表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/84

第32話 ひとりぼっちの元貴族

 私たちはロワヌという人物を探し出さなくてはならなかった。これは昨晩オイデオイデされた元王女様からの依頼だった。その内容は会ってみるまでわからないけど、きっとサブクエストになるだろう。


 一夜明けると、モエニフを覆っていた霧はすっかり晴れ、昨日とは打って変わっていい天気に恵まれた。そのおかげでアウラの恐怖心も落ち着いたようだ。そんな彼女に今日の予定を告げた。


「今日はある人に会いに行こうと思うんだ」


「どんな人なの?」


「ロワヌって名のおじいさん。ロンテディアの元貴族らしいんだ」


「その人はニーナの知り合い?」


「ううん、そうじゃないの。でも約束があるから、とにかく会わないといけないんだ」


「約束?」


 アウラは不思議そうに首をかしげていたけど、私はそれ以上何も言わずはぐらかした。昨夜の心霊現象を持ち出せば、またアウラを怖がらせるのがオチだからだ。モエニフを出るまで元王女様との話は秘密にしておくことにした。


「じゃあ、さっそくロワヌさんを見つけ出そう!」


 私たちは街へ繰り出して道行くひとに尋ねて回った。私は骨の折れる仕事になると覚悟していたけど、意外にも有力な情報はすぐに入った。ロワヌさんは住民とはあまり親交はないけれど、街ではちょっとした有名人だった。


 私たちは手にした情報をもとに彼の家へと向かった。たどり着いたのは、とある大きな屋敷だった。


「ねえ、ニーナ。大きなお家だよ。ロワヌって人お金持ちなんだね」


「彼は国を追われたあと商人になったんだって。それにこの街に貢献した人物だって評判だよ」


 国外追放処分を受けたと聞いていたけど、モエニフでは有力者に上げられる人物になっていた。彼は裸一貫からここまでのし上がって来たのだろう。

 私もどんな人物なのか気になるところではあった。さっそく門扉越しに声をかけた。


「ロワヌさーん。いらっしゃいますかー」


 私は何度か呼びかけたけど反応はなかった。


「いないのかなあ……」


 私たちは一旦諦め屋敷の周囲を探った。すると屋敷の隣に一軒の離れ家らしい建物を見つけた。私たちがそこへ向かうと、ひとりの老人の姿が見えた。


「もしかしてロワヌさんですか?」


「そうだよ、私がロワヌだ」


 突然の訪問にもかかわらず彼は愛想よく、顔にたくさん皺を寄せて笑顔を作っていた。小柄で丸くなった背中を支えるように杖をついていたけど、それ以外は元気そうに見えた。

 彼はごく普通のおじいちゃんといった雰囲気だったけど、品があって元貴族だった面影が残っていた。


「私はニーナ。彼女はアウラ。何かお困りごとはない?」


「これは変わった客人だな。見ず知らずの私にそんなことを尋ねるなんて。まあ、外ではなんだ。中にお入りなさい」


 私たちはロワヌさんがいた離れ家に招かれた。室内は整理が行き届いてすっきりした印象だった。見回すかぎりはこぢんまりとした雰囲気だったけど、いくつかの肖像画が飾られているのに気づいた。


 ふたりで真ん中に置かれたテーブルにつくと、最初に尋ねたのはアウラだった。


「ご家族の絵なんですか?」


「ああ、そうだよ」


 肖像画には奥さんと息子さんと思われる人物と、飼っていた犬の姿が描かれていた。


「もう遠い昔の話だ。妻には先立たれてしまったよ。息子は家を出て行ったっきり。飼っていた犬も天国に旅立ったばかりだ。時の流れは残酷なものだな」


「じゃあ、今はひとりで暮らしてるんだね」


「そうだ」


「おひとりは寂しくないですか?」


「別に寂しくはないね。もう慣れたものさ。それに屋敷の管理や庭の手入れ、野鳥の餌やり、やることがたくさんあるんだよ」


 アウラの気遣いにロワヌさんは笑顔で答えた。 


「街の人たちはロワヌさんに感謝している人も多いみたいだよ。この街の功労者だって話をしていたよ」


「この街に来て30年だ。当時はモエニフのことを知る者は少なかった。かくゆう私もそのひとり。こんな美しく怪しげな街の存在を世の中に知ってもらいたくてね。いろいろと思案したよ」


「じゃあ、スタンプラリーをはじめたのはロワヌさんだったんだね」


「ああ、それも私の案だ。言わば街おこしだよ」


 ロワヌさんの話を聞いて、突然アウラがガタンと椅子を鳴らしてテーブルに身を乗り出した。


「あなたがあんな恐ろしいことを考えたんですか……」


「ちょっとアウラ! 何してるの!」


 私は恨めしそうにロワヌさんを見つめるアウラをたしなめた。ややこしくなる前に話を本題に移すことにする。


「今日ここに来た理由は、ロワヌさんが困ってるって話を聞いたからなんだ。何か私たちに手伝えることはない?」


「そんな話が街に出回っているとは驚きだ。いや、確かに困っていることがあるんだ」


「それはどういうものなの?」


「実は出るんだよ、お化けが。隣の屋敷にね」


「ひいっ!」


 アウラが悲鳴を上げ、体を震わせた。


「夜な夜な物騒な物音がして、とても住めたものじゃないんだ。だから私はこうして離れ家で暮らしているんだよ。この街は何かが出ることは珍しくないんだが、とにかく暴れまわる厄介な霊なんだ。息子が帰ってくるその時までに解決できればと思っていたんだが……。もし君たちが退治してくれるなら助かる」


「なるほど、それは困ったものだね」


 事情を知って私が頷くと、目の前にメインメニューが開いた。サブクエストを受けるかどうか尋ねていた。すると隣で聞いていたアウラが突然立ち上がった。


「そうですか、それは大変ですね。でも私たちには手にあまる問題だと思われますので申し訳ありませんが失礼します」


 アウラは深々と一礼をすると踵を返して出て行こうとした。私はアウラの服を引っ張って止めた。


「ちょっと勝手に話を終わらせないで!」


「だってえ、怖いもん……」


 アウラは子どもみたいにぐずっていたけど、私は構わず引き受けるつもりでいた。これは元王女様との大事な約束だからだ。


「ロワヌさん、その話私たちが引き受けるよ。その厄介な霊を何とかしてみせるから!」


「あーん。私モエニフ大嫌い!」


 アウラは苦し紛れにとんでもないことを言い放っていた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ