第28話 レアアイテムを貰いました
私たちはフォルトナに別れを告げ、ルルテリア湖を後にした。ヴォルフの背中に乗り飛び立つと、空から見た湖は来た時と変わらず美しかった。
振り返るとなかなか無茶なことをしたと私は反省していた。結果的にクエストは上手くいったけど、疲労困憊のフォルトナの姿を思い出すと、私は胸がチクリと痛んだ。彼女が今日のパーティーを楽しんでくれるのなら、私の気分も晴れるのだが。
私は後ろ髪を引かれつつ次の目的地へ向かっていた。すでに行き先を決めていた。
「次は心霊スポットのモエニフに行くよ」
「もしかしてそれってお化けとか出る感じ?」
「そうだよ。街全体がお化け屋敷みたいになっていて、有名な心霊スポットがたくさんあるんだよ。もしかしたら本物の幽霊に出会えるかも」
「私幽霊とかお化けとか、そういうの苦手なんだけど……」
アウラは不安そうに身を縮こまらせた。
「怖がらなくても大丈夫だよ。ちょっとした肝試し気分を味わえるって話だから。フォルトナに聞いたら、冒険者がお遊び感覚で行くんだって」
フォルトナの情報に寄れば、モエニフは心霊スポットを観光地化して全国から人を呼び込んでいるという。言わばお化けのテーマパークだ。
いったいどんな怪奇現象が起こるのか。それを確かめるにはモエニフに行ってみるしかない。
「ああそうだ。ところでさっきフォルトナさんからもらったレアアイテムって、いったい何だったの?」
「ああ、それね……」
私はリュックの中からそれを取り出した。
「これがレアアイテム『御伽の巻貝』だよ。これがあればいつでもどこでも好きな時に、フォルトナとお話ができるっていうアイテムなんだ……」
それは手のひらサイズの魔導具だった。見た目は菓子パンのコロネみたいな形をしていた。先っちょにアンテナみたいなトゲが生えていた。
「それのどこがレアなの?」
「それを私に聞かないで」
正直これをもらっても私はまったくうれしくなかった。実際のところフォルトナ自身が話し相手が欲しかっただけじゃないかと思えてならなかった。
「せっかく貰ったんだし試しに使ってみたら?」
「うん……、そうだね……」
正直言ってまったく気が進まないけど、アウラの言う通り、私も一度くらいは使わないと悪い気がしていた。
私はしぶしぶといった感じで、電話の受話器を持つように御伽の巻貝を耳に当てた。すると、トゥルルルっと発信音がして、すぐにフォルトナにつながった。
「あら、ニーナちゃん。さっそく呼び出してくれてうれしいわ。今すぐニーナちゃんの心と体を癒してあげたいところだけど、実はね、私今、婚活会場に来てるのよ。パーティーがあるって話していたでしょ。もうすぐ開始の時間なんだけど、もう参加者がたくさんいてびっくりしちゃった。会場の雰囲気はいいし食事はおいしいしでなかなかいい感じになっているわ」
「そ、そうなんだ……、婚活だったんだ……」
「もうはじまる前から熱気ムンムンで、みんな目がギラついちゃってるのよ。うふふっ。まあこればっかりは仕方ないんだけど……。あっ、そうだ。ニーナちゃんに誤解のないように先に言っておくけど、私はお友達の紹介で来ただけだからね。正直あまり気が向かなかったけど仕方なく参加したのよ。決してこのパーティーで結婚相手を見つけようなんてそんなことは考えてないのよ」
「ふーん……」
「ニーナちゃんに重要なことを教えておくわ。婚活は一日にして成らずって言葉があるのよ。これは普段の自己研鑽が重要って意味なの。私はその言葉通り日夜美しさに磨きをかけているんだけど、その甲斐あってフォルトナさん本当にお美しいわね、とか、いつまでも若々しいわね、とか、美魔女ですねって言われることもあるのよ。私は魔女じゃなくて精霊なのにね。うふふっ。だから出会いにがっついても逆効果になるだけなのよ。普段の心がけがあれば自分の魅力なんて自然と相手に伝わるものなの。決して背伸びしたり取り繕ったりしちゃダメなのよ、だから、……あっ!」
一瞬フォルトナが言葉を詰まらせた。しばらく間をおいて彼女は興奮気味に喋り出した。
「速報です! ただいまイケメンが入場してきました。しかも背が高くておしゃれなダンディです! これは奇跡よニーナちゃん! 婚活パーティーでイケメンが来ることなんてないんだから! ああ、もう行列が出来はじめてる。みんなそんなのずるいわよ。私も並びに行って来るから、ごめんねニーナちゃんばたばたしちゃって。この埋め合わせはいつかするからね、それじゃあ。あら、すごくカッコいいお方。私フォルトナと申します……、って、ちょっと何してるの、引っ張らないでよ! 今私が話しているんだから! ちょ、あ、足踏んでるから。い、痛い痛い、痛いってば。何でこんなにもみくちゃに……。ちょっと、あなたそこどきなさいよ! この人は私が先に手をつけたんだから! 私はこの婚活パーティーに勝負をかけて来てるのよ! もう後がないんだから! これ以上負けるわけにはいかないのよ!! あ〜もう、お願いだから私と結婚してぇええええええええええ!!!!」
フォルトナの絶叫とともに、ぶつりと通話が切れてしまった。私といっしょに横で聞いていたアウラもただ唖然としていた。
一体何を聞かされていたのだろうか……。私は今の心境を素直に言葉にしてみた。
「こんなレアアイテムは嫌だ!」




