第24話 キャンプ開始
暗くなるまであまり時間がなかった。それまでに急いで食料の確保をしなければならなかった。
こんな時に役に立つのはやはり魔道具だ。私は自分のリュックの中からそれを取り出すと、ジャジャーンと大げさに声に出してアウラに見せつけた。
「私のおすすめアイテムは釣り竿です!」
「釣り? まさか今からお魚釣るの? 時間ないのに……」
「実はこの釣り竿には魚をおびき寄せる魔法がついているんだよ。いわば時短機能があるってことね。それに耐久値もアップしているから大物も狙えるんだよ」
釣り針を見るとそれが紫色に光っていて魔法の効果を放っているのがわかった。どういう原理で魚が寄ってくるのかわからないけど、とにかくこれを使ってみたかった。
私はアウラと釣りがしたくて釣竿を二人分用意していた。あらかじめプレーノルドのお店で買い揃えていた。
「ちゃちゃっと大物を釣り上げてみますか」
早速湖のほとりでふたり並んで釣りをはじめた。やり方は竿を振って針を落とすだけ。あとは獲物がかかるまで待つのみだ。ヴォルフは少し離れた森の木陰で体を休めていた。
「釣れるといいなあ。私釣りははじめてなの。ニーナはどう?」
「私もはじめてだよ。でもビギナーズラックってのがあるからね。意外に大物釣っちゃうかもしれないよ」
と、私が威勢のいいことを言っていると、さっそく私の竿にアタリが出た。
「きた、きた、きた、きた!」
私はよろこび勇んで竿を引っ張った。いったいどんな獲物がかかったのか興奮して胸を躍らせていた。
けど釣り上げてみると、あろうことか針にかかっていたのは、藻屑が巻きついたぼろぼろの革のブーツだった。私の記念すべき獲物第一号は湖の底に眠っていたゴミだった。
「何だよ、しょっぱいなあ。本当に魔法効果があるのか心配になってくるよ……」
期待した爆釣の効果は発揮されても、ちゃんとしたものを釣り上げるのは難しいようだ。私ががっくりと肩を落としていると、今度はアウラの竿にアタリが出た。
「きた! 何かが食いついてる。すごい力で引っ張っていくよ!」
アウラの竿が今にも折れそうなくらいしなっていた。必死に踏ん張る彼女の体が斜めに傾いていた。
「がんばれアウラ。今日の夕飯は君にかかっているぞ!」
「んぐぐぐぐぐっ!」
アウラは歯を食いしばって獲物と格闘していたけど、彼女の華奢な体ではとても抗えきれなかった。次第にずるずると湖の方に引きずられていった。
「む、無理……、助けてニーナ」
「わかった!」
私はアウラの後ろに回り込み竿を掴むと、ふたりで力を合わせて引っ張った。それでも獲物の抵抗は凄まじく竿が左右に揺さぶられる。
少しでも気を抜くと一瞬で持っていかれそうになった。その手応えからかなりの大物であることは違いない。湖面に浮かび上がる大きな影がその証拠だった。
「絶対手を離しちゃダメだからね! せーので行くよ!」
「うん!」
「せーの!!!!」
私たちは息を合わせて竿を引いた。すると湖面から大きな水しぶきを上げ獲物が姿を現した。
ふわりと空中に浮かんだその生物は何と巨大なロブスターだった。予期せぬ怪物の登場に私たちは悲鳴を上げた。
「はぎゃあぁああああああああああ!!!!」
宙を舞う巨大ロブスターが勢い余って私たちの上に落ちて来た。このままではふたりとも押し潰されてしまう。私は咄嗟に魔法を発動した。
「スマートムービン、グゥウウウウ〜!!」
私は逆さまに落ちてきたロブスターを両手で受け止め担ぎ上げた。するとロブスターが尻尾をバタつかせて逃げようともがいた。暴れるロブスターを離さないように私も必死だった。
「こいつ、すごいバカ力だな。大人しくしろっての!」
でもロブスターは簡単には降参しなかった。両腕の大きなハサミを素早く動かして攻撃を仕掛けてきた。私の顔に目掛けてハサミを突き立てる。
「ニーナ気をつけて!」
「うわぁ、やばい。頭ちょん切られる! ひえぇええええ!!」
私の悲鳴を聞いてヴォルフが凄まじい勢いで飛び出してきた。彼が持つ鋭いかぎ爪が巨大ロブスターに一撃を加えた。
するとその瞬間ロブスターはぴくりとも動かなくなった。はさみをだらりと垂れ下げて大人しくなってしまった。
いったい何が起きたのかと不思議に思っていると、私の頭の上で巨大ロブスターが縦に真っ二つになって地面に落ちた。
「うわぁ! し、死んでる……」
分厚い殻に覆われているはずのロブスターが一刀両断にされていた。その切り口は鋭利な刃物で切ったように鮮やかだった。私はあらめてヴォルフの攻撃力の高さを思い知った。
「大丈夫? ニーナ」
「うん、大丈夫だよ。でも危なかった……。もうちょっとで殺されるところだったよ。ありがとうヴォルフ」
「グルルルゥウウウウ」
私は危機を脱し安堵した。と同時にこの大きな獲物を仕留めることができて、うれしさが込み上げてきた。
何といってもこれは高級食材のロブスターなのだ。思わぬ釣果に自然と顔がほころんだ。
「今日の晩御飯はご馳走になるね」
アウラがにっこりと微笑んで言った。




