていた。アウラの精神も限界で、このまま無理強いすれば彼女の信頼を失ってしまう恐れもあった。

 無駄骨を折ってしまったけど今回ばかりは仕方がない。私はドア越しにそのことをアウラに伝えた。


「ねえアウラ聞いて」


「な、何……?」


「実はこのサブクエストはキャンセルしようと思うんだ」


「えっ、そうなの?」


「このまま続けてもアウラの身が持たないでしょ。それに私もちょっと考えが足らなかったと反省してるんだ。アウラのレベルアップは他のサブクエストに賭けよう」


「それはいい考えだ! それがいい! それがいいよ、そうしよう!」


 アウラの声が弾んでいた。


「ニーナはやっぱり優しいなあ。私のことを考えてくれているんだね」


「まあね」


 私はサブクエストをキャンセルしようとメインメニューを開いた。そして画面を操作して決定のボタンを押そうとした、その時。


 ふいに、私の耳に水の滴る音が聞こえてきた。一瞬アウラのおしっこの音かと思ったけどそうではなかった。


「もしかして、これは冥界の扉が開く合図……?」


 そう思った瞬間、私の目の前を何かが猛スピードで駆け抜けていった。それは白い影のような姿をしていて、壁からすり抜け現れたかと思うと、また壁の中に姿を眩ませた。

 その動きは素早くて一瞬の出来事だったけど、私は確信を持って叫んだ。


「アウラ、お化けが出たよ!」


「う、嘘!」


「こうなったらさっきの話はナシ! サブクエストは続行だよ!」


「ええぇええええ〜、何でだよぉおおおお〜。もう最悪ぅうううう〜!!」


 アウラはまるでこの世の終わりが来たかのように嘆いていた。

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