第25話 レッツ・アウトドア・クッキング
早速全員で夕食作りに取りかかった。私とアウラはエプロンをして気合いを入れた。
手元にある調味料は、あらかじめ街で買い揃えていたバターとニンニクと塩こしょうだった。これがあれば自ずと夕食のメニューは決まる。
「今日の夕食はロブスターのガーリックバター焼きにします!」
「うん、いいね」
私の提案にアウラもヴォルフも同意した。
「でもこんなに大きなもをどうやって味付けするの?」
「ふふーん。実は私には秘策があるのだよ」
私は魔導書を取り出して、お目当のページを開いた。チェック済みのその魔法はやはり生活魔法だった。私はアウラとヴォルフにそのページを開いて見せた。
「ここで使う生活魔法は『大盛り魔法』です!」
「大盛り魔法?」
「大盛り魔法はね、その名の通り料理を大盛りにしてくれる魔法だよ。今回は大きなロブスターの味付けに使うバターとニンニクの量を増やします!」
「なるほど、料理を増やす魔法を使って調味料を増やしちゃうのね」
「そう、これだけ大きなロブスターだもん。そのまま使ったらすぐになくなっちゃうでしょ。大盛り魔法を使えば少ない量でもたくさん使えて経済的でしょ」
私の案にアウラもヴォルフも頷いた。
「じゃあ、早速調理に取り掛かろう。ヴォルフにも手伝ってもらうからね」
重要なのはとにもかくにも圧倒的な火力だ。ここはヴォルフが持つ火炎能力に頼るしかない。彼は口から炎を吐いて見せ、私たちにやる気を見せた。
「よーし、調理開始だよ!」
私は真っ二つになったロブスターを引っ越し魔法で持ち上げた。身の部分を上にしてヴォルフに下から火で炙ってもらう。火力を上手く調節し殻を通して熱を加えていった。
「アウラ、ニンニクとバターの準備をして。まな板は私のリュックの中にあるから」
私はスローイング・ダガーを発動してダガーを手元で実体化させた。それをアウラに渡すと、彼女は器用にニンニクを細かく刻んでくれた。そしてバターもほんの少し切り取ると、私はそれに大盛り魔法をかけた。
「大盛りにな〜れ!」
すると、ニンニクとバターがむくむくとまな板の上で増えていった。ちょうどいい量になったところでアウラがそれをロブスターの身に乗せた。
それからほんの少し塩とこしょうを振って、仕上げにロブスターの身に焼き目をつける。
ヴォルフが上から炎を吹きかけると、溶けたバターとニンニクの香りが辺りに立ち込めた。私はタイミングを見計らい声を上げた。
「これでロブスターのガーリックバター焼きの完成で〜す!」
その出来栄えに私たちは目を輝かせた。ふつふつとロブスターの白い身が焼き上がっていた。
「ねえニーナ。すごい美味しそうに焼けてるよ」
「そうだね。早速食べてみよう!」
私たちは出来た料理をナイフで切り分け口に運んだ。プリプリっとしたロブスターの食感とガーリックバターとの相性は抜群で、口の中に甘みが広がっていった。
「う〜ん、最高!」
「ほっぺが落ちそう」
ヴォルフもロブスター料理を手を伸ばした。身の半分を手で掴むと、ぽいっと口の中に放り込んだ。豪快に殻のままボリボリと噛み砕いていた。
ヴォルフは柄にもなくうっとりとした表情を見せていた。その香りと風味を味わっていた。
「どう? ヴォルフ美味しい?」
ヴォルフはゴクリと飲み込むと、私たちに向けて親指を立てた。彼もその味に大満足のようだった。私たちも親指を立てて応えた。
「みんなで作ると美味しいね」
アウラの感想に私は幸せな気分で頷いた。
陽は沈んであっと言う間に夜になった。辺りは真っ暗らで空には満天の星空が広がっていた。私とアウラはヴォルフをソファー代わりにして毛布の中で寝転んでいた。
ヴォルフの体は思いのほか暖かく、気持ちがよくて私はうとうとしていた。そんな私にアウラが声をかけてきた。
「もう寝た?」
「んー、まだ起きてる……」
「すごく星が綺麗だよ」
「そうだね……」
私は重たい瞼を開いてちらりと空を見たけど、やっぱり睡魔には勝てずアウラを抱き枕代わりにしがみついた。
「もしかして、星々の囀りが聞こえたとか?」
「うん、聞こえたかも」
ほんの冗談のつもりで言ったのに、意外にもはっきりと返答され私は少し目が覚めた。
「何て聞こえたの?」
「私のこれからの旅がずっと楽しいものになるだろうって。パーティーメンバーに恵まれて幸せ者だって星が言ってる。私もそう思う。もしニーナに出会わなければ、私はいつまで経っても本物の旅ができなかったんだよ。きっと魔物と戦って、それで一生を終えてたかもしれない」
アウラは夜空を見上げながらしみじみと言った。
「世界には星の数ほど人がいるのに、出会えるのはほんの一握り。その出会いが運命を決めるなんて私には偶然とは思えないんだ」
「うん、そうかもね……」
私は眠気に襲われながらアウラに同意した。だって私はゲーム転生者だ。こんな事が起きるなんてただの偶然とも思えなかった。
そしてヴォルフやアウラを仲間にできたこともラッキーとしか言いようがなかった。彼らとこんな楽しい旅ができるなんて、私はつくづく幸せ者だと思った。
今にも寝入りそうな私の顔をアウラは訝しげに覗いてきた。
「ねえ、ニーナがたまに言う、ゲームとかレジェンダリーアイテムとかってどういう意味なの? ニーナはこの世界の秘密を知っているの?」
「ん〜、説明するのは難しいな……」
「もしかしてこの世界がゲームか何かだと思ってるの?」
「うん、そうだよ。この世界はRPGなんだよ」
「全然わかんない。私はこの世界でどういう存在なの?」
「アウラはねえ……」
私は少しの間考えを巡らせて、いたずらっぽく答えた。
「アウラは美少女NPCだよ」
「またそんな訳のわからないこと言って」
アウラは不満げに頬を膨らませたけど、私はそんな彼女のかわらしさに癒された。また明日も変わらず旅ができれないいなと思いつつ、私は深い眠りに落ちていった。




