第27話 サブクエスト『湖に落としたイヤリングを見つけろ』
私とアウラはルルテリア湖と対峙していた。今からこの広大な敵に立ち向かって行かなければならなかった。
フォルトナが落としたイヤリングは湖の底だ。果たしてそれをを見つける事ができるのだろうか。威勢良くサブクエストを了承した私をアウラは不安そうに見つめていた。
「ねえ、そんな安請け合いしていいの? 湖の底から小さなイヤリングを見つけるなんて簡単じゃないよ」
「心配はいらないよアウラ。実は私には秘策があるのだよ」
「秘策?」
私はアウラにその秘策を耳打ちした。それはアウラの協力なしにはできなかった。だけどその内容を聞いてアウラは信じられないといった表情だった。
「ちょっと、そんなことして大丈夫なの? 取り返しのつかないことになったりしない?」
「たぶん大丈夫だよ。てか、この方法じゃないととてもイヤリングなんて見つけられないよ。探査魔法で探すとしても、この広い湖の底にあるんじゃ時間がいくらあってもた足りないよ」
「たしかにそうだけど……」
「まあ、私に任せてよ」
私はアウラと打ち合わせを終え、フォルトナに準備が整ったことを伝えた。
「さあ、あなたたちでどうやってイヤリングを見つけてくれるのかしら。この湖の中から小さなイヤリングを探そうっていうのは、相当の魔力が必要になると思うけど、どうやって探すの?」
フォルトナの疑問に私は満を持して答えた。
「その方法は、この湖の水全部抜きます!」
一瞬キョトンとしたフォルトナは、我慢できず吹き出してしまった。
「あはははっ。まさかそんなことできるわけないでしょ。これだけの水量があるのよ」
「それができるのです。私たちにはヴォルフがいるのです」
私は胸を張って木陰で休んでいたヴォルフを紹介した。それでもフォルトナは首をかしげ、そのドラゴンがヴォルフだとはにわかに信じられない様子だった。
「どうして無辺の王がここにいるの? ヴォルフっていうのは無辺界にいるんじゃなかったの?」
「ヴォルフは私が特典でゲットしたレジェンダリーアイテムなんだよ」
「ちょっと言ってる意味がわかんないんだけど」
「とにかくヴォルフの力はすごいよ。山をも穿ち、海をも干上がらせるほど強大なんだから。この湖を干上がらせるくらい簡単だよ」
ヴォルフはおもむろに立ち上がると、その禍々しい巨体をフォルトナに見せつけた。そしてどすんどすんとこっちに歩いて来て彼女に挨拶代わりに鼻息をかけた。髪の毛をくしゃくしゃにしたフォルトナは呆然とヴォルフを見上げて言った。
「何だか嫌な予感がしてきたんだけど……」
「じゃあ早速作戦開始だよ。ヴォルフ、その力を思う存分見せつけちゃって!」
私の合図でヴォルフは上空に飛び上がり、湖のど真ん中に大きな水しぶきを上げ着地した。そして一発大きく吠え叫ぶと、湖面に向かって灼熱の炎を吐き出した。
その勢いは凄まじく、辺り一面真っ赤に染め上げていた。美しかったルルテリア湖は地獄絵図と化していた。
「いいよ、ヴォルフ。その調子だよ!」
「ちょっと何なのこれ。結構エグいことになってるんですけど。地獄みたいになってるんですけど……。ああ、壊れちゃう、私の憩いの場が壊れちゃう」
ぐつぐつと水蒸気が沸き上がり次第に水位が下がりはじめた。湖底がところどころ顔を覗かせ、真っ赤に焼けた岩が溶岩のように流れ出していた。ほぼすべての水が蒸発したところで、アウラが何かを見つけた。
「あっ! あそこに光ってるの何だろう」
キラリと小さく光るものが見えて、みんなの視線が集まった。その場所にフォルトナが駆け寄ると、彼女はそれをつまみ上げた。
「あったわ。蠱惑のイヤリングだわ!」
「やった! 作戦大成功だ!」
私とアウラは抱き合ってよろんだ。この難題を見事解決したのだ。私たちはつかの間勝利に浮かれていたけど、背中に刺すような視線を感じて我に返った。振り向くとフォルトナが死んだ目で訴えていた。
「ご、ごめん、ごめん。湖はちゃんと元通りにするから。そんなに睨まないで……」
私はフォルトナをなだめ、作戦を次の段階に進めた。干上がったルルテリア湖を元の姿に戻すのだ。
「よーっし、次はアウラの番だよ!」
さっき打ち合わせた通り、ここからはアウラの出番だった。彼女は魔法の杖をかかげ呪文を唱えた。これぞ魔法使いの真骨頂。私ははじめて生で見る魔法に興奮を憶えた。
「竜巻魔法!!」
アウラが放った竜巻魔法は天に届くほど巨大だった。その突風が辺りの水蒸気を巻き上げて、次第に分厚い雲を作りはじめた。
それが太陽を遮り黒い影を落としたかと思うと、突然バケツをひっくり返したような豪雨が湖に降り注いだ。
「ああ〜、びしょ濡れになる〜」
フォルトナを巻き添えにしながら雨が湖を潤していった。徐々に水位が上がりはじめ、美しい景色を取り戻していく。
私は魔法の力をまざまざと見せつけられた気分だった。その圧倒的な威力を目の当たりにして感動さえ憶えていた。そうこうしているうちに、景色は元通りの綺麗なルルテリア湖になっていた。
「何とか元に戻ったんじゃない。これでまたレクリレーションができるでしょ」
「そ、そうね……」
ずぶ濡れになったフォルトナがみすぼらしく見えた。髪もドレスもびしょびしょで、波打ち際に落ちている藻屑みたいだった。ちょっと心が痛んだ私は彼女に謝罪した。
「何か勢いで解決しちゃって、ごめん」
「い、いいのよ……。イヤリング見つかったんだし、これで万事オーケーよ……」
フォルトナの顔が引きつっていたけど一応納得してくれたようだ。すると私の眼の前にメインメニューが開いて、サブクエスト完了の表示が浮かび上がっていた。
大量のゴールドとジェムが空から降ってくると、それがいつものように私のリュックの中に吸い込まれていった。
「やったねニーナ。大成功だよ!」
「うん!」
アウラが私に飛びついてよろこんでいた。彼女にとってはこれがはじめて成功したクエストだった。
私も仲間と協力できたことがうれしくて、放心状態のフォルトナには悪いけど、ふたりでよろこびを爆発させていた。




